ブロックごと切ることを言う。
切る、はカット尻をもう少し切るとか微調整の意味が強いが、
落とす、は、もう少し大きなものをごそっと切ることだ。
台詞の後半、台詞一行から数行、
シーンの1/3、シーン全部、
シークエンスの一部、シークエンス全部、
など、様々な「落とす」がある。
これによって、とある出演者の登場場面がひとつも残らなかったら、
「俺はまるまるカットされた」と、凹む要因になったりする。
なんのために落とすのか。
その俳優を映画に出演させない、という意図は滅多にない。
(例えば麻薬などで捕まったりしたら、まるまるカットなどはありえることだが)
僕は、大抵の場合は「枝刈り」だと思っている。
僕らは、ある世界が出来たとき、
そこから発展させたくなる。
ある方向へネタが伸びたり、その方面へ妄想が膨らんだりするものだ。
それ自体は大変いいことだ。創造の本質である。
が、その妄想や発展は、あくまであとづけであり、
最初に生まれた根っ子から見れば、枝葉である。
枝葉が繁り、豊かに見えることがいいときと、
その枝葉が邪魔で、幹が見えないときがある。
幹や根っ子を見たいとき、枝葉を落とすのだ。
編集とは、ハサミを持って、樹型を整えることに近い。
繁り過ぎを判断するのは、樹全体が見えていないと出来ない。
我々はつくりたがりであるから、
何でもかんでも繁らせたくなる。
その逸りを、冷徹に後ろから全体を見る目が、編集者にはあるものだ。
枝を落とすことは、フレーム問題と直結する。
何が幹や根っ子で、何が枝葉であるかを見極める目も必要だ。
自分では枝葉だと思っていたことが、作品にとっては幹であることもある。
自分が根っ子だと思っていたこだわりが、作品にとっては枝葉にすぎないこともある。
何かを切ることは、何かを残して強調すること、
という編集の格言もある。
残ったものだけで、
樹木全体ではないが、
樹木の繁茂を想像出来るようにすることが、
上手くフレームを切ることである。
これを、空間方向だけでなく、時間方向にもすることが、
編集という行為だ。
一番愚鈍なやり方は、
繁るだけ繁らせて、プロに編集してもらうやり方だ。
素人は枝も幹も区別つかないから、なんでも撮りたがる。
あとで、そこからオイシイところを抜いてもらって構成すればよい、
と思っている。
しかし、それは作家の目ではないし、表現でもない。
アルバムに今日あったことを取捨選択して並べるだけに過ぎない。
それはとれたものの良さに左右される、漁業のやり方だ。
撮影する、は、英語でshootと言う。
狙いを定めて撃つことである。
何を狙うのか。
獲物を何発で仕留めるのか。
急所はどこか。
勝負は一瞬であり、失敗は獲物を逃がすことになる。
失敗に備えて、罠も置いておく周到さも必要だ。
勝負は、一発で決まる。
それは、物凄い緊張感だ。
緊張とは、時間軸特有の感覚である。
絵画や写真や彫刻にはないものである。
我々は、それをつくる使命がある。
無駄な枝葉は、その純粋なる緊張に必要ない。
だから、色々なものは削ぎ落とされてゆく。
初心者は、落とすことを極端に怖がるし、
もったいながる。
僕も、落とすことは惜しいと思う。
しかし、それに慣れることだ。
落とすことが、結局残ったものだけの構成で十全であることや、
うまく余白をつくれたことで、落とす前より想像が広がるようにつくれたような、
経験を積むことだ。
これは、編集現場でも積むことが出来るが、
最も試行錯誤が生きるのは、
シナリオ構築時ということは、意識しておいたほうがよい。
(撮影するには大量の金と時間がかかるが、考えるのはタダだ)
明らかに量が多く、どうすればいいか分からないなら、
カードで並び替えを試すとよいだろう。
一カードあたり一語でその概念を示したものをつくり、
並び替えたり、落としたり、復活させたりしながら、
ベストの流れをつくるのである。
流れに邪魔な小石はのけ、上手く流れることだけを最優先すること。
そうすると、何が落とされるべきか分かってくる。
大抵は説明的な部分と、あとづけで妄想した部分だ。
これを落とすことに慣れるのは、このカード方式が最適かも知れない。
ある流れが納得いったら、写メで保存して、
