2013年12月22日

ドラムは、弱く叩く

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」という、
ジャマイカのミュージシャンを追っかけたオシャレドキュメント映画がある。
渋谷シネマライズで見たが、忘れられない台詞がひとつだけあって、
じいさんのドラマーが、
「ドラムを強く叩ける奴は一杯いる。弱く叩ける奴は少ない」
というシーンだ。

特に若い人なら、
全力のパフォーマンスを見せようと躍起になる筈だ。
全てのパートに自分自身の魂を塗り込め、
全身全霊で素晴らしいものを届け、
絶賛されたいとイメージするものだ。

それが暑苦しく、休む暇がない、
とこのじいさんは言う。

愛の告白で全力を尽くす、暑苦しい松岡修三を思い浮かべよう。
その思いの丈は分かるが、ちょっと待ってくれ、
と告白される側なら思う筈だ。

ちょっといいかも、と思っていたとしても、
そんなに隙間なく脂を詰め込まれたら、
もういいです、となる可能性が高い。


表現はコミュニケーションである、と言われるのはこのことだ。
相手の状態を考えず、一方的にぶちまけるのは、
コミュニケーションとしては二流である。

モテ男は、相手に一方的に話さない。
相手の話を聞いたり、コミュニケーションを取りながら、
話をある方向へもって行く。
モテナイ男は、制限時間内に詰め込めるだけ詰め込んで、
ドン引きされて終わる。
モテナイ男は、自信がない。
自信がないから、認めてもらおうとして、自分のマックスを出そうとする。
コミュニケーションの目的が、認めてもらいたいになっている。
そうではない。
映画を見せる目的はなんだろう。
映画を見る目的はなんだろう。
監督スゲーでは、決してない筈だ。

強いドラムは、スゲーを見せているだけだ。
弱いドラムは、探る意味がある。
今日はどんなコンディションだい?
今日はどこから来たの?
あったまってきたかい?
そろそろ強いドラムでしびれさせてやるけど、準備はいいかい?
まだ準備が出来てなさそうだな、中位の強さで楽しませてやろうか。

強いドラムは、
カリフォルニアのエロだ。
金髪のボインちゃんが、チアガールの格好で、
パンツ丸見えで臨戦態勢でガッツリ誘惑してくる。
お腹一杯で、こちらが割り込む隙がない。
弱いドラムは、
人妻の午後だ。
後れ毛が色気があって、緩い服装から色々見えそうで見えなくて、
誘っているのか誘っていないのか分からない。
が、こちらを見る瞳だけ濡れている。
ついつい、その秘密を知りたくなり、前のめりになる。

弱いドラムだけで終わったら、
それはそれで欲求不満になる。
弱いドラムから強いドラムへのかけあがりこそが、
我々が求めているものである。


今、強いドラムなのか、弱いドラムなのかは、
自覚できたほうがいい。
自覚しながら、グルーヴをつくってゆくとよい。
「全編クライマックス」や「ジェットコースタームービー」
なんてのは只の宣伝文句だ。
松岡修三がモテナイ男の告白を二時間するような映画が、
面白いわけがない。


ちなみに今つくっているCMは、だいぶ弱いドラムを叩いている。
意外と好評で、こちらとしては欲求不満であるが、
たまにはそういうのもいいかもだ。
俺も、じいさんの言ってたことが多少分かるようになったものだ。
posted by おおおかとしひこ at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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