正月にやっているスペシャル、「芸能人格付けチェック」などを見ると、
いかに本物とそうでないものを、見分けられないかが露呈する。
どんなにイケテる芸能人だろうが、
本物とそうでないものを見分けられないのは、一流ではない。
見分けるには何が必要だろう。
豊富な知識だろうか。
それも必要だが、僕は主観的評価と客観的評価を、
自分の中で自覚することだと思う。
主観的評価とは、好みのことである。
人それぞれだ。
一定の志向を示す人もいれば、法則性がないときもある。
時間にも左右される。
今ならすごくよくても、5分ずれただけで嫌いになる。
好きと嫌いで表現される。
理性よりも、根源的で動物的感情だから、
一度惚れたものは一生惚れるし、一度嫌いになったら一生嫌いだろう。
料理や女の好みで考えるとわかるだろう。
客観的評価とは、
それが世の中にとって価値があるかどうか、で決まると思う。
それには、歴史的文脈に照らす必要がある。
物凄く面白いものでも、それが過去の名作のパクリなら評価されない。
されるのは、過去のものを越えたときだけだ。
物凄く面白いものでも、過去にもっと面白いものがあれば、
それは評価するべきでない。「届いていない」という点で。
(その過去の名作があまり知られていないときが問題だ)
面白いとか感動するとかは、一見主観的感情であるが、
同時に、同じものを見て多くの人が似た感情を抱くという点で、
客観的感情でもある。
好みだからそれぞれでいいんだよ、というのは、
多くの人に同じ感情を抱かせることの出来ない、
パワーのある作品をつくれない者の言い訳だ。
作品はマスで評価されるのだから、より多くの人に称賛されることが必要だ。
が、それは下手なマーケティングだと、
売れ線を狙うという二番煎じの方法論になってしまう。
新しい、まだ世の中にない、多くの人が心を動かすことをつくるチャンスを奪う。
それは、新しくつくるものを、正しく客観的に評価することが、
マーケティング理論では出来ないからだ。
客観的評価は、
評価する/評価しないの軸で表現される。
一見客観的評価のアカデミー賞が、
政治的なムードで左右される、主観的賞になることはよく知られている。
世界の政治状況に関わるアメリカならではの主観性だ。
それはアメリカにとって客観的評価かも知れないが、
アメリカ以外にとっては評価されないこともあるのに。
カンヌが、これにわざわざカウンターを打つような作品をパルムドールに選びがちなことも、
有名である。綱引きをして、世界のバランスを整えようという意思は評価したいが、
それによって後世その文脈が失われたとき、受賞意図が伝わらないのは問題である。
例えば、「サンセット大通り」は紛れもない傑作であるが、無冠だ。
ハリウッドの内幕に抵触するために嫌われ、
公開年の賞は「イヴの総て」に持っていかれたという内情がある。
この事情を知らずに、受賞という文脈で見たら、前者は見逃す可能性がある。
僕は両方見た限り、
「イヴの総て」のラストは素晴らしいが中盤がだるい。
「サンセット大通り」の情念の深さとどんでんの素晴らしさに軍配が上がると思う。
客観的評価は、つくりかたを知っている者ほど、
詳しく知ることが出来る。
僕は寿司のつくりかたを素人程度にしか知らないから、
旨いかどうかをわかっても、
つくりかたが上手いとか、手を抜いているとか、
今回の出来は微妙、までは分からないだろう。
何がどう違うかは、受け手にいては一生分からない。
つくり手だけが分かることで、上手いか下手かはわかるものだ。
演技が上手いかどうかは、
素人は表情や声の抑揚だけで判断する。
ちょっと玄人になると、
カメレオン的な演技を評価する。
僕らつくり手は、
立ち位置のうまさや、目線の解釈や、声の調子をとくに見る。
演者になると、服をどう文脈に合わせて着こなしているかや、
腹式呼吸かどうか、この姿勢で出しにくい音をちゃんと出しているか、
まで見るらしい。
そこに好みに左右される要素はどんどん存在しなくなる。
上手いか下手か、評価するかしないかの軸だ。
映画は総合芸術だ。
ビジュアル、音、デザイン、話、イベント性など、
様々な要素の複合体である。
僕は主に話とテーマで見るが、
世の中の人は好みの役者が出ているだけで見る人もいる。
それはそれで構わない。
人それぞれの好みは止められない。それはあくまで主観的である。
しかしそれとは別に、評価するかしないかの軸、
客観的評価があることを知っておくべきだ。
面白い/面白くない、の軸は2軸ある。
どの軸で評価しているかが、
この言葉で表現されるため、批評を混乱させるのだ。
好みではないが評価すべきもの、
好みだが苦言を呈すべきもの、
これらを正しく自分のなかで切り分けられない限り、
自分の作品すら、まともに見れていないことになる。
2014年05月21日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック