2014年05月15日

動かさないと、面白いかどうかは分からない

「奇跡の一枚」という言葉がある。
写真一枚なら、レタッチやアングルの工夫も含めいかようにでもなる、
が、いざ動かすと、リアルがばれる、というような意味だ。

素人の写真から芸能人の写真まで、それは何枚もある。
橋本環奈の例の一枚も、奇跡の瞬間の一枚の例だ。

これらから言えることは、
一枚の写真では現実と違う嘘がつける、ということである。
一枚までなら、嘘をつきとおせる。
逆に言えば、動かしてみればその本来の良さが判断出来る、ということだ。
(我々男子は、AVのパッケージや風俗の写真指名でおなじみの現象である)

これは、脚本でも同じである。


世界観の設定や、キャラ設定などの、
「静止画的なもの」については、いくらでも奇跡の一枚を作ることが出来る。

それが面白いかどうかは、動かしてみれば分かる。
事件が起こり、主人公が動き、
関わる人が増え、しゃべりだし、
展開し、解決するまでの、
「実際の動き」が、設定という奇跡の一枚の対義語だ。

逆にいうと、動かしてみるまで、面白いかどうかは判断出来ない。
なぜなら、ムービーとは、動くことだからだ。

「設定」なる奇跡の一枚を撮っただけで、
話をつくった気になってはいけない。
動いてみないと、それが面白い話になっているかは判断出来ない。
ポージングの上手いモデルが、ダンスが上手とは限らない。
一瞬の表情の上手いモデルが、芝居が上手いとは限らない。
モデルから女優への転身の失敗は、ほとんどがこれだ。


逆に、動き(話)は面白いのだが、
写真だとその面白さが伝わらないものがある。
シナリオ重視の、「売りづらい」と言われるタイプの物語だ。
逆に言えば、そこに一枚写真がつけば、「売れる」のである。



角川映画の駄目な人の話をする。
主演の子供のオーディションで、深沢嵐とイケメン、二人が決勝戦で残った。
嵐は、イケメンとはちょっと違うサイバラ漫画の男子(つまり昭和的な)の魅力を持っている。
が、写真(たとえばポスター面)で見た時にイケメンに負けるのはしょうがない。

僕は、写真ではイマイチかも知れないが、動いたら彼の魅力がわかる、
と主張した。
なんとプロデューサーは、「写真でもムービーでも同じ」とのたまった。
芝居は監督がOKを出すものだから、我々は写真でいいほうを選びたいと。
いやいやいや。そんな粒度で主演を考えていいものか。
イケメンは写真ではいいかも知れないが、動く芝居になると嵐が圧倒的にうまい。
その話が、彼らに通用しなかったのだ。
(イケメンの芝居はOKは出せない、と僕が揚げ足をとることで決定がなされた)

動きと写真は全然違うものである。
「奇跡の一枚」ということばはその時なかったので、
今ならそのたとえ話が出来るかも知れないが。



我々は、奇跡の一枚をつくることが仕事ではない。
それは写真家や印刷の専門家の仕事である。
我々は、一枚ではなく、二時間の連続写真を、
二時間の音を、二時間の感情移入を、
二時間の物語を、つくるのが仕事である。

奇跡の一枚?
動かしてみなよ。
馬脚をあらわすか、面白いかの、どちらかだ。
(橋本環奈は、あの一枚とは別の「動き」の魅力で売れていってほしい)
posted by おおおかとしひこ at 17:12| Comment(3) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
名乗るべき名前がなくて申し訳ありません。

『世界観の設定や、キャラ設定などの、「静止画的なもの」については、いくらでも奇跡の一枚を作ることが出来る。それが面白いかどうかは、動かしてみれば分かる。』

という部分についておもしろく感じたので、もう少し教えていただけないですか?

「静止画的なものでおもしろいと思った設定だったのに、動かしてみたらダメだった」あるいは「静止画的なものではダメだったのに、動かしてみたらすごくよかった」みたいな例で教えていただけると興味深いです。
Posted by 通りすがり at 2014年05月25日 22:09
コメントありがとうございます。
この話は、どちらかというと経験則です。
沢山の人が集まって企画打ち合わせをすると、
そういう経験を積めますよ。

具体例がちょっと思いつかないのですが、
多くの予告編詐欺は、
奇跡の一枚の設定の典型ではないでしょうか。
「原作○○、主演○○」という外枠設定もそうかも。
個人的経験でいえば、「Zガンダム」でひどい目に会いました。

逆に、予告や設定を見てイマイチかな、と思えても、
実際に良かった例は、
我らがドラマ「風魔の小次郎」をあげておくことにします。

両方良かったのは滅多になく、
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
「ジュラシック・パーク」などが代表的。
Posted by 大岡俊彦 at 2014年05月26日 11:45
「予告編詐欺」という言葉ですごく納得してしまいました。
ワンシーンだけ紹介されるととてもおもしろそうなのに、いざ全編見てみると非常につまらない展開が続く……という経験はよくありますね。

あまり普段ドラマを見ませんが、参考に挙げられた大岡さんの「風魔の小次郎」を見てみようと思います。

ご回答ありがとうございました。
Posted by 通りすがり at 2014年05月27日 00:28
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