パシフィックリムの評価において、予算の規模を問題にしていないことに注意されたい。
静止画的な、ビジュアル表現(ロボット、コクピット、ハンガー、怪獣、
戦闘、海中、海上の表現)の予算規模の差は、どうしようもないことぐらい、みんな知っている。
それとは関係のない、「脚本」、すなわち「動き」という物語について、僕は言及している。
実際には、CGがこれだけ使えてこの世界が構築できるからこの話がいける、
ということもあるのだが、出来るだけ、そこに左右されない部分を論評しているつもりだ。
論点5「脚本技術の巧みさ」:
ハリウッド脚本の巧みなところに、
「その世界を認識するための、両極端なふたつを出し、それを選ばせる」
というのがあると思う。
第一ターニングポイントの、「どこで死ぬか選べ。(役に立たない、みじめな生活の)壁の中か、
(怪獣を倒せる、しかし引退した)イェーガーの中か」というセリフが好例だ。
この世界は、「黙って役に立たないまま死ぬ」のと、「希望に託して戦って死ぬ」のとの間にある。
両極端な例を出し、どちらが主人公の主張になるのか、を表現する。
(「マトリックス」の第一ターニングポイントでも、ほとんど同じ場面がある。
モーフィアスが主人公ネオに、赤い薬と青い薬を選ばせる場面だ。
青い薬は、今までの世界への疑念を忘れて、元の平凡な生活に戻る。赤い薬は、目覚める。
ネオは、赤い薬を飲む)
その直前、「グッドニュースとバッドニュースがある」(このセリフもよく聞く)場面もだ。
バッドニュースは壁の上で三人死んだ、グッドニュースはその三人分の仕事が空いた。
この壁の世界は危険なこと、主人公は危険でも飯にありつかなければいけないことを表現できている。
小道具による表現も秀逸である。
この場面で、三枚の赤いカードが持たれている。
抽象を、具体表現に置きかえているのだ。
モンスタークロックの使い方も上手い。
モンスターを倒したら再びセットされて、次回の戦いまでの時間を示す無限ループが、
ラストには「リセット」される。これで戦いからの解放と安堵を表現出来ている。
小道具は、余計な説明を必要としない、強力な「絵による表現」だ。
僕がよく例で出すのは、
「ある人の霊魂が、一時的にこの壺に入っている。壺を落として割ったら、
この魂は消えてしまう」と設定しておいて、
あとは壺と人物だけで、割れるか割れないかというコントをする例だ。
「誰かが(知らずに)誰かに投げて割れそうになるのを、必死で止める」芝居だけで、
霊魂とか説明しなくても、必死の意味が分る。
小道具の使い方のコツは、これが何を象徴するか分るように一度説明したら、
以後はその説明をせずに、その象徴として扱うことだ。
壺の例でいえば、その亡くなった人の奥さんが、大事にその壺を磨くだけで愛情が表現できる。
小道具の使い方で最も勉強になるのは、「アパートの鍵、貸します」(ビリー・ワイルダー)
であると個人的に思う。小道具の使い方のバリエーションの教科書だ。部屋すら小道具である。
翻って、ガッチャマンには、
このようなセリフの技術や、小道具の技術があっただろうか。
記憶にない。全部、説明台詞だった。だから退屈なのだ。
表面上でも、そのような技術で見せることだって出来た筈だ。
論点6「自分を描かない」:
主人公、司令官、ストライカーの親子、マコ、博士コンビ、
僕は「全てに脚本家がいる」と感じた。
登場人物は、全て作者の反映であり、投影である。
ただ、役割をたがえて大きなお話を動かしているだけである。
ジョーに脚本家はいたか。南部博士には。
ジュンやジンペイやリュウやナオミに、脚本家の投影はあったか。
ない。うすっぺらな、どっかから借りてきた設定と感情だ。
全員が、脚本家にとって「他人」なのだ。だから他人事のようにうすっぺらいのだ。
そしてケンは。「いちいち命令されず自由にやりたいんだもーん」という幼児だけがいた。
物語と人格と作者の関係は、
リムは、物語と人格を、すみずみまで作者が俯瞰し、コントロールしている。
ガッチャマンは、とりあえず他人の設定だけして、本音はケンの潜在願望。
どちらが面白い、パワフルな物語になるかは明らかであろう。
論点7「製作体制」:
予算もマーケットも方法論も違うものを簡単に比較は出来ないが、
リムは勝ち組の論理でつくって勝っていて、
ガッチャマンは負け組の論理でつくって負けている、
とだけ言及するにとどめておく。
勝ち組の論理は、今日本であるかなあ。
新たな勝ち組の論理をつくりたいのだが、どうすればいいのだろうね。
以下、僕と組みたい人はどうぞ、と営業してみる。
もし僕のガッチャマンのプロットが気にいった方、
いれば、デルトロに持ちこむエージェントになってくれませんか。
単なる通訳ではなく、業界用語に明るいことが前提です。僕は英語ができません。
報酬は、応相談。
2013年09月02日
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