また別の流れを模索してもよい。
長い行程の場面、マックス短いバージョンなどを再構成してもよい。
最終的にあれもこれもと戻して、全部入りがベストに思えるなら、
落とすという目的を最優先させて、カットマンに徹してみるのも手だ。
それを混ぜ返し、取捨選択を繰り返す中で、
それぞれの要素が、何の役割を持っているかが、言語化出来るようになる。
そうすればこっちのものだ。
その役割を同時に持つようなひとつを創作したり、
同時の役割を複数に分割したりすることにトライ出来るからだ。
手持ちのカードだけでなく、新たなカードをつくるのである。
それを繰り返しているうちに、
いずれ最適の流れに集約されていくだろう。
そのとき、落としたものが沢山あったことに気づくはずだ。
それが、枝葉を落として幹を残すということなのだ。
僕はシナリオ段階で、それを徹底的に練る。
頭の中にそろばんが浮かぶように、
頭の中にカードが浮かび、並び替えたりもする。
慣れない人は、実際にカードでやるとよい。
僕も事態が複雑なときはカードをつくって、自分の思考を整理することがある。
(たとえば風魔12話の三つ巴、女子達の導線、原作との一致ポイントの構成)
後輩のシナリオ添削で、
「主人公がゾンビと出会うが、何故か食べられず、
疑問に思い、ゾンビを連れてくる。次は部屋で二人がいる場面」
の流れの、「疑問に思い、ゾンビを連れてくる」の部分は落とせることを指摘した。
食べられない→何故か部屋に二人、という流れでも、十分意味は分かるし、
その省略は小気味よいからである。
落とすことは、実は残すものを選ぶことである。
練ることとは、本質だけを抽出することだ。
参考までに、大塚家具CMでの、カード並び替えを貼っておく。
これはドキュメント狙いのCMである。
家具に囲まれた、二人の暮らしがモチーフで、
テーマは「受け継ぐこと(いい家具は、長く使える)」である。
テーマ性から言えば二人の子供も出るべきだが、
リアル夫婦のドキュメントタッチなので、
本当の子供は芸能人ではないため、いてもいないふりをする。
見せたいものは、テーブルと椅子、及びソファーだ。
従って、テーブルでお茶をする、ソファーでは一緒にインテリア雑誌をよむ、
などのメインシチュエーションを与える。
メインのアングルは、二人とも顔がうつるべきだから、
テーブルには二人が90度の関係で座らせ、
ソファーには並んで座らせて、イコンをつくる。
30秒15秒の2本つくるが、
とくに30秒用、15秒用、のカットを分けて撮らず、
全体の流れを最重視して、編集でカットダウン(落とす)する方式とする。
中心となるのは、イコンのカットだ。
それ以外にも、家具のアップはCMとして必要だ。
(ピボットやカットアウェイに使っている)
タレントCMだから、二人はアップにしたい。
夫はテーブルで、妻はソファーでアップを狙えるように
イマジナリーラインを引く。
ロケ地の部屋がL字型のかわった部屋なので、
二人が移動する導線をつくり、カメラも移動する、
三者の振り付けを行う。
様々に移動するシチュエーションの途中で、
いい絵を撮る段取りである。
部屋の中だけでは息が詰まることも想像し、
外の庭のカットも狙う。
そのため、最初夫が庭から入ってくる、
という導線からはじめている。(30秒のインサートに使用)
二人に導線をつくり、何をどこでさせるかを決め、
カメラの動きとアングルも全て振り付けてある。
テーブルではトークさせる、ソファーではイチャイチャさせる、
という基本的な「場所による文脈の差異」をつくる。
最初の場所、次に移動する場所、移動のきっかけなどを決めておき、
テーブルでは、写真集と本棚、お茶、お茶うけがあり、
ソファーでは、インテリア雑誌、カメラ磨き、などの小道具を仕込み、
役者はそれぞれを順番に持つことだけを指示しておく。
あとはそれをきっかけに会話することで、自然さのフリートークとなる。
テーブルでは、世代を越えた家具の話、
ソファーでは、今後欲しい家具の話を、フリーでさせて、
そのリアクションを狙う。
(実際は、オンリップでない言葉をはめて、言葉をいいところに移動したものもある)
そのオイシイところに太陽が来るように、照明は既につくってある。
あとはどういう順番の組み合わせが、気持ちよい暮らしを描けるか、
という編集だ。
事前にある程度のカット割りはあったが、
現場での撮れ高があったので、複数の編集がありえる。
そこで、キープショットをカード化し、
事前にカード並び替えを試し、
複数の編集プランを準備していた。
どういう流れをつくるのがよいか、
幹と枝葉を決める作業だ。
それらの結果を貼っておこう。これが最初のパターンだ。
![OE30-1.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE30-1-thumbnail2.jpg)
よさげなものを並べ、左一列に30秒形の編集順をつくる。
右のものは、落としたカットだ。
使用カットに比べ、キープが同じくらいある。
(これは、無駄な撮影なので、本来好きではない。
ただ、ドキュメント方式ではしょうがない。
使用尺の10倍どころか100倍単位回すものだ)
残したものが、幹と根っ子と、少しの遊びになる。
落としたものにもいいものがあるため、
写メで保存してメモをとり、他のパターンも試してみる。
![OE30-2.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE30-2-thumbnail2.jpg)
![OE30-3.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE30-3-thumbnail2.jpg)
意味の理解でスタンダードな一番、二人の会話を生かしながら気持ちで繋いだ二番、
絵の面白さで繋いだ三番、と、並び替えをしながらそれぞれの本質を詰めていく。
最終的には、二番目のものをベースとし、多少の洗練を行ったものが、
出来上がりである。
15秒バージョンは、このうちさらに半分のカットを落とす作業だ。
ここからが「落とす」「残す」の本番だ。
30秒型と15秒型で、違うカットがあまりにも多いと、
別のCMに見えてしまうので、両者のアイデンティティーを近づける必要がある。
なおかつ、二人のアップ、家具のアップはキープする。
それ以外の遊びで、どうこの本線を気持ちよく繋ぐか、
というのが眼目となる。
対比や対照を上手く使わないと尺が足りなくなる。
カットアウェイ、ピボットも使わないと上手く流れない。
![OE15-1.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE15-1-thumbnail2.jpg)
![OE15-2.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE15-2-thumbnail2.jpg)
元々、ソファとテーブルのふたつの商品をうまく見せる、
というオーダーだったが、15秒では食い足りないため、
ソファーならソファー、テーブルならテーブルで
15秒を通した方が分かりやすいのでは、
と思って、それ用の並び替えをしたものがこれだ。
それぞれ、もとの30秒からテーブルを落とす、ソファーを落とす、
という思考からつくりはじめ、試行錯誤をして完成させたパターンだ。
![OE15-sofa.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE15-sofa-thumbnail2.jpg)
![OE15-table.jpg](https://oookaworks.up.seesaa.net/image/OE15-table-thumbnail2.jpg)
試写の結果、一本には一商品、のほうがわかりやすい、となり、
納品した15秒形はこの二本だ。
三本の仕上がりは大塚家具のHPで見ることが出来る。
比較して参考とされたい。
カードの並び替えは、ある制限内にカードをおさめる、
という上限を決めてやるとよい。
現状の7割にカットする、15以内にする、
などの制限内で並び替えをすると、
その限られた範囲内での世界の表現、
に落ちてくるものである。
これを事前に洗練すればするほど、現場で無駄なことをしなくてすむ。