2014年02月08日

ピボットのためのカットアウェイ

ハリウッドの編集用語だが、
どこの編集でもやっている。
時間の盗み方として、覚えておくとよい。

映画とはカットの集まりである。
ヒキまたはヨリがある。
左右の向きは致命的で、ヨリの左右の切り返しが、
会話やアクションを成立させる。

このとき、何気ない手元のアップ、時計などの壁掛けやテーブルの小物、
窓から見えた景色、外なら空、
などを同時に撮っておくことがある。

ストーリーの進行の意図にカットを繋いでいくときに、
どうしても繋がらない絵があるとき、
(どちらも左を向いていて会話が繋がらない、
ヒキから同じ方向のヨリしか繋ぎがない、など)
上のような「何か」を間に挟み、そこに音声を乗っけることで、
ストーリーの進行は妨げず絵の不自然な繋ぎを回避するテクニックがある。
これをカットアウェイという。

日本語では、実景を挟むとか、ヨリのインサートとか言う。
ヨリのインサートには、手元や小道具や部屋の小物、
あるいは台詞のない役者のリアクションなどが候補だ。

勿論、撮っていない絵は繋げないから、
撮影現場では、万が一困ったときのインサートショットを、
バックアップやエキストラショットとして狙うことがある。
(ハリウッドでは、カバレージショットという。
カバレージは、ブツ撮りの場合もあるし、
役者の別芝居や別アングルなども含む、比較的広い言葉だ)

エキストラショットとは、使うつもりがないが、
保険的に、という意味だ。
保険の大きさは、監督の度量だ。
沢山保険を取る監督もいるし、保険なしの監督もいる。
(僕は保険を撮らない。計算が立った上でしか撮らない。
逆に、計算通りに撮る。計算を事前に綿密にするタイプだ)

カットアウェイは、ヨリであることや、
左右の関係(イマジナリーライン)と無関係なものが最適だ。

特に、左右の関係を忘れさせるショットを、
ピボットショットという。
(日本語にはそれを指す単語がないから、
その役割をするカットは邦画ではあまり見られない。
ヨリのインサートでとりあえずなんとかなる)
ピボットは、バスケの選手が片足を固定したまま、
もう一方の足で回転するイメージだ。
これによって、イマジナリーラインを変更するのである。

実際に、役者が振り向いたりすることで、
ワンカット内でピボットの機能を果たすことも出来る。
(優秀な監督は、そのような導線をつくってイマジナリーラインをコントロールする)
芝居の振り付け内でそれをやらなくとも、
カットアウェイでピボットの代わりを果たすことも可能だ。

左を向いているヨリ→何かのヨリ→同一人物の右を向いているヨリ
に繋ぐ場合、間に挟まれたヨリのインサートが、
ピボット用のカットアウェイである。



以上は編集の専門用語だが、
これは同様にシナリオでも機能する。

大局的な流れと、別の大局的な流れが直結出来ないなら、
何か別の小さなインサートを挟めばよいのだ。
カットアウェイである。
そのシーン内の別のこと(酒場なら、隣で喧嘩が起こる)でもよいし、
別の場所の何かでもよい。
つまり、注意をそらすのである。

それが焦点を変える役割を果たすなら、ピボットになり得る。
つまりは小気味よいターニングポイントになる。


編集(モンタージュ含む)とは、時間軸をコントロールする魔術である。
脚本の構成も同様だ。
編集を研究することは、時間軸の扱いの研究でもある。
日本にあまり編集の勉強を専門に教えている所はないと思う。
(編集マシンを扱えるようにはなるが、編集とは何かは教えてくれない)

僕は編集能力が高いと、個人的にも思う。
(2004年ACC編集賞を個人でもらっている)
編集とは、構成だ。
それは、そもそも脚本の構成のことなのだ。
(そしてそれは、前項のようなカードの並び替えで鍛えられる)
posted by おおおかとしひこ at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック