2013年11月13日

演武と実戦

僕は格闘技、武術オタクでもあるが、
武道の型と実戦の話は、脚本に似ていると思ったので、その話。

空手の型は役に立つのか?
実戦であんな分かりやすい局面はない、
それよりも組み手ガンガンやって、
間合いとかタイミングとか戦略とか練習したほうが、
強くなれるのではないか?
という、よくある議論がある。

これは、脚本で例えれば、三幕とかターニングポイントなんてのは、
あんま意味ないから、ただなん十本もひたすら書いて覚えろ、
ということと同じだ。

実戦だけを重ねて強くなれるタイプの人は、それでよいと思う。
どこの世界でも天才はいる。
教えなくても最初から強くて、実戦で強くなっていくタイプだ。
空手や格闘技では、喧嘩が最初から強く、ガタイもよいタイプ。
脚本の世界では、最初から面白い話が書ける天性のストーリーテラー。
そういう人は、それでよい。

そうでない人の為に、型があり、理論がある。
そのやり方の方法論、上達の為の理論が、型なのだ。

型とは、複雑で多様な現実から、
ある局面を、分かりやすく切り取ったものだ。

相手が大振りのストレートを打ってきたら、
斜め前にステップインしながら左手で流し、
がら空きの中段に右拳を入れる、などの一連の動きを、
最初はゆっくり、次第に速く、次は間合いやタイミングを変えて、
次は相手を次々に変えて、距離や個性の違いにも対応出来るようにする(懸かり稽古)。
多少の微調整はあるものの、この型が生きるのは、
分かりやすく相手が右ストレートを打って来た時だけであり、
実戦での複雑な駆け引きのなかで、
そうそうこんな分かりやすい場面は来ない。

脚本でも同じである。
リアル世界は複雑で、ヒーローや悪役もいないし、
チャンスは都合よく来ないし、ドラマティックなシチュエーションが
転がってはいない。キャラが上手く分かれていたり、
タイミングはバラバラで、ものごとが奇跡的に上手くいく瞬間はない。
ドキュメンタリーの仕事をすれば分かるが、
分かりやすい絵を撮れることはほとんどない。
現実は不条理で、冷たく、カオスである。

そこに、武道の型のようなシチュエーションをつくるのが、
ストーリーテラーの最初の仕事なのだ。

武術でも、組み手の状況は複雑過ぎて、
局面を単純化する。大体こういうシチュエーションに局面を分け、
ノイズや紛れを除き、理想化されたシチュエーションとそのベストの対応の組みをつくる。
これが型である。

脚本においては、ドラマ的なシチュエーションや、
分かりやすいキャラ、理想化された段取りなどがそれに相当する。


型は意味がない訳ではない。
武道の型は、ドラマで言うところの、ベタなのだ。

ベタを知らなくても、脚本を書ける人もいる。
型を知らなくても、組み手最強の人もいる。

そうでない人は、型練習したほうが上達が早い。
型とは、その状況下での最も効率のいい方法の伝承だからだ。
ベタを馬鹿に出来ない。
ベタに笑い、ベタに感動する脚本を、あなたはきちんと書けるだろうか。
普通に面白い話だ。
大抵それらは、いくつかのポピュラーな型で構成される。

それが三幕構成であったり、どんでん返しという型のことである。


さて、天才型の喧嘩自慢は、いつか達人に捻られ、
自分のやり方が通用しなくなるときがくる。
その時、ようやく型や理論を学び出す。
型と組み手を並行して学んできた者が、ここで天才を追い抜く。
(型だけやってる人は論外。)

組み手の中で型の動きが出来る人が最強、とよく言われる。

これは本質を捉えていない。
複雑な実戦の中で、型のような単純化されたシチュエーションに、
状況を持っていくのが上手い、と捉えるべきである。
そのノウハウや、感性が、玄人の見所だ。
脚本でも、型に持っていけば自動的に面白くなる。
ヒロインのピンチに駆けつけるヒーロー、正体をあかすどんでん返し、
ヒーローと悪の直接対決、などなど、
その型にいかに持っていくかが勝負なのだ。

複雑な現実、単純化された型、現実を型へ誘導する、
これらのことが全て出来て、
型と実戦の関係が理解出来るのではないだろうか。


格闘家は、不調のとき、型を練るという。
自分の中にある型を一通り並べてみたり、
他人の型を抽出してみるのも、己を鍛えるやり方になるだろう。

武術と脚本は似ている。
毎回複雑な現実がある。最後は型通りになる。
そしてそれはリアルタイムで進むので、
計画にあまり意味はなく、体や手の動きが先に出るアドリブだ。
その動きは、本人すら予測出来ない無意識だ。
どういう意識で戦ったか、どういう意識で書いたかは、
それが終わったあとからしか分析出来ず、
次のシチュエーションにまるまる流用出来ない。
にも関わらず、鮮やかな結果は、複雑な現実を型通りにしたものだ。
posted by おおおかとしひこ at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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