2013年11月30日

人物の減らしかた

削る方法論のひとつに、人物を減らす、というのがある。

複雑で分量の多くなった脚本は、削ることでシンプルになり、
分かりやすくなり、ぎちぎちに固められたものが緩くなって、
見る者の想像の余地のある話へと生まれ変わる。
上手くやれば。

シーンを切ったり、台詞を切ったり、設定を削るのはよくある。
人物を減らすのは、それらの中でも特に難しい。

ただ単に○○を脚本に登場させなくする、
だけでは、寂しく物足りなくなるだけなので、オススメではない。

人物を減らすことが出来るかどうかは、次のやり方が可能かどうかで判断する。

各主要人物について、
ストーリー上の役割をリストアップする。
この役割は、主人公とか敵とか、兄とか同郷とかの設定的なことではなく、
何をする人か、される人か、その人の身の上に何が起こるか、
という点で記述する。

その上で、どれかとどれかの役割を、同時にすることは可能かを模索するのである。


例をあげよう。
今書いているのは、妖怪退治ものだ。
主人公、悪い妖怪、犠牲者、良い妖怪が、主要人物だった。

主人公は、良い妖怪から力を与えられ、
悪い妖怪に取りつかれた犠牲者を救う、というのが基本骨格の話である。

主人公の説明、犠牲者の説明、
悪い妖怪がとりつく、主人公が気づく、悪い妖怪の性質、
良い妖怪から力を与えられる、力の性質、
その力で悪い妖怪を退治する、などの段取りが必要な話だ。

よくあるパターンなのだが、説明を多く必要とするタイプの妖怪のため、
もう少しシンプルにする方法はないかと模索していた。

悪い妖怪をシンプルにする、良い妖怪の数を減らす、
良い妖怪との契約を描かず最初から力を持った主人公とする、
などの工夫を試みていた。

ところが先日、主人公が犠牲者になる、というパターンを思いついた。
これで犠牲者の背景の説明、主人公が犠牲者にとりついたことを知る、
などの段取りを減らせ、犠牲者という主要人物を減らせる。

減らしたあとの話の骨格はこうだ。
主人公に悪い妖怪がとりつく。そこへ良い妖怪が現れ力を与える。
主人公はその力で退治する。

話がシンプルになり、主人公や悪い妖怪良い妖怪を、そのぶん豊かに描ける可能性が出来た。

主人公の元の話での役割は、
悪い妖怪に気づく、力を与えられる、悪い妖怪を退治する、である。
犠牲者の元の話での役割は、
悪い妖怪にとりつかれる、死にそうになる、悪い妖怪を払われる、である。
これがひとつに融合され、
悪い妖怪にとりつかれる、死にそうになる、力を与えられる、妖怪を退治する、になったのだ。

4人の主要人物が、3人に減らせたのだ。
基本プロットごと大きな変更となり、ほぼ全面書き直しだが、
四角関係が、主人公を挟んだ妖怪たち、という構造になり、
話が見やすくなったのである。

これは、単にシーンや台詞や人物を削るやり方では、到達しえない領域だ。
削るのは、物理的にではなく、このような創造的な削り方をしたほうが良い。
何故なら、単なる削りは、未練が残る後ろ向きだからだ。
創造的な削る改変は、削ることが前向きに働く。
posted by おおおかとしひこ at 02:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック