あなたが物語に素人な、投資家だとしよう。
ある映画の脚本やプロットを見て、億単位の金を出し、黒字で回収しなければ首が飛ぶ。
投資する映画が面白い面白くないを、見極める自信はない。年に一本ぐらいは見る程度。
面白さなんて主観じゃないか。でもなぜヒットするものと失敗するものがあるのかが分らない。
製作担当者は、主演の人気、主題歌のバンドの人気、原作の人気、テレビ局のバックアップ
をあげて説得に来ている。脚本を読んだが、これが映画としてヒットするのかは皆目分からない。
そのとき、指針となる要素はなんだろう。
現在の映画ビジネスは、役者の人気や原作の人気を、投資金額に見合う担保にしている。
人気者をテレビで大量に宣伝すれば、その内容いかんに関わらず、劇場に人気者を見に行くだろう、
というビジネスモデルだ。
投資金額の回収は、ある程度見込めるだろう。失敗のリスクも大きくないだろう。
数字は、ある程度読める。
にも関わらず、この手の映画が、面白かった試しがあるだろうか。
人生を変える、文学たる物語であった試しがあるだろうか。
映画は、興行と同時に、作品である。
興行だけを投資の目的にするならば、数字で測れるものさしだけで金を張り続ければよい。
金を回し続けて太っていけばよい。
金はなんのためにあるのだろう。投資は、本来パトロンだ。
面白い映画をつくることに投資することが、投資の本来の目的のはずだ。
面白い映画こそが、映画ファンを生み、映画市場が成長する。
面白くない映画の量産は、映画ファンを不信にさせ、映画なんてみなくていいやとさせ、
映画市場を縮小させるだろう。
なんのために投資をするのか。
短期的に回収するのなら、今のビジネスモデルで市場を痩せさせ続ければいい。
ほんとうにこの業界を良くし、この市場を成長させ、豊かな実りを継続して得たいのなら、
面白い映画に投資し続けるべきである。
映画は、面白いか面白くないかが勝負だ。
そんなことは、分っている。
でもそれが分らないから、負けない要素に賭けてしまう。
もっと強気に、ほんとうの面白さについて、みんなが議論してもいいのに。
映画の面白さは、僕の説だが、次の6つに分類される。
1 ビジュアルの面白さ
2 主題のインパクト
3 リアリティ
4 人物の面白さ
5 ストーリーの面白さ
6 テーマの普遍性
これらが、すべてそろわない映画は、面白くない。
(ピンポイントで、カルト的人気を得る可能性はある)
そのチェックに使って欲しい。
書き手たちは、これを備えているかを、日々自分に問うべきだ。
1 ビジュアルの面白さ
見た目。
世界観とよばれ、「その世界が魅力的かどうか」が問われる。
ファンタジーや魔法世界、時代劇、中世ヨーロッパ、CG、などの派手なものから、
シリアスなドラマの世界観まで、世界のビジュアルは、まず魅力的かどうかの第一ポイントとなる。
ロケーション、セットデザイン、ガジェット、衣装、配色、トーンなどの具体で示される。
脚本家より、監督が重責を負うパートだが、脚本内に暗示されていることが必要である。
2 主題のインパクト
「人食い鮫が襲う」や「車がロボットに変身する」など、映画をひとことで言うとどういうことか、
というもの。コンセプト、ログラインとも呼ばれる。
派手なものから、地味でシリアスなものまで沢山ある。
これが、インパクトがあり、魅力的かどうかで決まる。
1と2を合わせて、ワンビジュアル、ワンシートと呼ばれることがあり、
多くはポスターやその映画のイコンとなる。
有名俳優が勢ぞろいして立っているだけのビジュアルは、主題を暗示していないので、
それはビジュアルデザインが悪いか、話がつまらないかのどちらかである。
これを見分ける方法がある。一語の動詞で示せるか、ということ。
物語とは動きである。その動きを示すのは動詞だ。
たたかう、助ける、救う、彼女のハートをゲットする、復讐する、潔白を晴らす、
見つける、などが代表的だ。
動詞で表現できないなら、先にのべた「アイドルとの暮らし」と同じだ。
動かない状況がつづく、平板でつまらない話しの可能性が高い。
3 リアリティ
物語とはウソである。いいウソでなければならない。
下手なウソは、矛盾したりしている。上手いウソは、無矛盾で、しかもリアリティがある。
ロボットが動くのはリアルじゃないからダメだ、ではない。
「ロボットが動く」ウソをひとつ認めたなら、「その世界の中では」他の全てがリアルである、
というのが正しいウソの付き方である。
結婚詐欺は、「僕があなたを愛している」ということだけが嘘で、
全てはそこから出発している。あとは全て真実のようなリアリティを持つ。
上手いウソとは、そのようなことだ。
これが欠けると、人物の行動に無理があったり、感情移入できなかったり、
人の気持ちの推移が自然でなかったり、話の展開がご都合主義になったりする。
こんなことあるわけがないよ、と「途中で」思うのは、世界内のリアリティが欠けている。
4 人物の面白さ
主役、脇役、敵役、ヒロインなど、重要な登場人物に、最低一人、魅力のある人物がいること。
出来ればその人物が最も多く出番があり、主役であること。
正義の味方だけが人間の魅力だと単純に思ってはいけない。
人間には影があり、悪もときには魅力である。矛盾があったり、欠点が魅力になることもある。
映画は漫画ではない。人間が演じるものだ。
人間の魅力を描けなくては人間がやる意味がない。
人間の魅力を描くのは、作家の第一の仕事である。
その人物が魅力的かどうかは、素人でも判断出来る。人生経験が深いほど、その判断は出来るだろう。
注意したいのは、有名俳優がやるから魅力的だと誤解してしまうことである。
たとえ(実力のある)無名俳優が演ったとしても、なおその人物が魅力的であるように、
脚本にその魅力が書かれている事が重要だ。
(逆に、面白くない映画は、そのタレントがタレントそのものとして出ている。
キムタクヤマトとか。あれはキムタクでしかない。古代進の魅力とは何で、
それがどう脚本に書かれていたか。なかった。)
ビジュアルのない、小説の登場人物の魅力を考えればわかる。
なぜ彼らはそれほど魅力的なのだろう。そのようなものが、脚本にあるべきである。
1-4はすべて、「静止した絵」について言及していることに注意されたい。
「設定」と呼ばれる、止まったものの表現である。
逆に、これらのどれが欠けても、面白い映画にはならない。最低条件といってもいい。
静止画ゆえ、紙の上にならべて検討することが可能だ。
素人は、これらが面白ければ面白いという誤った判断をすることが多い。
「目で見えること」「記憶に静止画で残ること」しか脳内で扱うのは難しいからだ。
多くの下手な映画報道では、ここまでしか言及されない。
「動き」を書いたり再現することが難しいからだ。
(たとえば、リメイク版「トロン」は、ここまでの要素はすべて面白かった。
ところが本編はどうだ? 眠くてたまらなかったではないか)
物語とは、動きの魅力である。ダンスや音楽や料理と同じだ。
どう動くかが物語だ。その魅力の要素が5、6である。次回につづく。
2013年08月09日
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