「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」という、
ジャマイカのミュージシャンを追っかけたオシャレドキュメント映画がある。
渋谷シネマライズで見たが、忘れられない台詞がひとつだけあって、
じいさんのドラマーが、
「ドラムを強く叩ける奴は一杯いる。弱く叩ける奴は少ない」
というシーンだ。
特に若い人なら、
全力のパフォーマンスを見せようと躍起になる筈だ。
全てのパートに自分自身の魂を塗り込め、
全身全霊で素晴らしいものを届け、
絶賛されたいとイメージするものだ。
それが暑苦しく、休む暇がない、
とこのじいさんは言う。
愛の告白で全力を尽くす、暑苦しい松岡修三を思い浮かべよう。
その思いの丈は分かるが、ちょっと待ってくれ、
と告白される側なら思う筈だ。
ちょっといいかも、と思っていたとしても、
そんなに隙間なく脂を詰め込まれたら、
もういいです、となる可能性が高い。
表現はコミュニケーションである、と言われるのはこのことだ。
相手の状態を考えず、一方的にぶちまけるのは、
コミュニケーションとしては二流である。
モテ男は、相手に一方的に話さない。
相手の話を聞いたり、コミュニケーションを取りながら、
話をある方向へもって行く。
モテナイ男は、制限時間内に詰め込めるだけ詰め込んで、
ドン引きされて終わる。
モテナイ男は、自信がない。
自信がないから、認めてもらおうとして、自分のマックスを出そうとする。
コミュニケーションの目的が、認めてもらいたいになっている。
そうではない。
映画を見せる目的はなんだろう。
映画を見る目的はなんだろう。
監督スゲーでは、決してない筈だ。
強いドラムは、スゲーを見せているだけだ。
弱いドラムは、探る意味がある。
今日はどんなコンディションだい?
今日はどこから来たの?
あったまってきたかい?
そろそろ強いドラムでしびれさせてやるけど、準備はいいかい?
まだ準備が出来てなさそうだな、中位の強さで楽しませてやろうか。
強いドラムは、
カリフォルニアのエロだ。
金髪のボインちゃんが、チアガールの格好で、
パンツ丸見えで臨戦態勢でガッツリ誘惑してくる。
お腹一杯で、こちらが割り込む隙がない。
弱いドラムは、
人妻の午後だ。
後れ毛が色気があって、緩い服装から色々見えそうで見えなくて、
誘っているのか誘っていないのか分からない。
が、こちらを見る瞳だけ濡れている。
ついつい、その秘密を知りたくなり、前のめりになる。
弱いドラムだけで終わったら、
それはそれで欲求不満になる。
弱いドラムから強いドラムへのかけあがりこそが、
我々が求めているものである。
今、強いドラムなのか、弱いドラムなのかは、
自覚できたほうがいい。
自覚しながら、グルーヴをつくってゆくとよい。
「全編クライマックス」や「ジェットコースタームービー」
なんてのは只の宣伝文句だ。
松岡修三がモテナイ男の告白を二時間するような映画が、
面白いわけがない。
ちなみに今つくっているCMは、だいぶ弱いドラムを叩いている。
意外と好評で、こちらとしては欲求不満であるが、
たまにはそういうのもいいかもだ。
俺も、じいさんの言ってたことが多少分かるようになったものだ。
2013年12月22日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック