祖母の葬式で、浄土真宗のお経を聞いた。ここ数年で聞く機会が多く、慣れてきた。
あれは、訳の分からない謎の呪文ではない。
歌だ。
死を前にして、芸能の力を借りて昇華するのが、人間の知恵なのではないか。
お経には、モンゴルのホーミーと似たような、
口のなかで倍音を同時に出してハモる発声法が、
多数含まれていると思った。
インドや中国やチベットのお経も、テレビで見た範囲では、
同じ発声法だと思う。
集団で唱えればそれは既に合唱だ。
倍音でハモりで増幅された音が、
ゴスペラーズのアカペラと同様の原理で場に響くのだ。
天上の調べが響くのだ。
ホーミーは、一人で低音と高音を同時に発する発声法だ。
谷啓の「ええ」の物真似が近いと昔探偵ナイトスクープで見て以来、
自分でも少々出来る。
モンゴルのホーミー合唱団を生で聞いた事がある。
ハモりによる音響効果が凄かった。
ハモりが何故あんなに心震えるのか僕は分からない。
ただ、ハモりは間違いなく、最も古い芸能のひとつだ。
お経は、一人ハモりの技術だ。
上手い下手がお経にあるのも、歌の上手下手と同じなのだ。
神父は歌が上手くないとなれないという。
讃美歌の上手さこそ神の調べの体現者たる、芸能の力が求められるのだ。
東西の差こそあれ、本質はおなじなのではないか。
はじめてお経の歌詞カードを見た。
正確には経文というのか、漢字の横に、記号のように上げたり下げたりフラットにしたり、
いわば音階のようなものが書いてあった。
元は中国語だから、四声の記号だったのかも知れない
(古代中国語だから、台湾のように六声やそれ以上かも)。
それがいつのまにか音程や節回しの記号に変化した名残だろう。
多少は漢文を読めるので、内容もある程度わかった。
オープニングとエンディングは、信仰の対象である阿弥陀如来が、
どれだけ凄いかの表現だった。
曰く、光が無辺に届くとか、インドから日本まで一瞬に来たとか、未来永劫光るとか。
これが歌に乗せられるということは、ほぼほぼヒーローソングだ。
スペックの羅列を歌に乗せるのは、ヒーローソングの一番盛り上がるところだ。
身長57メートル、体重550トン(コンバトラーV)、
心やさしラララ科学の子、10万馬力だ(アトム)、
すげえ光が端まで届く(阿弥陀仏)。
嗚呼すげえぜ(=南無)阿弥陀仏。
ナムアミダブツとは、ほぼ「嗚呼阿弥陀!」というサビだ。
後半、南無阿弥陀仏が繰り返されるのは、
ほぼCMの連呼ソングと同じである。
微妙に節を変えるテクニックも、上手いと思った。
ヒーローソングとは、出落ちである。
凄いスペックを羅列する静止画的網羅だ。
お経のオープニングとエンディングは、阿弥陀如来のヒーローソングだったのだ。
浄土真宗とは、絶対他力という人間以上の存在に任せることで、
ややこしいことには意味がない、全うに生きろ、あとは任せとけ、
という他力本願(他力=阿弥陀仏)が中心となる宗教だ。
これは高校日本史レベルの知識で、あとは詳しく知らなかった。
お経の本文に当たるところは、
人間なんて小さいから、正義や悪にたいして意味はない(親鸞の悪人正機に近い)、
阿弥陀がまとめて救うから大丈夫や、それより他人に親切にしたり、
先祖の苦労を忘れたりせず、ちゃんと生きようや、
だって人生の最後は阿弥陀が引き受けとるから(大意)
のような事が書いてあった。
これを歌という芸能にしたのがお経なのだなと思った。
浄土真宗関係のかた、間違ってたらすいません。漢文も分からない所多数ありました。
人は、死をどう理解していいか分からない。
死んだ人がどこへ行くのか分からない。
既に死んだ人がどこにいるのかも分からない。
自分が死んだらどうなるかも分からず、死んだあとの地球や宇宙がどうなるかも分からない。
何のために生があり、何のために死があるかも分からない。
何のために自分がいて、何のために神がいて、何のために宇宙があるかも分からない。
洋の東西を問わず、人の死に際して、これらの問いに答えようとしたのが宗教のはじまりだと思う。
幾多の時を経て、それは人の死に際して、
歌という芸能の力で思いを昇華する、そのようなものに収斂してきた。
芸能には、人の心を浄化する力がある。
ほんものの芸能には、そのような力がある。
人を集めて生で行われる何かには、芸能の神が宿る。
そこに芸能の神がいなければ、多くの人が集まる価値などないのだ。
我々は、物語というカタルシス装置を書く脚本家である。
それは、ほんものの芸能になりうるか。
気の引き締まる思いだ。
なお、大阪地方の浄土真宗本願寺派以外では、お経はこの限りではないかも。
去年の伯父の葬式が兵庫尼崎の日蓮宗だったけど、同じ芸能の神を感じた。
キリスト教の彼女に連れられたクリスマスイブのミサでは、ハモる聖歌隊や、
歌の上手い信徒を見た。
また、僕の漢文読解力や、宗教理解もたいしたことないかもです。
11/23追記:別件で調べ物をしてたら、こんなの見つけました。
http://www.youtube.com/watch?v=TbE5HtqU7us&list=PL3182F212DFF60837
服装から、チベット仏教と思われます。ホーミーの聖地ですな。
この低音、どうやって出すんだ。
2013年10月12日
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