2014年06月10日

初心者講座22:柱の書き方

脚本の実物を見よう。
月刊シナリオを見てもいいし、このブログにも沢山大岡のものは貼りつけてある。
まず初心者がきちんと書けてるかどうかは、
柱とト書きを見れば一目瞭然だ。

今回は柱について解説しよう。


柱というのは、シーンの指定だ。
「どこで」そのシーンを撮るか、という指定だ。

どこで起こっててもいいパターンもあるけど、
それでも、どこかは指定しなきゃいけない。
漫画や小説では、どこかわからないままシーンが進むような曖昧な表現が許されるが、
映画ではそうはいかない。
だって、映画は、どこかとある場所に役者を集めて、
カメラで撮らなきゃ撮れないからだ。

部屋、カフェ、学校、会社、路上、公園、駅、商店街、住宅街、
家の前、などなど、少なくともどこかでなければならない。
今いる場所が、シーンがはじまったとき不明なら、
「不明の場所(実は○○)」のように書いてもよい。

脚本における柱の役割は、
読者や観客にここがどこかを示すことではなく、
スタッフにロケ地を示すことなんだ。

脚本が渡されたら、スタッフは、
すばやく柱の行だけを抽出して、
全部で何ヵ所のロケかを数える。
それが予算やスケジュールにはまるように、
各ロケーションを、具体的にどこで撮るかを考えるんだ。
オープンのロケなのか、スタジオにセットを組むのか、
日本国内なのか、外国なのか。
勿論、脚本家がそこまで考えなくていい。
物語のイメージを考えるだけでいい。
脚本に書いてある文脈に応じて、スタッフがロケ地を探して組み立ててくれる。
脚本にないものは、組み立てようがない。
だから脚本に書く。

柱に書くべきことは、
だから、物語上のイメージというより、
撮影の専門用語なんだ。
脚本家が撮影の専門用語を知る必要はないけど、
以下のことは覚えておこう。

1室内か屋外か

撮影は、屋外ならロケ、室内ならセットを組む。
部屋の中はスタジオセットで撮影、
ドアから外に出たら、全く別の場所の住宅街で撮影し、
編集で並べて「同じ場所」だということにする。

また、日本語は、○○の家、会社、など、場所の名前が、
室内なのか、外の建物を意味しているのか曖昧な言葉が多い。
そのとき、
「○○の家(室内)」「○○の家(外とか外観)」、
「会社(フロア内とか室内とか)」「会社(外とか外観とか)」
などのように、()に入れて注記するか、
「○○の家、内」などのようにテンで区切って併記することが多い。

「駅、構内」「駅、入り口」とか、「スタジアム内、グラウンド」「スタジアム外、行列」など
広い場所での、具体的なドラマの起きる場所の指定にも使う。

外か中かは、日本のような雨の多い国では、
スケジュール見込みをするときにも重要だ。
脚本家がそこに気を使うことはないけど、
室内シーンが続く話は、間違いなく雨の心配をしなくてすむ、
ぎりぎりの低予算ドラマであることが多いね。

脚本家がむしろ気を使うべきは、
ずっと室内に籠っているときは、時々外の空気を吸わせたいものだ、
とか、室内と外の緩急をつけて、絵に変化をもたせるべき、
という点だ。


2夜、昼、朝、夕という時間帯

絵づくりでは、時間帯も重要なのでこれも指定する。
指定なしはデフォルトで、昼のことをさす。
たとえ11時の設定だとしても、時計さえうつさなければ、
3時に撮影したとしても画面上は区別がつかないので、
「太陽の出てる時間」のことは、一般に全部昼(daylight)という。
しかし、昼休みでOLのランチが混む時間帯、など、
昼でも特別な時間なら、時間指定はするべきである。

夕焼けや、朝早い時間帯は「斜光」といって、
黄色い、オレンジの時間帯だから、これは昼と区別する。
朝の出勤、徹夜明け、あるいは夕焼けは、ドラマの生まれやすい時間帯だから、
これを特別視して、昼間の「上から来ている光」でない時間帯に撮影したいものだ。
夜明け、日没の瞬間、など、さらに細かい時間指定が物語に必要なら、
それも指定しよう。

