2014年01月10日

脚本はなんのためにあるのか

勿論、ストーリーそのものを表現するためにあるのだが、
プロの脚本は、様々な人に見せるためにある。

様々な人は、ストーリーを見るのは勿論だが、
その職種特有の見方をする。
具体的に書いていこう。

役者にとっては、自分の台詞リストである。
相手役の台詞リストでもある。

役者の事務所にとっては、
うちの○○がやるメリットのある役かどうか、という判断材料である。
他の仕事のスケジュールを断ってまでやるべきか、
この日しか空いてないという返事をするべきかを決める、
つまり優先順位をきめるための材料だ。
内容のネガティブチェックリストでもある。
濡れ場は無理、犬アレルギーだから犬NG、
○○のCMに出ているから出来ないことがあるかどうかなどだ。

キャスティングディレクターにとっては、役のリストだ。
新規性のある組み合わせ、役者の相性などを考える材料だ。
共演NGかどうか、これまでの共演がどうだったかを考える材料だ。

カメラマンにとっては、
シーンのリストだ。照明の組み立て、季節や天気のリストでもある。
カメラマンはこれを元に、どういうシーンの色にしようかと思ったり、
機材のチョイスを考える。

ライトマンにとっては、昼か夜か、外か室内かのリストだ。
それによって照明機材は大きく変わる。
あるシーンを撮影しながら次のシーンの準備をすることもあるから、
それは各シーンがどのような照明の組み立てになるかを
考えておかなくてはならない。

美術部にとっては、ロケなのか、ロケセット(箱だけ借りて中をつくりこむ)か、
セット(スタジオに建てる)なのかのリストだ。
どういう世界観なのかを考えたり、芝居の導線から何が必要かを図面に入れ込んだり、
予算の配分を考える材料だ。

録音部にとっては、マイクを何本用意すればよいかのリストだ。
撮影場所が決まるまで厳密なことは言えないが、
どのような音場をつくればよいのかのリストである。

ロケハン部隊にとっては、どんな場所を探せばよいのかのリストだ。
演出部にとっては、誰が何を担当するのかのリストだ。

衣装部にとっては、誰の衣装を何着用意すればよいかのリストである。
メイク部にとっては、どれくらいの化粧をすればよいのかのリストである。

CG、特撮、アクション、料理、動物、特殊メイクなど、
特殊スタッフにとっての脚本は、自分の仕事パートが、
全体とどういう関係にあるかを確認する材料だ。

編集部にとっては、細かい台詞のリストと、
全体の構成の骨組みリストだ。
撮影は順番には撮らない。まず脚本どおりに全てを並べ、
そこからあらためて構成を変えるべきかどうか考えるための、
初期資料である。

ミキシングのときには、
まずこの音声が、なんといっているかを確認するためのリストである。

作曲家にとっては、この映画のどこにどんな音楽を流すべきか考えるための、
楽譜である。


プロデューサーにとっては、
これが商売になるかどうかの、大事なネタである。
これを元に、様々な人から金を引き出し、役者事務所を説得し、
事業が展開する青写真をひくための、種である。

宣伝部にとっては、
この映画が何を狙い、どのようなオリジナリティーがあり、
どのような文学性を持つかの材料だ。
どこが出来がよくて、何を売ればよいか考える材料だ。


監督にとっては、
絵で表現するためのモトである。
この文脈を、どうイコン化するか考えるための、文脈のうねりである。
役者の芝居を考えるための、文脈のうねりである。
各スタッフにどんな指示を出せばよいか考えるための、リストである。
そして、常に完成形を頭の中でイメージする用の、
肌身離さぬお守りでもある。



あなたの脚本が映画化されるのなら、
少なくともこれだけの、バラエティーある読まれ方をされることは、
知っておくとよいかも知れない。
実際、脚本は、映画の規模にもよるが、200冊は印刷されるはずだ。
それだけの人数が、少なくとも読むものだ。
だが、恐れることはない。専門用語で書こうと力む必要はない。
彼らは彼らの専門領域に必要なことを、
勝手に読解する能力がある。

問題は、面白い脚本かどうかなのだ。

だって、映画が好きで業界に入っている人達ばかりだぜ?
何にも増して、面白い脚本かどうかが、重要に決まってるじゃないか。

日本映画では、脚本の作法は、そこまでやかましく言われない。
面白い脚本かどうかが大事で、作法が必要なら、その道のプロが勝手に直してくれる。


これだけ関わるスタッフに出来ず、
脚本家だけがしなければいけないことは、
誰にも負けない面白いストーリーを示すことなのだ。
脚本は、そのためにある。
posted by おおおかとしひこ at 18:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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