現実の会話は置いといて、
物語の台詞の機能には、次のみっつがある。
1 ものごとを説明する台詞(説明台詞、設定台詞)
2 その人のキャラクターや強い感情を表す台詞
3 話を進行する台詞(決定、拒否、宣言など)
あなたの脚本の中で、これらの役割を果たしている部分に、
123を赤青黄としてアンダーラインを引いてみよ。
アンダーラインの引かれていない、白色台詞は、
物語に必要ない台詞だ。
ためしに全カットしてみよう。内容が殆ど変わらないことに気づくはずだ。
「うん」とか「あ!」などの感嘆詞は、うなづく、や驚く、
などの動詞(ト書き)に書き換えてみよう。
すると、驚くほど無駄な台詞を切ることが出来る。
お喋り女子高生のエクササイズの原稿、
現実の会話の文字おこし原稿で、これをやると、
殆どが白色台詞であることに気づくだろう。
もしあなたの会話劇が、殆ど白色台詞だとしたら、
そのシーンは、進行していないお喋りのようなシーンである。
話が停滞しているのだ。
意図的に話を停滞させている自覚があれば構わないが、
そうでない場合、そのシーンは無駄な場面である。
そのシーンは、アンダーライン台詞だけで再構成出来る事実に気づこう。
情緒面は今考慮に入れていない。話の進行だけで考えている。
もしそのシーンが全て白色台詞なら、そのシーンはカット出来る。
編集室でも、最初に切られる候補だ。
だってたるいんだもの。
そのシーンだけで見れば愛すべき時間であっても、
話の進行という大きな流れでは、間違いなく停滞になるからだ。
そして、次が奥義。
二色以上アンダーラインを引かれる台詞を書くこと。
ただの説明、ただの感情、ただの進行は、ただの台詞だ。
説明しながらも感情を示し、感情豊かに進行し、
説明が進行になり、感情で説明したら進行になっているようにする。
これが物語の練られた台詞というものだ。
下手な書き手は、単色の台詞しか書けない。
優れた書き手は、複数色の台詞を書く。
一行の台詞が、様々な役割を果たすように書く。
そしてそれを受けたリアクションがまた複数色になる。
こうなるように、複数の台詞をひとつに融合したり、
分離したりする。
これが濃い台詞劇であり、楽しむに値する台詞のやり取りである。
ここまできて、ようやく文学上の修辞法が生きてくる。
(比喩、対比、反復、倒置、七五調、掛詞、ダブルミーニングなどなど)
これが分かってくると、リアルなお喋りが、
いかに物語の台詞とかけ離れているかが分かるようになる。
殆ど動物が叫んでいるのと同じである。
生きた台詞は、しかもリアリティーを持たねばならない。
嘘臭くない、人間のリアクションで。
しかも優れた台詞は、短い。
そして優れた台詞は、テンポがよい。
台詞は奥が深い。一生のテーマだ。
まずあなたの書く台詞が、何色をしているか、チェックしてみてはどうだろう。
複数色になるように、複数の台詞を重ね合わせたり、
ニュアンスを変えてみてはどうだろう。
ちなみに、「風魔の小次郎第一話」冒頭シーンで検証してみよう。
1 説明を緑
2 人のなりや感情を赤
3 進行を青
1+2を黄色、2+3をマゼンタ、3+1をシアンで、
1+2+3をグレーで表示してみよう。
○中央アルプス、不動岳
険しい崖を踏み外す足。危うく崖から落ちそうになる。
付き人「うおっ!」
谷底へその瓦礫は落ちてゆく。その手を引きあげる蘭子。
付き人「本当にこんな所に人が住んでいるんですか?」
蘭子 「人じゃない。忍びさ。風魔の忍びの一族を連れて帰るまでは、
この柳生蘭子ともども、生きて帰れないと覚悟しな」
付き人「しかし…」
と、険しい山中に似つかぬ少女、小桃がかけてくる。
小桃 「あんちゃーん、こっちこっち!」
岩をぴょんぴょん飛び越える。その尋常ではない運動能力。
付き人「なんだあの子供…」
と、小次郎が木刀を振り回して走って来る。
小次郎「どこだどこだそいつはァ!」
付き人「(迫力におびえ)うっ」
小次郎「どこだどこだどこだどこだどこだ」
蘭子達を通りすぎる瞬間、ドップラー効果が起こる。
風が巻き起こる。
蘭子 「風…!?」
蘭子、慌てて二人の後をおう。
付き人 「ちょっと、蘭子さま!」
ベースは車田漫画の台詞だから、
ほとんどが強い感情で成り立っているのは流石だ。
白色台詞、つまり黒色で表示された「無駄な」台詞はひとつもないことに注意しよう。
物語開始冒頭部なので説明的なことが多いが、必ず感情や進行と同時の台詞となっている。
これがプロの台本である。
役者は、おそらく無意識にこれを読みとり、場面に応じて感情をコントロールしてゆくのだ。
付き人の台詞は、ほとんど赤、つまり感情を発しているだけ、ということに注目しよう。
彼は端役である。物語の進行に殆ど関係がない。主役と端役の関係は、台詞にも現れる。
赤青緑の単色より、それが重なった色の方が多いことに気づこう。
濃い脚本とは、こういうことだ。
感情や理屈や進行が、ないまぜに同時進行するのだ。
あなたの書く脚本がここまでのレベルに達しているかどうか、色分けをしてみよう。
線の引かれるものが少なく、あっても単色なら、とても薄い内容だろう。
書き直しがいがある。
2013年11月08日
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