2014年04月25日

脚本添削スペシャル(7)キャラ立ち

つづきです。

ここで書き始めると、プロットを追うだけの脚本になります。
映画というのは、一にも二にも、人間です。
人間の魅力を描くのです。

人間とは、どうであったかより、
何をしたかで決まります。
そのbeではないdoに関しては、大体プロットに納めました。

キャラを立てるというのは、beを決めることです。


キャラ立ちで一番簡単かつ効果的なのは、
口癖や身体的特徴です。
小学生でも分かるレベル、というべきか。

その点、次郎丸と河童のコンビは、
コンビとしてキャラ立ちしています。
でくのぼうの侍と、チビで生意気で口のたつ子供。
身体的にも、性格的にも、はっきりとコントラストをつくっています。
もう一歩足すとしたら、
持ちギャグでしょうか。
ギャグとは言わないまでも、口癖でもいいかもです。

思いつきで、
河童は常に口を尖らせて、
「むきゅう」と鳴くのが口癖だとしましょう。
別れたあとのラストシーン、
次郎丸が独り言で「むきゅう」と言ってみて、
「いかんいかん、奴の口癖がうつったわ」と言うことで、
そのキャラを利用した、なんともいえない、
二度と会えないのだけど心が繋がった、
二人の絆を描くことが可能になります。

こういうちょっとした工夫が、
プロットに対して効くディテールとなってゆくのです。


ディテールから入ると、
プロットを変更するのに勇気がいります。
せっかく気に入ったディテールを壊すからです。
命はディテールに宿ります。
ディテールを壊すことは、命を奪うこと。
だから、脚本の初期段階では、
ディテールを細かく決めないほうがいいです。

例えば、元の原稿の、
宇宙船が飛び立とうとするのだが鎖で繋がれている、
という絵や、
それを断ち切り「いけえええ」と言うあたりは、
かなりディテールの絵が浮かぶものです。
これはこの脚本のいい面でもあり、弱点にもなります。
きっとほらさんが何度リライトしたとしても、
この場面だけは変更しないでしょう。
ディテールの神が既に宿っているからです。
これを殺すことは、自分の信条を曲げる痛みを伴います。

僕はあえてこの場面を採用しませんでした。
このディテールに影響されず、
自由にリライトを行うためです。
最終的に使えれば使おうと思っていましたが、
どうやらねじまき侍には使えなさそうです。
ねじまき侍のビッグシーンは、
宇宙船の鎖を断ち切る場面ではなく、
初めて露出した伝家の宝刀で、山賊をなますのように斬る場面です。


さて、他のキャラ立ちも考えておきましょう。
山賊のボスは、いかにも悪党にしましょう。
冷酷非道、残虐陰険、乱暴横暴、とにかく殺されても文句の言えないタイプが最適。
役者が演じるのが楽しくなるくらい、
典型的な悪玉にしてやりましょう。


あと、特筆すべきキャラがいました。
立ちはだかる山賊の中にいた、
元侍です。
次郎丸が知った顔と表現した男です。
オイシイキャラなので、
ここでもキャラを立てましょう。
山賊たちの無法な刀の構えかたに対して、
正眼にかまえた正統派の剣術を使っている、
というのはどうでしょう。

まだ山賊になりきれていないのを、身体で表すのです。
せっかくなので、次郎丸がそれに気づき、
山賊に身をやつしても、構えは侍か、と聞くのはどうか。
人を斬るのに、侍も山賊もない!と彼は答え、
山賊と同じ理由で侍は人を斬らぬ、と、次郎丸の侍観を炙り出させるのです。

お話とは、コンフリクトのことです。
コンフリクトというと難しいけど、
相手役がいる、と考えると分かりやすいです。
この場合、次郎丸の相手役は、元侍の山賊。
元の原稿ではエキストラ扱いでした。
第一稿ではこうなりがちです。
主役を描くことで精一杯で、その他は背景扱いになりがち。
しかし、「相手役との絡み」としてお話をとらえると、
相手役と主役との、落差や差異やコントラストを描くことが必要だ、
と分かって来るでしょう。

たとえワンシーンであっても、
この対比は印象的なワンシーンとなるでしょう。
キャラを立てる、とはそういうことです。
「剣が抜けず鞘で闘う」だけの場面に、
重層的な魅力を足して行くのです。



プロットが、骨組みや内蔵だとすると、
キャラ立ちや人間的魅力は、
皮や表情や服に当たる部分です。
骨格見本で映画は完成ではありません。
その先のフィニッシュには、ガワの魅力もあるものです。

僕はガワの悪口を言っている印象がありますが、
ガワを否定してはいないです。
問題は、ガワだけで中身がないことです。
同じ中身なら、ガワも魅力的であるべきです。

(そして、それを区別できない一般人には、
次郎丸の芝居が良かった、と言われることでしょう。残念ながら)



さて、では、そろそろ書きはじめてみますか。
つづきます。
(執筆の時間を考えて、土日をまたぐことが予測されます)
posted by おおおかとしひこ at 01:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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