2014年02月21日

山場は何回あるか

答えるのはなかなか難しい。
ターニングポイントは全て山場である、とすれば、
映画のなかには5分に一回や、それ以上ある。
本当の山場はクライマックスであるから、
一回だ、と答えることも可能だ。
そもそも、山場とはなんだろうか。

ヤマとは、
今懸案のことが、決定しそうなことから始まって、
決定するまで、
と定義してみよう。

今懸案のこととは、焦点のこともあるし、
焦点やセンタークエスチョンに影響する重大なことが
横入りしてきてもよい。
大事なことは、なにか(とくに、重大なこと)が
「決定しそうになり」「決定する」ことだ。

何かの決定は、けっして後戻りが効かない。
(やり直せるなら決定ではない)

それは、思い通りに決定することもあるし、
思い通りにならない決定もある。
世の中は複数の人の利権や目的の入り乱れる(コンフリクト)世界だから、
ひとつの決定が、多数の者にもたらす影響は大きい。
色々な人が、自分に有利な決定をほしくて、色々と動く。
それが、決定がありそうだ、という所から決定しました、までがヤマである。

最近の東京オリンピック決定の経緯を思い出すとよい。
会社の経営方針の決定や移転も大きな決定だ。
集団をここまで大きく取らなくとも、
家族旅行の決定、告白して振られるかどうかの決定、
右へいくか左へいくかの決定など、
コンフリクト(複数の利害)を持つ決定は、
いくらでもある。

これらが、決定したというニュースが来ただけなら外の出来事だが、
その決定に関わっているのなら、それはそのドラマに参加しているということだ。

また、決定する結論に、
望む決定になったときの利益と、望まぬ決定になったときの損害が、
事前に分かっていることが重要だ。
決定に参加するからには、それを分からずに動く無謀な人はいない。

分かりやすいのは試合の勝ち負けだ。
勝てば全国大会、負ければ引退、などの文脈での試合は、
大抵大きな山場になる。
つまり、山場とは、(比喩的に)自分の命を賭けた行為である。

決定の仕方によってはあり得る、損害という危険は、
自分の(比喩的な、あるいは直接的な)命を縮める。
このリスクがないと、ヤマにならない。
ノーリスクなら、賭け放題のギャンブルと同じで、
何もアドレナリンが湧いてこない。

つまり、山場とは、リスクとリターンを抱えた、
決定直前のアドレナリンが出るハラハラのことである。
しかも、決定に、感情移入している人物(たち)が、
直接関わっている一連のことだ。


どれぐらいのハラハラかは、
山場によって異なるし、それを受けとる人物によっても異なる。
出川みたいに、なんでも「ヤバいよヤバいよ」と言っていれば、
24時間山場だろうし、
何事にも動じない、修羅場を潜り抜けた武闘派組長なら、
たいしたことではヤマと感じないだろう。
自信のない高校生にとっての「好きな子の反応」は、
ジェットコースタームービーより山場だらけだ。

だから、どれくらいが山場の基準か、によって、
山場は何回あるか、の答えは異なるのだ。


また、人物だけでなく、映画の扱う世界によっても異なる。
アクション映画、ホラー映画、アドベンチャー映画などの、
文字通りの命懸けの映画では、しょっちゅう山場があるだろう。
5分に一回や、それ以上かも知れない。
人間関係をじっくり描く静かな映画では、
それ自体が大きなひとつのヤマとも言える。
ずーっとひとつのことに拘泥しながら、緊張のまま話が進行するかもしれない。


ヤマは、緊張と表裏一体だ。
(決定を遅らせるサスペンドについては既に書いた。
ヤマは、このサスペンドが決定へ向かうときにおこる)

一般に、緊張の反対は弛緩だが、
映画においては、緊張の反対は退屈である。
人間は、同じ刺激には飽きて退屈を覚えるものだ。

一般に、人の集中力は、15分を単位としているという。
30分番組、60分番組は15分おきにCMが入る。
45分、90分など、時間単位は15分を単位としていることが多い。
これだけの間集中できるということは、
逆に言えば、人は15分で飽きる、ということだ。

すなわち、ヤマ(緊張)は、15分おきにあるとよい。

ACT 1では、ファーストロールの終わりと、
第一ターニングポイントがヤマになればよい。
ACT 2では、45分、ミッドポイント、75分、第二ターニングポイントに、
それぞれヤマがあるとよい。
ACT 3は全体が最大の山場である。
つまり、山場は、7つあるとよい。

逆に言えば、15分おき、7つの山場を持てれば、
退屈せずに、緊張を維持できる映画になる。



あなたの書く脚本が、全く退屈なのだとしたら、
この山場理論を試してみてはどうだろう。
ジェットコースター過ぎると思ったら、山場を減らしてみてはどうだろう。

山場は、毎回大きい必要はない。
何かの決定が、今後の主人公に重要な影響をおよぼし、
主人公はその決定に参加していて、失敗したときのリスクがあれば、
緊張は維持できるだろう。

もしあなたの脚本がリライト中ならば、
15分単位に何が起きているかをチェックするとよい。
(そのために、1ページ1分換算の形式で書くことは重要だ。
僕はリライト時、すべてのシーンを半分単位で一覧にし、
足し引きや入れ換えを考えることがある)
山場があったとして、このポイントに来ていなかったら、
ここに来るように、前後を足したり引いたりして調整するとよい。
脚本は、たちまちリズムを取り戻すはずだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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