異物論つづき。
物語は、3つのパートに分かれる。(異物による)発端、過程、解決である。
発端と解決のペアが、ジャンルを規定する。
「脚本を書きたいのだが、うまくいかない」人はよくいるが、
冒頭から書きはじめて、途中で挫折するケースが多い。
まずは発端と解決のペアを決める事をおすすめしたい。
「ラストは書きながら決めたい」「全てを踏まえないとラストが決まらない」
と思っているのなら、間違いなくラストにうまくたどり着けない。
結末を決めることは、自分の腹を決めること。
その第一関門が、まず難しい。
(本当に難しいのは、中盤だ、と経験を積めば分ってくるけど)
シド・フィールド以来、ハリウッド映画では三幕構造を基本にしている。
30分、60分、30分に120分をブロック分けし、それぞれACT 1、2、3と呼ぶ。
設定、展開、解決とか、セットアップ、デベロップ、ソリューションとか、
テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼなどと言う。
3つに分けることより、むしろ、
「ACT 1、2の終わりに、大きな事件やエピソードを置くこと」
の方が眼目。これを、第一、第二ターニングポイントという。
異物論的な三幕構造は、このようになる。
ACT 1(発端)
・AとBが、異物に出会う。
・その異物を除去し、日常へ戻る為、AとBは行動を起こす。
・異物の正体に関する手掛かりがわかるが、目的(異物除去)のためには、
大変な危険を伴う可能性がある。
Aは、冒険の旅を決意する。(第一ターニングポイント)
ACT 2(過程)
・いろいろある。(あとでくわしく)
・ついに、最後の関門にたどり着く。これを突破すれば、
当初の目的(異物除去)が果たされる。
自分の身をさらす必要のある、最後の危険だ。(第二ターニングポイント)
ACT 3(解決)
・直接対決など、一番の見せ場(クライマックス)。
・異物はついに除去された。A、Bは元の日常へ帰っていく。
・しかし、この冒険のおかげで、世界は少し変わったのだ。(変化)
最初の「赤い玉」の例で、二本ほど書いてみよう。
例1 異物=「赤いぶよぶよの玉」が、宇宙人の侵略の為の先兵であったとしよう。
「宇宙人の侵略は撃退された」という結末にすると、これはSF戦争ものになる。
ACT 1
・サラリーマンと主婦が、赤い玉に出会う。
・サラリーマンのかばんが吸いこまれ、警察を呼ぶ。
が、警官が赤い玉からのビームで撃ち殺される。赤い玉は消える。
・二人は事件の目撃者として、地下組織に連行される。
・ここは対宇宙人対策室であり、アポロが月に行ったときも「赤い玉」が目撃されていたことを知る。
・一方、街の上空に、巨大な赤い玉が出現。
街ごと吸いこまれてしまう。二人は、地下のため助かる。
・二人は、軍に協力を申し出る。(第一ターニングポイント)
ACT 2
・いろいろある。
・宇宙人の弱点が分る。サラリーマンが、遠隔でかばんの中のPCを起動させて判明。
(第二ターニングポイント)
ACT 3
・軍隊vs宇宙人。かばんが重要なキーアイテムになり、宇宙人は逃げてゆく。(クライマックス)
・二人は、元の日常に戻る。
・街は壊滅しているが、たぶん二人は結婚するだろう。(変化)
例2 異物=「赤い玉」が「異界からのメッセージ」だとする。
結末を、「異界からの帰還」とすると、これは異世界冒険ものになる。
ACT 1
・サラリーマンと主婦が、赤い玉に出会う。
・サラリーマンのかばんが吸いこまれる。
彼が手を伸ばすと、彼も吸いこまれる。主婦もまきぞえに。
・行った先は、異世界だった。かばんは小さな怪物に盗まれてゆくところを目撃。
・そこへ異界の者が来て、「あなたたちは伝説の勇者だ」と言われる。
悪の怪物に支配された王国が、異世界から勇者を呼びだしたのだ。
・王国の姫とは、10年以上前に行方不明になった、サラリーマンの初恋の人だった。
・主婦はバカらしい、帰りたいというが、家族達が転送されてきて怪物たちにさらわれる。
・二人は、家来を与えられ、怪物退治の旅に出ることになる。(第一ターニングポイント)
ACT 2
・いろいろある。
・最後の塔にたどりつく。いよいよ決戦だ。(第二ターニングポイント)
ACT 3
・大王を倒す。(クライマックス)
・サラリーマンはかばんを取り戻し、主婦は家族と再会。
・サラリーマンは姫と現実世界に戻ろうとするが、姫は断り、彼もここに残る事にする。
主婦たちだけが元の世界へ帰って来る。
・主婦は、今日も買い物を。あの赤い玉の場所に来るたび、誰かに話したくなるけど、
誰も信じないだろうなあ。あの事件で、家族の絆だけは強くなったけど。(変化)
物語を書くときは、このように、ACT 1と3を先におおまかにつくっておくとよい。
脚本を書きたい人は、ある場面や、キャラクターや、セリフや、設定や、シチュエーション、
あなたの言いたい事、テーマなどが先に浮かぶ事が多いだろう。浮かぶのは才能だ。
執筆前に、それらがどれだけ豊かに想像されていたかは、話の出来を左右するものになる。
だが、それらは表面的なことであり、「おはなし」の本質ではないのだ。
「おはなし」の本質はプロットだ。
面白いプロットは、シーンの温度感や、人物の個性や、役者の演技や、音楽や、
画面の色味やデザインなど、表面的なテイストに影響を受けない。
それらがどんなものであっても面白い話こそが、面白い話なのだ。
表面的なテイストは、面白い話を増幅する作用しか果たさない。
(昨今の、豪華キャストや莫大予算やCGなどをウリにする多くの映画やドラマが、
ことごとく面白くないのは何故か。面白いプロットがないからだ。
面白いプロットそのものより、表面的なテイストしか、制作委員会は理解できないらしい)
そして、面白いプロットの根幹は、「異物とAとB」なのだ。
(ほんとうに面白い話は、それだけでなく、テーマの深さや人物の掘り下げや、展開の妙
なども関係する。だが、それすらも、実は異物とAとBの中に内蔵するようにつくるのがコツ)
あなたが「おはなし」を書きたいのなら、発端と結末のペアを、
10でも20でも100でも書きだして、ストックしてゆくとよいだろう。
こうすることで、あなたが単にキャラクターや場面を書きたいデザイナーなのか、
「おはなし」を書きたいライターなのかが分って来る。
「おはなし」に興味がある人だけ、以下に進まれたい。
さて、「いろいろある」と省略したACT 2について、次回論じる。
例1、2でどのようなことがあるか、想像するのも訓練になるだろう。
「動くこと」が本質である、と予告しておく。
2013年07月22日
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