2013年08月14日

小説のススメ

昔書いた脚本のノベライズ経験を通して、色々発見した。
脚本の初心者には、ちいさい小説を書くことを、僕は強くすすめることにした。

理由はふたつある。
1 物語を書くこと自体にまず慣れるため。
2 脚本形式より、小説の形式のほうが、物語を書くには自由だから。
  (ぶっちゃけ、楽。脚本の方が制約の多い、難しい形式だと経験でわかった)

理由その1から。

シナリオの初心者がいきなり二時間の長編一本を書く(しかも傑作になる)のは、
ビギナーズラックでも難しいだろう。
仮にそこで幸運を使い果たしたとしても、プロは、次々に、何本も、
新作や傑作を書き続けていかねばならない。
偶然ものすごい一発を叩きだす芸術家のような生き方もあるので、否定はしないが、
何本も書き続けたいのなら、あなたは最初に慣れる必要がある、たったひとつのことがある。

それは、「物語をおわりまで書く」ということ。

完成させて、一本にする、ということが、実は初心者がつまづく第一歩である。
一本になった瞬間、それは完成形とみなされ、評価のまな板に上るということだ。
書く前に夢想していたあらゆるものがそこに入っていなくて、
思い通りの展開にならなくて、適当に終わったものでも、それは一本として評価される。
多くの人は、まだ完成していない、ということでこれらの恐怖を(無意識に)回避したがる。

まずあなたは、良くても悪くても、習作でも発表でも、何本も作品を持つべきだ。
野球選手が、生涯に何回スイングするだろう。
それが何回試合で振られるだろう。何回ボールが当たるだろう。
それを想像すればわかることだ。ホームランやヒットをうちたいなら、スイングするのだ。
スイングを途中までしかしたことのない人は、スイングとボールの関係を議論する資格はない。
童貞にセックスを語る資格はない。話はまずやってからだ。

あなたは今まで、何本のオリジナルストーリーを書いたことがあるだろうか。
長さは問わない。
CMのような小話、ショートフィルムのような短篇、ドラマ尺の中編、なんでもよい。
「完結させた本数」を答えてくれたまえ。
10を越えていなければ、あなたは初心者だ。
何の?

「作劇」という行為の、である。

魅力的な人物を描くこと、興味深い導入部、何が起こるか分からず展開に引き込まれる中盤、
オチに笑ったりやられたと思ったり感心したり泣いちゃうラスト、
できればどんでん返しであっと言わせたり、何か仕掛けがあったりするもの。
それらを自分の妄想で構想し、自分の文章で書き終える、という、
まず「作劇」という行為に、あなたは慣れなくてはいけない。

作劇がきちんとできるなら、シナリオの形式や小説の形式に慣れることは、
車の運転が出来る人が、左ハンドルの運転に慣れるようなものだ。
あなたは運転そのものが出来ないのに、左ハンドルに乗りたいと言っているかも知れないのだ。

作劇が無意識にできること。
物語を書くとき特有の、魅力的な導入に自分もわくわくしたり、気の利いたセリフを書けたときの
喜びを味わったり、途中の展開やラストにものすごく悩んだり、伏線の回収に悩んだ末、
鮮やかな解決を見出したり、ラストでうまく決めたり、全体的には微妙な出来だと反省したり、
そのようなことに、慣れる必要がある。

あらすじやハコ書きを書いて考えること。
人物を設定したり頭の中で動かしたり、セリフを書いたりすること。
実際に全部書いてみること。
観客の興味をミスリードして裏切ってあっと言わせること。
これらのようなことがまず出来なければ、長編シナリオなんてそもそも書けない。

習作に短いものを書くのはオススメだ。
3分、5分、10分、15分ものなどはよくある尺設定だ。
これらを10本書くのは、「経験を積む」ことには最適だ。
もう少し長いものは、小説で書いたほうがいいかも知れない。
もちろん、短い物語を小説で書いてもよい。
理由その2で述べるように、小説の方が、シナリオより楽なのである。

参考までに、ネットなどから拾った長さと文字数の関係の表を整理してみた。
シナリオの場合、標準形式という、原稿用紙1枚が1分に相当する書き方がある。
小説では、文字数か、原稿用紙換算枚数で長さを数える。
映画と小説の原稿枚数比較.pdf

これを見る限り、ショートフィルムを書くということは、
小説で言えばショートショートや短めの短篇を書くことに相当する。
逆に、長編映画のシナリオは、小説で言う中編程度の文字数しかない。
いわゆる小説、単行本一冊の文字数は、映画より圧倒的に多いのだ。
(これが小説の映画化がうまくいかない、主な理由)

どれだけ言を尽くしても、この表を見ればあきらかだ。
あなたは一本の長編をものにしたいのなら、これだけの文字を物理的に書くのだ。
写経ではない。
読む者をひきつけ、独自の展開をし、余韻のあるラストを持つ、記憶に残る、
新しい創造的な文章をだ。

作劇という基本が出来ていないと、商業単位である、長編は何本も書けないだろうことは、
容易に想像できるだろう。
(ちなみに今回の記事の文章量は、5枚分、約2000字)

これだけだと、作劇の習作なら、ショートフィルムシナリオで十分、という考えもある。
そこで理由その2。小説の方が、シナリオより「楽」なんだよ、という話。つづく。
posted by おおおかとしひこ at 17:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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