2013年12月12日

オバQ初アニメ化にあった話

昭和40年代ぐらいの議論だが、
オバQの初アニメ化のとき、
「四畳半のような庶民の汚いものを、公共の電波に乗せてよいのか?
もっと豪華な洋館の応接間のような家を舞台にするべきでは?」
という議論が本気であったらしい。

このエピソードは、「他人に見せるとはどういうことか」
にまつわる、日本人の問題点を指摘する。

昔、古い味のある蕎麦屋さんでロケをしたとき、
下見の段階で、前掛けをかけた仕事中の御主人が、味のあるいい感じだったので、
ロケ隊が来るときにちらりとご出演願えないか、と頼んだことがある。
ロケ当日、出てきた御主人は、スーツを着て、美容院で整えた髪型だった。
普段の蕎麦屋のおっちゃんがよかったのに、
御主人は「よそいき」の姿でカメラの前に現れたのだ。

授業参観で、昔母親がスーツ的なものを着て、物凄い厚化粧して、
デカイ光り物をつけてきて、周囲の母親も似たような競いあいをしていた。

どの例も、
よそいきと、普段のリアルとのギャップの話だ。


人が人を、どう応接するべきか、
という話かも知れない。
僕の人間性もあるかも知れないが、
ホテルや服屋のコンシェルジュ的な人が、
かしこまってきちんとしているのは、嫌いだ。
僕は誰でもない機能としてのコンシェルジュとは話したくない。
その人の人間性と話がしたい。
スーツ姿の営業も嫌いである。
スーツを着ることは、中身の人間をいったん捨てて、
外側だけの会社代表になることだからだ。
そんなことより、お前はどう思っているんだい、
そんな本音を聞きたい。


オバQが汚い庶民の四畳半でドタバタするのは、
この世界の地続きの庶民のドラマだからだ。
嘘偽りのない、我々庶民の世界を描くからだ。
これが金持ちの洋館のかしこまったところや、
前掛けでなくスーツを着たり、美容院に毎回行っている髪型では、
我々と地続きではなくなる。

エンターテイメントの世界では、
古典的にはよそいきがもてはやされてきた。
姫や、王宮や、貴族に、価値があり、
我々庶民には価値がないという、原始的な価値観である。
テレビはそのような価値あるものを流すべきだ、
というのが、昭和40年代の価値観であったのだ。

いまだに、テレビCMの世界では、
この価値観がふと顔を出すことがある。
企業の活動であるから、きちんとスーツを着て、
後ろ指さされない、ホテルのコンシェルジュのような他人行儀の、
よそいきでなければならないのではないか、という強迫観念だ。
果たしてそれは、唯一の正解だろうか。

我々庶民は、そんなものを見たら、
オバQが豪奢な宮殿で行われるドラマのような、
蕎麦屋の主人がスーツ姿で蕎麦屋にいるような、
こちら側に降りてきていない距離を感じるのではないか。

勿論扱うテーマにもよるだろうが、
スーツ姿のテーマより、
普段着で四畳半のテーマのほうが、身近に感じるのは当たり前である。

人の心には、スーツ姿で入るより、
多少汚くとも、普段着で庶民と同じ目線で語るべきではないか。
それでいて、キッチリするべきところではキッチリする、
というのがテレビという距離感ではないだろうか。

あなたは、人を応接するとき、
どのような格好で、どのような深さで、どのような心でいるのか。
その基本スタンスの話だ。
かしこまり過ぎても、相手と違い過ぎても、それは深い心の繋がりにはならない。
同じ目線を共有しつつ、互いの立場をわきまえるのが、
理想ではないか。
いや、そんなことは分かってるはずなのに、
なぜ蕎麦屋の主人がスーツを着て、
オバQで四畳半を隠そうとするのか。

つまり、隠したいのだ。
スーツは、本音を隠す道具なのだ。
それは、スーツを見るがわに伝わる。
こいつ、隠してるぞと。


見る側からは明らかに分かるのに、
表現する側に立つと、急にこのことが分からなくなるのは、
表現者としては、初心者である。
とくに、日本人は、一人ならそう判断するのに、
集団で判断すると、周囲に気を遣って、遠慮した正解を選びがちである。

最近のCMは、どうもそのような初心者(集団)が増えたようだ。
(バブル時代に金で誤魔化してきて、本当の表現はどうあるべきか考えず、
予算がなくなって、貧する者が鈍しているだけかも知れないが)


あなたの表現は、どの立場か。
よそいきで何かを隠してるのか、庶民の目線か。
醜いものを見せて嫌われてるのか、それともそれ故好感を持たれているのか。
あなた自身が、世間との距離感をはかるべきだ。
あなたが、世間をどう応接するか、その距離感を決めるべきだ。
posted by おおおかとしひこ at 12:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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