2013年08月30日

脚本の中の「退屈」を防ぐ方法(ガッチャマン批評6含む)

脚本を書いていると、どうも退屈になるポイントがある。
「ガッチャマン」でいえばオープニングアクションあけだ(ちなみにその後ラストまで退屈だが)。

脚本は、簡単に退屈になる。専門用語では「焦点が合わなくなる」と言う。
どうすればいいかというと、焦点を「絞れば」いい。
「焦点」というのは、物語中、「可及的速やかにしなければいけないこと」のことだ。
「ガッチャマン」を悪例に出すと、
オープニングアクションの焦点「キャタローラーの新宿上陸を阻止」が終わった直後、
焦点が合わなくなった、ということだ。
再び、焦点を絞って、面白さを続けていく(退屈を阻止する)には、どうすればよいだろう。


「可及的速やかにしなければいけないこと」が終わってしまったら、
次の「可及的速やかにしなければいけないこと」が出てくるまで退屈は続く。
しかも、「何故それをしなければならないか」という火急性がないと、
血流が上がらない。
ガッチャマンでは、そのあとの仮面パーティーの潜入任務の火急性が全く不明だった。
何故それをしなければならないか、
それをなしとげることで次にどうなるのか、
それを失敗すると何がやばいのか、
それが分っていないと、退屈になる。
(この映画の説明は本当に下手だった。説明台詞は、脚本講座では初級で戒められるものだ)

それがオープニングアクションに比べ、火急性がないから退屈になるのだ。
我々の上がったテンションが下がるから退屈になるのだ。

ガッチャマンのオープニングは、まず張り倒して引きこむという方法だ。
張り倒し型は、その直後が危険である。この脚本もその穴に落ちた。
張り倒し型は、実は素人でも出来る。すごい緊急事態をひとつぐらいは描けるからだ。
それは脚本力とは関係がない。

静かに立ち上げ、徐々に盛り上げてゆく物語を書く実力が本当の実力だ。
張り倒したあとは、その余熱を持ちつつ、徐々に盛り上げていくことが必要だからだ。
それが全く出来ていなく、ついに最初がピークというお粗末な脚本となった。
(次のピークは、バンプオブチキンの楽曲である)
要するに、脚本家はど素人だ。
オープニングアクションなしの話が、彼の実力である。


退屈を防ぐ方法は、簡単である。
「可及的速やかにしなければいけないこと」のハードルを、徐々に高めていくことだ。
パーティ潜入任務、
イリヤ拘束(たとえばここで戦闘になりバトルアクションを入れる)、
イリヤ脱走、
ジョー感染、
新宿IPO本部壊滅阻止(おそらくミッドポイント)、
衛星砲阻止(ラス立ち)
のように、徐々にハードルを上げていけばよいのである。

それぞれの焦点は、それぞれこのようになる。

誰にもばれないようにパーティに潜入する(※何故その必要があるかは、不明だが)
ギャラクターからの亡命者を安全に確保、本拠地の情報を聞きだす
本拠地の情報を持つイリヤを捕まえること
ジョーの感染を治すこと
IPO本部を守ること
世界5大都市の壊滅を阻止すること

ここに、ケンの人間ドラマを組み込み、ジョーのドラマを組み込めば、
それは人間を描いた映画になる。
物語の焦点Pが、彼らのドラマQの焦点と重なり合うようにすればよいだけだ。

彼らの人間ドラマQは、ACT 1で「感情移入」が行われている必要がある。
それにはケンの背負う物語、ジョーの背負う物語が面白くなければならないが。
ケンの劇的動機は何か、結局分らない。つまり、ケンには焦点がない。


焦点がぼやける問題は、なにもこの例だけでなく、そこら中の脚本で起こっている問題だ。
ただ、多くのプロは、なんとかして回復させる技を色々もっている。
この下手くそな素人脚本家は、何も出来なかっただけだ。

ちなみに、焦点があるものからあるものへ変更する瞬間を、「ターニングポイント」と言う。
三幕構成の脚本理論を知っている人には第一第二ターニングポイントとしてなじみがある言葉だが、
幕終わりの大ターニングポイントより、これは細かいレベルの話だ。

上の例でいえば、パーティ潜入からイリヤ確保へ目的(可及的速やかにやること)が変わる瞬間が、
ターニングポイントだ。

ここから僕の説だが、
「ターニングポイントが面白くなれば、退屈しない」。


最初のパーティ潜入がハラハラして、面白いシークエンスなのは当然であるとする。
(そしてそれは映画本編では出来てなかったので、ミッションインポッシブル並みに面白かったとしよう)
次へ焦点が変わるポイントが、ぞくぞくするほど面白ければ退屈ではない。
たとえば、
1ついに潜入を果たした。
2が、このパーティには人間だけでなく、人間に擬態した、亡命を察知したギャラクターが混じっている。
3彼らも亡命者イリヤを探しており、彼らに先に接触されれば最重要人物イリヤが殺されてしまう。
4戦闘が起これば、このパーティ内の世界の要人も危険にさらす。
5我々は何としてでもイリヤを彼らより先に確保しなければならない。

などである。
2-5は南部博士の指令でもよいし、ガッチャマン内の会話でも構わない。
4は世界の要人を上手く絵で表現すれば説明台詞にならなくてすむ。
(上手い脚本家なら、全てをセリフなしで表現出来るかもしれない)

そうすることで、次の焦点「イリヤの確保」に新たな火急性を盛り込むのだ。
ハラハラは、そうやって持続させるものだ。


さあ、この無能な脚本家はどうであったか。
カットを変えただけだ。しかもケンを口説きたいジュンのつまらない会話だった。
何がこれから起こるのかわくわくもぞくぞくもしない、平凡なターニングポイントだった。
ここで、人は集中力を失い、何でこんなことやってるのかわからなくなり、
次にすべきことに興味が持てなくなるのである。つまり、退屈する。

退屈の反対は、緊張の持続である。


退屈を防ぐコツ。
まず焦点をはっきりさせ、火急性を高めて前のめりにさせる。
次の焦点へ行くターニングポイントを面白くする。
(刺激に人は慣れるので、徐々にそれをはげしく面白くしていくと良い)
以下くりかえし。

このPの可及的速やかにしなければならないことに、
うまく人間ドラマQを重ねて、Pの行方がQの行方にもなるようにしてゆけばよい。


映画がはじまって数分から10分くらいまでは、
最初の焦点が登場するまでは、この物語がどういう方向性か分からないので、
人は見守るものだ。
そこで、最初の焦点が面白くないなら、その映画はたいてい詰まらないダメ脚本である。
最初っからクライマックスなら、それが落ち着いた次の焦点が、最初の焦点と同じになる。


最初の焦点をまず面白くしよう。
話は、それからだ。
posted by おおおかとしひこ at 19:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
プログを見ました
Posted by ラブドール at 2021年09月16日 15:22
>ラブドールさん

「プログ」表記は、薙刀式使用者の誤打か、
日本語話者ではない可能性がありますね。
おそらく後者でしょう。
もっとそそる惹句を考えてください。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年09月16日 15:34
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