2013年07月22日

異物論(仮)3: 三幕構造

異物論つづき。

物語は、3つのパートに分かれる。(異物による)発端、過程、解決である。
発端と解決のペアが、ジャンルを規定する。

「脚本を書きたいのだが、うまくいかない」人はよくいるが、
冒頭から書きはじめて、途中で挫折するケースが多い。
まずは発端と解決のペアを決める事をおすすめしたい。
「ラストは書きながら決めたい」「全てを踏まえないとラストが決まらない」
と思っているのなら、間違いなくラストにうまくたどり着けない。
結末を決めることは、自分の腹を決めること。
その第一関門が、まず難しい。
(本当に難しいのは、中盤だ、と経験を積めば分ってくるけど)

シド・フィールド以来、ハリウッド映画では三幕構造を基本にしている。
30分、60分、30分に120分をブロック分けし、それぞれACT 1、2、3と呼ぶ。
設定、展開、解決とか、セットアップ、デベロップ、ソリューションとか、
テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼなどと言う。
3つに分けることより、むしろ、
「ACT 1、2の終わりに、大きな事件やエピソードを置くこと」
の方が眼目。これを、第一、第二ターニングポイントという。


異物論的な三幕構造は、このようになる。

ACT 1(発端)
・AとBが、異物に出会う。
・その異物を除去し、日常へ戻る為、AとBは行動を起こす。
・異物の正体に関する手掛かりがわかるが、目的(異物除去)のためには、
 大変な危険を伴う可能性がある。
 Aは、冒険の旅を決意する。(第一ターニングポイント)

ACT 2(過程)
・いろいろある。(あとでくわしく)
・ついに、最後の関門にたどり着く。これを突破すれば、
 当初の目的(異物除去)が果たされる。
 自分の身をさらす必要のある、最後の危険だ。(第二ターニングポイント)

ACT 3(解決)
・直接対決など、一番の見せ場(クライマックス)。
・異物はついに除去された。A、Bは元の日常へ帰っていく。
・しかし、この冒険のおかげで、世界は少し変わったのだ。(変化)


最初の「赤い玉」の例で、二本ほど書いてみよう。

例1 異物=「赤いぶよぶよの玉」が、宇宙人の侵略の為の先兵であったとしよう。
「宇宙人の侵略は撃退された」という結末にすると、これはSF戦争ものになる。

ACT 1
・サラリーマンと主婦が、赤い玉に出会う。
・サラリーマンのかばんが吸いこまれ、警察を呼ぶ。
 が、警官が赤い玉からのビームで撃ち殺される。赤い玉は消える。
・二人は事件の目撃者として、地下組織に連行される。
・ここは対宇宙人対策室であり、アポロが月に行ったときも「赤い玉」が目撃されていたことを知る。
・一方、街の上空に、巨大な赤い玉が出現。
 街ごと吸いこまれてしまう。二人は、地下のため助かる。
・二人は、軍に協力を申し出る。(第一ターニングポイント)

ACT 2
・いろいろある。
・宇宙人の弱点が分る。サラリーマンが、遠隔でかばんの中のPCを起動させて判明。
 (第二ターニングポイント)

ACT 3
・軍隊vs宇宙人。かばんが重要なキーアイテムになり、宇宙人は逃げてゆく。(クライマックス)
・二人は、元の日常に戻る。
・街は壊滅しているが、たぶん二人は結婚するだろう。(変化)


例2 異物=「赤い玉」が「異界からのメッセージ」だとする。
結末を、「異界からの帰還」とすると、これは異世界冒険ものになる。

ACT 1
・サラリーマンと主婦が、赤い玉に出会う。
・サラリーマンのかばんが吸いこまれる。
 彼が手を伸ばすと、彼も吸いこまれる。主婦もまきぞえに。
・行った先は、異世界だった。かばんは小さな怪物に盗まれてゆくところを目撃。
・そこへ異界の者が来て、「あなたたちは伝説の勇者だ」と言われる。
 悪の怪物に支配された王国が、異世界から勇者を呼びだしたのだ。
・王国の姫とは、10年以上前に行方不明になった、サラリーマンの初恋の人だった。
・主婦はバカらしい、帰りたいというが、家族達が転送されてきて怪物たちにさらわれる。
・二人は、家来を与えられ、怪物退治の旅に出ることになる。(第一ターニングポイント)

ACT 2
・いろいろある。
・最後の塔にたどりつく。いよいよ決戦だ。(第二ターニングポイント)

ACT 3
・大王を倒す。(クライマックス)
・サラリーマンはかばんを取り戻し、主婦は家族と再会。
・サラリーマンは姫と現実世界に戻ろうとするが、姫は断り、彼もここに残る事にする。
 主婦たちだけが元の世界へ帰って来る。
・主婦は、今日も買い物を。あの赤い玉の場所に来るたび、誰かに話したくなるけど、
 誰も信じないだろうなあ。あの事件で、家族の絆だけは強くなったけど。(変化)




物語を書くときは、このように、ACT 1と3を先におおまかにつくっておくとよい。

脚本を書きたい人は、ある場面や、キャラクターや、セリフや、設定や、シチュエーション、
あなたの言いたい事、テーマなどが先に浮かぶ事が多いだろう。浮かぶのは才能だ。
執筆前に、それらがどれだけ豊かに想像されていたかは、話の出来を左右するものになる。

だが、それらは表面的なことであり、「おはなし」の本質ではないのだ。
「おはなし」の本質はプロットだ。
面白いプロットは、シーンの温度感や、人物の個性や、役者の演技や、音楽や、
画面の色味やデザインなど、表面的なテイストに影響を受けない。
それらがどんなものであっても面白い話こそが、面白い話なのだ。
表面的なテイストは、面白い話を増幅する作用しか果たさない。
(昨今の、豪華キャストや莫大予算やCGなどをウリにする多くの映画やドラマが、
ことごとく面白くないのは何故か。面白いプロットがないからだ。
面白いプロットそのものより、表面的なテイストしか、制作委員会は理解できないらしい)

そして、面白いプロットの根幹は、「異物とAとB」なのだ。
(ほんとうに面白い話は、それだけでなく、テーマの深さや人物の掘り下げや、展開の妙
なども関係する。だが、それすらも、実は異物とAとBの中に内蔵するようにつくるのがコツ)
あなたが「おはなし」を書きたいのなら、発端と結末のペアを、
10でも20でも100でも書きだして、ストックしてゆくとよいだろう。
こうすることで、あなたが単にキャラクターや場面を書きたいデザイナーなのか、
「おはなし」を書きたいライターなのかが分って来る。
「おはなし」に興味がある人だけ、以下に進まれたい。

さて、「いろいろある」と省略したACT 2について、次回論じる。
例1、2でどのようなことがあるか、想像するのも訓練になるだろう。
「動くこと」が本質である、と予告しておく。
posted by おおおかとしひこ at 15:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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