2014年03月29日

合理的なリライトの仕方

例えば1シーンのリライトを考える。

まずリライトの方針を立てる。
どれぐらい書き直せばリライトしたことになるか、
その分量(文字数)のイメージを見積もる。

経験上、それが元の分量の2割を越しているなら、
頭から白紙に書き直したほうが、いい原稿になる。


どれぐらい直すべきか、
というのは作者のイメージ力だ。
ある部分は直さず、
手を入れるところの適切な部分を見積もるのは、
経験値が必要である。

ちょっとした言い回しを変える、
リアクションをちょっと変える、
誤字脱字や誤りを正す、
などの数文字程度なら、元の原稿に赤を入れる程度でよい。

台詞や芝居や段取りの順番を変えたり、
ある部分を削ったり、
ないものを足したりするとき、
全体の1割ぐらいが変更になる目算なら、
これも元の原稿に赤を入れる程度でよい。

2割以上手を入れないとダメだな、
と思ったら、
白紙を用意する。
そのシーンで必要な段取りを、箇条書きでメモする。
段取り自体変更する筈だから、
このシーンでなすべき全てのことを洗い出しておく。
台詞はまだ書かない。やることリストをつくるつもりで。

これを下書きと思い、
更に白紙に、一からシーンを書き下ろしていくとよい。
(下書きは見ずにやるのが理想だが、忘れたら見てもよい)



リライトで起こる現実的な問題は、
手を入れた所と、入れていない所にちぐはぐさが生まれることだ。
そして、既に苦労して書いたものに、手を入れるのが嫌なことだ。
これが、リライトされたものの出来を悪くする。

ストーリーテリングのコツは、
そのとき初めて聞く観客に、常に語りかけることである。
前書いた原稿は、「既に語ったこと」という意識が残ってしまい、
今から語る新鮮な話として、書けないのだ。

だから、ちょっと手間だが、
前の原稿を見ずに、白紙に新しく書いていくとよい。

やってみれば分かるが、
手を入れるべき新しい部分と以前にある部分が、
うまく融合する。
切り貼りではこうはいかない。
切り分けられないように癒着したかのように、
新旧部分はうまく有機的に混ざるのである。
(必ずしも下書き通りに書く必要はない)

人間のアドリブ力を嘗めてはいけない。
これからやらなければならないことが
頭の中に全て入っていれば、
それらをアドリブて処理していけるものである。

白紙に一から書くのはしんどい。
しんどいが、必ず元の切り貼りや赤入れより、
自然な原稿になるはずである。
「進行が自然に進む」のは、脚本が最低限しなければいけないことだ。
下手な切り貼りは、進行が不自然になりがちだ。
白紙に新しく書いていく方法だと、
自然と観客に初めて語る新鮮さで書くことが出来る。


ワンシーンなら、この方法は簡単だ。
ワンブロック、あるいは脚本全体だとどうだろう。

出来るなら、白紙に新しく書いていくのがよいと思う。
(相当しんどいけど)

切り貼りの危険なところは、
既に書いた部分が、書いた時点で持っていた前提や勢いが、
切り貼りしてしまうことで、分からなくなってしまうことだ。
以前は意味をなしていたものが、
別の場所へうつすと、意味がおかしくなってくるのである。

このことを知らないプロデューサーなどは、
簡単にアレとコレを入れ換えれはいいんじゃない?
とか言ってくる。
そこを直せばその影響下にある部分を直さないと、
面白くなくなることに、気づかずに発言している事が殆どだ。

ある部分を直せば、その影響を受け、他も直さなければならない。
リライトの難しさはそこである。
最初の何かを直したことで、
ほぼ全面書き直ししなければいけないケースはよくある。
巧妙なトリックものを想像すれば分かる。
10段階のうち4番目を別のものにしたとき、
残りを一切元のものにしたまま、
話が面白さを保っている確率のほうが低い。

何故なら、物語とは、過去のことと現在のことが、
未来に影響を与える連関だからである。

物語とは、車の部品のように、
一部を取り替えれば整備は終わり、という代物ではない。
全てが連関した有機物だ。
もしひとつ取り替えても成立するなら、
そもそも連関のある物語を書いていない可能性すらある。
(ハリウッドはストーリー工学と称して、
車の部品のようにストーリーをとらえようと躍起だ。
しかしそれは人の心をうつ、たった一度の人生たりえるだろうか?)



リライト方針を立てて、
直す総量を見積もることが、実は難しい。

最初は勘で構わない。どれだけ書き直せばよくなるかを、
最初に想像する癖をつけよう。
posted by おおおかとしひこ at 00:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック