プロだけが知っている、代表的な嘘がある。
次の例をみてほしい。
(ネットで拾った写真であるが、著作権は研究用ということでご勘弁を。
問題ありましたらお知らせください)

(写真クリックでもう少し大きいものが見れます)
この写真(絵?)には嘘がある。
それを初見でわからなければ、あなたは写真のプロではない。
解答は、「二人の目線で嘘をついている」ことだ。
「二人の目線は、本当は合っていないのに、
合っていることにしている」というのが嘘の正体だ。
分からない人用に、正確に書いてみよう。
視点(カメラ)は、左の男より後ろからだ。
ベッドの背面が見えているパースから、
彼がふつうに起き上がれば、彼の体のむきの正面は、右奥になるはずだ。
(現れた天使は、ベッドの正面にいる)
しかし左の男は、想定される視線より、はるかに右を向いている。
体の向きごと、立体的に言えば右45度ぐらい向いている。
なぜか。
左の男の表情を見せるためである。
顔が向かい合うツーショットの写真では、
一般的に、背中を向ける側は、
このように横顔で表情を表現する。
物理的に正確なアングルだと、
左の男は、右後頭部をカメラにさらすことになる。
(体も、右背中側がカメラ側に来ることになる)
つまり、正しいパースで人物を描くと、
男の顔は後頭部で見えないのだ。
体ごと嘘をついているのは、体を正確なパースでかいて、
顔だけ右に嘘をついてひねると、嘘がばれてしまうからだ。
「テレビを見ている人」の広告写真では、
伝統的に、ひんぱんにこの嘘を使う。
ワンショット、一枚の写真で、
テレビと見ている人の表情両方を見せたいなら、
嘘をつくしかないからだ。
これは、漫才の立ち位置である、ハの字と同じだ。
テレビと見ている人を、ハの字に位置させるのだ。
例の天使とベッドの男も、実はハの字の位置関係になっているのだ。
全体にハの字で配置させると、
ベッドや屋根や壁や光との位置関係がおかしくなるため、
左の男だけ右に45度まわして、
この写真内では位置関係があっているように、
「見せかけて」いるのである。
これは、漫画でもよくある構図である。

(ネットで拾った、おそらく手塚だと思うが、
これも研究用ということで著作権については冒頭のようにあつかってほしい)
まったく同じだ。
視線が三次元的には合っていないのだ。
(右の男は、左の男の、顔二つ分ぐらい左を見ている)
しかしこれは、
「視線が合っている、しかも二人の表情が同時に見える」
という「約束事」なのである。
これがムービーになると、とたんに嘘がばれる。
(頭の中でこれらを動かしてみてほしい。ただ喋るだけではなく、
セリフに合わせて視線を合わせたり外したりする芝居をさせれば分かるだろう)
そこで、映画ではアップを切り返すのである。
または、
二人を90度の関係(L字配置という)において両者の表情を同時に見せたり、
車に乗せるなど同じ方向に並べたり、
正面で向き合うなら二人とも横顔にしたりする。
(キスシーンでは、どちらの顔も正面では撮れない原理だ)
僕が3D映画に否定的なのは、
写真で培われた嘘と、それをムービーにするときにつくりなおした嘘、
それらのどちらの延長線上にもない、別の嘘をつく必要があるからである。
その嘘を、現段階では開発しきれていないからである。
そして、それは結局、舞台の方法論に戻りそう(第四の壁に向かって話す)
だからである。
頭の想像の中では、
このアングルでも二人は表情が見えながら会話しているものだ。
それは夢に似ている。小説からふくらむ想像にも似ている。
しかし、実際に、二人の人間とカメラの関係では、
このツーショットは表情込みでは「撮れない」のだ。
頭の中の想像は、それだけ不正確であることを、知っておくと良い。