2014年03月14日

ダメなCMを、名指しで否定してみる

ペプシNEX-ZERO「桃太郎」は、久しぶりに腹が立つほどつまらなかった。
これが僕のいう、
典型的な「静止画」的なCMであり、
物語という、僕の一番大事にしているものと、対極にあるものである。


そこにおはなしはない。

設定があるだけだ。
デザインのかっこよさ、シチュエーションのかっこよさは、
ものすごく金がかかっている。
しかし、これらはイミテイティブであることは、
ちょっと考えればすぐ分かる。

古くはサントリーローヤルの「ランボオ」、
最近ではターセム「ザ・セル」「落下の王国」を意識したつくり。
砂漠を舞台にした冒険映画、たとえば「ハムナプトラ」シリーズや、
パルクールをフィーチャーした「プリンスオブペルシャ」あたりが
ベースになっていることは明らかだ。
(おそらく日本時代劇なのに外国ロケした「どろろ」も参考資料にあがっているだろう)
巨大鬼のビジュアルは、間抜けなデザインをのぞいて、
ほぼ巨神兵だ。(いつでも「なぎ払え」が出来そうなデザインだ)

別に、パクリを非難するわけではない。
デザインや世界観は、物語を伝えるための触媒である。
それに適した世界観、逆目の世界観、それらが表現というものだ。

それが、物語がなく、触媒たるビジュアルだけで終わっている。

中身がビジュアル、といえばそれも構わない。
(サントリーの「ランボオ」では、それが酔いの世界の本質である、
と、「中身がビジュアル」というのに意味があった)

これらのビジュアルは、「自分より強い奴を倒せ」というメッセージ(意味)と、
なんの関係もない。そこが空虚なのが、最も非難されるべきことだ。


「自分より強い奴を倒せ」という意味には、
弱い自分、強い奴、強い奴を倒す理由や道義的理由、
倒す価値、世間がどうみるか、などを決めなければならない。
その上で、
「なぜ倒すのか」という動機と感情移入、
「どうやって倒すのか」という過程の面白さ、
ラストに起こるカタルシスの、
みっつが揃わなくては面白い物語にはならない。

(本来、コーラ系飲料のシズルとは、爽快さである。
カタルシスの爽快さと一致して、はじめて物語とシズルが一体化する)


このCMは、それを全て放棄している。

ちなみに、これは倒す直前を描いているが、このつづきや、
物語全体は存在しない。
「episode ZERO」という企画だからだ。
(次にシリーズ化されるとしたら、浦島太郎やドラえもんなど、
別のもののepisode ZEROをやるはずである)
つまり、時間軸やプロットを追うことのない、
設定の羅列でしかないのだ。


はらたつ。
こんなものに金をかける、中身のないファッションにはらたつ。



物語とは、はじまりがあり、終わりがあり、途中がある。
何故そうするかという動機があり、
結果がなんの意味をもたらすかというテーマがある。

それが出来ない奴が、映画風CMのキャスティングボードを握っている。
映画界全体が馬鹿にされている。
物語という中身は必要ないと、馬鹿にされている。
金だけかけたファッションが、金の力で物語をつぶしにきている。

こいつらに謝らせるには、中身の面白いものをつくるしかない。
posted by おおおかとしひこ at 16:55| Comment(10) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
仕事が無いからって妬むなボケ。
Posted by ぷ at 2014年03月21日 21:41
ぷ様、コメントありがとうございます。
全文読んだうえで書かれたと思われますが、
さらに「桃太郎の映画化」に
挑戦してみた記事をアップしております。
ご感想いただけると、今後の精進の参考になります。
Posted by 大岡俊彦 at 2014年03月22日 17:47
私はこのCM好きです。CMは時間が限られてるし、物語の前後が表現されてなかったとしても、観た人が想像したくなるような、キャッチーさとか、観て特した感があれば良いのではないかなと。。これが映画の予告編ならどうかなと思うけど、あくまでCMとしてみたら、ありそうでない映画のパロディとしてのくすっとした面白さがあって、そのくすっとを大人が結構な制作費かけて真面目にクオリティ高いものを作ってると思うと逆に面白いなーと思うし、ペプシ飲んでみよかなと思います。
別に小栗旬ファンではないけど役も合ってる気がするし。。
昔整髪料のギャッツビーのCMにオーランドブルームが出てて、それもスタイリッシュだけどスパイ映画とかドラマのパロディって感じのCMで面白くて好きでした。

とにかく有名人出して制作費のほとんどを出演者のギャラに費やしてるような面白くないCMとか、続きものでダラダラ物語をみせるCMよりは、こういうCMワクワク感があって好きですけどねー。

