音楽の世界に、メロ先、詞先という言葉がある。
メロディーを先につくってから、それにあわせて歌詞をつくるのと、
歌詞を先につくってから、それにあわせてメロディーをつくることだ。
これになぞらえぱ、映画は、
絵先と言葉先の二種類の作り方がある。
歌謡曲の時代は、詞先だった。
意味や世界やストーリーを作詞家が書いて、
作曲家がそれに合わせてメロディーを書いた。
映画にたとえれば、
台本を書いてから、撮影計画を立てるスタイルだ。
シンガーソングライターやニューミュージック流行後は、
メロ先が主流だ。
耳触りのよい、いいメロディーをつくってから、
それに言葉を乗せる。
僕は、実はこれが嫌いだ。
日本語の言葉の持つリズムが、メロディーと違うからだ。
七五調とまではいかなくとも、
言葉には認識の為のリズムがある。
メロ先のJ-POPは、言葉(歌詞世界、意味)を捨て、
ノリを取った。
だから、歌詞は応援歌か一方的な語りしかなくなり、
意味の世界を失い、衰退したと思う。
メロ先は、映画に例えれば、
撮りたい絵を決めて、それにストーリーを乗せることに近い。
脚本は、絵先か言葉先か。
絵先だと、無理矢理その絵を撮りたいだけだろ、
という無理のある話になりがちだ。
アクション映画によくあるパターンだ。
カメラマン出身監督のダメ映画(カメラマンではないが、
アートディレクター監督の世紀の糞映画「Flowers」など)も、
このパターンに陥りがちだ。
アクション映画ならまあ許せるが、
お話を見るタイプの映画では、しんどくなる。
必然性が大抵うまくいかない。
(デ・パルマ、キャメロン、キューブリックなど、
海外ではカメラマン出身の監督は案外成功例がある。
海外はDPシステムだから、ファインダーを覗かない。
このことが全体への客観性を保つことに寄与しているかも)
言葉先だと、じっくりと話を煮詰めることが出来る。
話だけに専念出来るから、
絶妙なトリックが仕掛けられ、こちらの都合で全てをコントロール出来る。
問題は、絵面が地味になるところだ。
どんなに面白くとも、地味に思われる。
もっとドカーンと来たい、と思われがちだ。
派手なドカーンやボカーンがないのは、映画として物足りないのだ。
例えば内田けんじの、
巧みなプロットだが派手な場面がない映画たちを思いだそう。
「運命じゃない人」から「鍵泥棒のメソッド」に至るまで、
話は練ってあっても、名場面を思い出せない。
即ち、イコンがないのだ。
さて、映画は絵先か言葉先か。
両輪、としか言いようがない。
どちらを先にはじめてもよいが、
完成したと言えるのは、
絵も言葉も出来たときしか、ない。
どちらかが足りていなければ、足りないものになる。
歌がメロディーと歌詞のマリアージュだとすれば、
映画は絵と言葉(ストーリーや台詞)のマリアージュなのだ。
僕はメロ先同様、
ドキュメントスタイルが嫌いである。
長回しをしてカメラをフリーで動かし、演者の生っぽいリアクションを拾うタイプ。
即興的演出と言えばカッコイイが、要するにノープランであり、
役者の「演ずる」技量を信頼していないことの証である。
リアルな芝居が出来ない役者か、役者からリアルを引き出せない無能監督の手法だと思う。
生で撮れたオイシイ所を繋いで、あとで意味をなす編集が出来ると思うのは、
編集をしたことがない素人だ。
例えば即興映画の「tokyo.sora」「好きだ、」の二本の糞映画を見るとよい。
いずれも石川寛監督である。
石川監督はCM監督としては、僕の尊敬する5人の一人に入る位素晴らしいのだが、
映画に関しては恐ろしくダメな人だった。
アドリブさせて長回しをし、その空気を撮るなどとふざけたことを二時間見させる。
そんな子供の思いつき程度で、練り込まれた作劇に勝てる訳がない。
アドリブというものは、所詮は「その場面」でのものでしかない。
その時の一瞬の気持ちでしかない。点である。
お話とは、再三言うが動きのことだ。一場面のことではなく全体を通した線の話だ。
それらをサブプロットも含めた複数の糸で練り上げるのが、脚本という行為である。
それを練らないのは、ストーリーの放棄と言ってよい。
ひたすら長回しをして、一瞬を切り取るという行定勲の演出法もヘドがでる。
その一瞬を起こすのが監督の技量であり、やるまで待つのは誰でも出来る。
監督とは、プロフェッショナルに奇跡を起こす仕事だ。
行定は、アマチュア演出でしかない。
絵先は、紡ぐ糸を持たない。
言葉先は、イコン、すなわち、記憶に残る絵のオリジナリティーを持てない。
卵と鶏の話ではないが、どちらが先でもないと思う。
同時に出てきたものこそ、名作足り得るものだと個人的に思う。
僕はたまに作詞作曲をするが、同時に出てくる。
脚本も同じでありたい。
2013年12月12日
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