削る方法論のひとつに、人物を減らす、というのがある。
複雑で分量の多くなった脚本は、削ることでシンプルになり、
分かりやすくなり、ぎちぎちに固められたものが緩くなって、
見る者の想像の余地のある話へと生まれ変わる。
上手くやれば。
シーンを切ったり、台詞を切ったり、設定を削るのはよくある。
人物を減らすのは、それらの中でも特に難しい。
ただ単に○○を脚本に登場させなくする、
だけでは、寂しく物足りなくなるだけなので、オススメではない。
人物を減らすことが出来るかどうかは、次のやり方が可能かどうかで判断する。
各主要人物について、
ストーリー上の役割をリストアップする。
この役割は、主人公とか敵とか、兄とか同郷とかの設定的なことではなく、
何をする人か、される人か、その人の身の上に何が起こるか、
という点で記述する。
その上で、どれかとどれかの役割を、同時にすることは可能かを模索するのである。
例をあげよう。
今書いているのは、妖怪退治ものだ。
主人公、悪い妖怪、犠牲者、良い妖怪が、主要人物だった。
主人公は、良い妖怪から力を与えられ、
悪い妖怪に取りつかれた犠牲者を救う、というのが基本骨格の話である。
主人公の説明、犠牲者の説明、
悪い妖怪がとりつく、主人公が気づく、悪い妖怪の性質、
良い妖怪から力を与えられる、力の性質、
その力で悪い妖怪を退治する、などの段取りが必要な話だ。
よくあるパターンなのだが、説明を多く必要とするタイプの妖怪のため、
もう少しシンプルにする方法はないかと模索していた。
悪い妖怪をシンプルにする、良い妖怪の数を減らす、
良い妖怪との契約を描かず最初から力を持った主人公とする、
などの工夫を試みていた。
ところが先日、主人公が犠牲者になる、というパターンを思いついた。
これで犠牲者の背景の説明、主人公が犠牲者にとりついたことを知る、
などの段取りを減らせ、犠牲者という主要人物を減らせる。
減らしたあとの話の骨格はこうだ。
主人公に悪い妖怪がとりつく。そこへ良い妖怪が現れ力を与える。
主人公はその力で退治する。
話がシンプルになり、主人公や悪い妖怪良い妖怪を、そのぶん豊かに描ける可能性が出来た。
主人公の元の話での役割は、
悪い妖怪に気づく、力を与えられる、悪い妖怪を退治する、である。
犠牲者の元の話での役割は、
悪い妖怪にとりつかれる、死にそうになる、悪い妖怪を払われる、である。
これがひとつに融合され、
悪い妖怪にとりつかれる、死にそうになる、力を与えられる、妖怪を退治する、になったのだ。
4人の主要人物が、3人に減らせたのだ。
基本プロットごと大きな変更となり、ほぼ全面書き直しだが、
四角関係が、主人公を挟んだ妖怪たち、という構造になり、
話が見やすくなったのである。
これは、単にシーンや台詞や人物を削るやり方では、到達しえない領域だ。
削るのは、物理的にではなく、このような創造的な削り方をしたほうが良い。
何故なら、単なる削りは、未練が残る後ろ向きだからだ。
創造的な削る改変は、削ることが前向きに働く。
2013年11月30日
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