あくまでCMですから、映画とは別物として観てあげた方がと思いました。

余談ですが、私個人的に気持ち悪いなと思うCMは、W○○dowsのカメラ目線で語りかけるやつ…なんかアメリカ的な世界観をそのままもってきてる感じでむすがゆい。。
あとユ○クロのCMの世界観も昔からなんかむずかゆい…。多分ナルシスト感を感じるのです。。
他にも考えたらそもそもCMなんてダメなのばっかですよ〜。。
Posted by むー at 2014年03月23日 06:52
CMと映画は別物では?
Posted by しど at 2014年04月04日 02:06
しど様、コメントありがとうございます。
映画もCMも、映像と物語で人の心を動かす、という点で同じものです。
マラソンと短距離走は違う競技だけど、走ることでは同じもの、
という理屈ぐらいは真実です。

問題は、ストーリーもののCMが極端に減って、
CMとはストーリーものだ、という僕らの常識が、
最近通用しないことです。
ストーリーのないCMがCMなのだとしたら、おれCM監督やめる。
Posted by 大岡俊彦 at 2014年04月04日 03:33
大岡さんの言うとおりだと思います。
つまらないCMの典型です。このCMを見ると腹が立ちます。
Posted by マニ at 2014年05月10日 13:29
大岡さんのおっしゃる点もわかります。

しかし他の方も同様の意見がありましたが、少ない時間でざっくりした物語、コンセプト、商品の広告としては、私としてはかなりインパクトはありました。買う買わないは別として・・・
スーパーのテレビジョンで永遠にCMが流れたのにはちょっと引きましたが笑

ちなみに、新しいCMはつまらなかったです。
(宮本武蔵編?)
つまらない理由としては、最新CMが放映される日時をヤフーさん等のTOPページででかでかと広告を打ったのに、フタを開ければ・・・

宮本武蔵って笑ストーリー性に関してはもうめちゃくちゃですね笑
Posted by LMC at 2014年05月12日 19:01
LMC様、コメントありがとうございます。
僕は一貫して「AがなくBだけだ」と言っています。
Bが良かったんだけどそれじゃ駄目?
という問いは、互いに噛み合わない話になってしまいますね。

AとBは、このブログでは、
ストーリーとビジュアル、中身とガワ、プロットと実際の表現、線と点、
オリジナルとリミックス(パクリ)、クリエイティブとイミテイティブ、
などの言葉で表現されています。

ちなみにこの記事は、脚本家を目指すための脚本論について語る一連の議論の一部です。
ストーリーや脚本論に興味があれば、色々と読んでみると楽しいブログかと思います。
Posted by 大岡俊彦 at 2014年05月13日 11:20
いやぁ これは勉強になりました。
CM好感度No1に輝いたペプシのCMも、監督目線からすると、こういう見方も出来るのですね〜。

作り手として、言いたいことはたくさんあるでしょう。
でも、このCMの目的は

「ペプシのブランド化」
「ペプシ支持者へのメッセージ」
「ペプシの別CM、比較CMの前置き」

などになっているので、そもそもストーリーってわけじゃないんですよね、たぶん。
(ペプシの人じゃないからわかんないけどw)

最初から、「映画化して欲しい」という話題になるよう仕組まれたCMなわけで、そういう意味では、目標を達成してると思うんです。

んで、ペプシが頭に刷り込まれる。
次に、ペプシの方がうまかった!という広告を見る。
さらに、頭に刷り込まれる。興味がわく。
コンビニに行くと、ペプシがある。
買ってみる。

みたいな流れもあるわけで(一例です)。

ペプシぐらいになると、一流のマーケティングプランナーがCMの企画から入るので、監督目線からすると、そこに「ストーリーが無い」から、イライラしちゃうんでしょうね〜。

いやいや。
それにしても、面白い意見が見れてよかったです。
監督業、がんばってください!
Posted by しょうじ at 2014年05月21日 14:04
しょうじ様コメントありがとうございます。
おっしゃる業界の仕組みは、20年CMをやっているので大体知っています。

僕の批判点は、話題になりさえすればいいという感じで、
それが本当のブランディングになっているだろうか、という点です。
炎上マーケティングという悪口が最近流行っています。
話題にのぼること至上主義は、視聴率至上主義と同根のものを感じます。
(ネットマーケティングにおけるバズる至上主義も同じく)
昔映画やテレビの世界でも同じことがありました。
エログロナンセンスの流行です。刺激だけ高めて中身のないものです。

テレビやムービーが見世物小屋であることは真実で、それを利用してCMは成り立っています。
ただその利用の仕方が、金をかけている割に浅いと思うだけです。
結局このCMが勝ち取ったブランドは、ハッタリだけで中身のないブランド、という覇道です。
王道には最終的に負けるでしょう。

ただ、チャレンジこそペプシであり、
王道はペプシ本体、覇道はペプシNEXという位置づけがされている可能性はあります。
だとしても、刺激だけで中身(糖分)がないNEXは、
僕は買うことはないし(ペプシ自体はコーラより好き)、
これを継続的に買う人をそのような偏見の目で見ることと思います。
ブランドとはそういうことです。

もしこの世界に中身を入れるとしたらどうするだろう、
と思って実際に映画のプロットにしてみたものが、
このあと議論されています。トップページの一番上の記事からたどれます。
興味があればどうぞ。
Posted by 大岡俊彦 at 2014年05月22日 12:20
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