夜も、絵が昼間と違うので、指定する。
月明かりひとつない、などさらに指定が必要ならそうする。
歴史は夜つくられる、という格言もあるくらい、夜にドラマは起こりやすい。
注意したいのは、映画は完全な闇は撮影できないことだ。
ライトをたかなきゃ写らないからね。
そのライトで、どれくらいの闇を表現するかを脚本で指定する。
丑三つ時は、やはり晩御飯の時間より暗いだろうし。

同じく()で注記したり、テンで区切って併記。
学校、教室、夕、とか、○○の部屋(深夜)などだ。


3季節と天気

物語に必要なら、季節を指定する。日本は四季の国だもの。
冬の朝、夏休み、秋の夕暮れ、桜並木、
それらの要素がお話に必要なら併記する。
ロケ地の撮影時期や、衣装に関係する重要な要素だ。
(5月に桜を撮らなきゃならないから、東北まで撮りにいったこともある)
特に指定しないときは、「オールシーズン」といって、
どの季節でもない(なんとなく春か秋)ことを想定する。
オールシーズンは使い勝手がよくてプロデューサーには好まれるが、
僕は季節に応じた話の方が好きだな。

天気は、特に指定しない限りは晴れだが、
雨や嵐、強い風の日や雪など、
物語に必要ならそれも指定する。
降雨装置で雨を降らすのは、昔から映画のハイライトのひとつだ。



柱は、なるべく簡潔に書こう。
柱は、小説における場所の描写ではない。
お話に必要な場所のリストアップに使われることを念頭に入れよう。
「不気味でいまにも幽霊が出てきそうな廃屋」と書かず、
「廃屋の前、深夜」などでよい。
その後のト書きで、「不気味で、いまにも幽霊が出そうだ」
と書くとよい。
「思い出の染み込んだ校舎の前」という表現は出来ない。
「校舎の前」までだ。
思い出が染み込んでいるかどうかは、
カメラで撮ることは出来ない。
このシーン以前に、この校舎で忘れられない出来事が起こり、
それを踏まえてこのシーンがあるだけだ。
染み込んだ思い出を見るのは、カメラではなく、
文脈を踏まえた我々である。


マトリックスの、ネオにこの世界のことが解説される白い世界などは、
「白い抽象世界」などと書いてよい。
キューブのような、どこまでも続く迷路なら、
「どこかの部屋5」などのようにナンバリングしてもいいだろう。
とにかく、スタッフ達がリストアップ出来る名詞を提供出来るのがよい。
ディテールは、ト書きに分けて書くのがいいだろう。

よくある例外処理:

縁側にあがり、部屋を通り、玄関から外へ出るような、
屋内と外が次々に変わるシーンでも、柱を別々に書くべきか。
一連で勢いがあるなら、
「○○の家、縁側〜部屋〜玄関〜家の外」などのような表記も可能だ。
歩きながら二人が喧嘩しているうちに次々に背景が変わるような場合、
会話の勢いを削がないために、このように書くとワンブロックが示しやすいだろう。

ケータイで会話する二人のカットバックでも、
いちいち柱を立てると煩雑なので、
最初の場所の柱を立てて、ト書きに相手の場所を書き、
(例:「○○の部屋」ではじめておいて、「海のBとケータイで話す」などと書く)
あとは会話を連ねるか、
柱に「AとBの場所での会話」(例:○○の部屋と海でのケータイでの会話)
などのようにひとまとめに書いてしまうのがよいだろう。


同じ場所が続くとき、例えば○○の部屋で話が終わり、
また○○の部屋で話が続くとき、
二回目を「同、二時間後」「同(日替わり)」などと書く。
日替わりは定食ではなく、別の日の意味だ。正確に次の日なら、次の日と書いてもよいし、
曖昧にしたいときは日替わりと書く習慣がある。
日替わり表記は、「衣装を変える」ことを衣装部に伝える目的もある。

また、シーンまるまる回想なら、
分かりやすくするために、(回想)を併記する。
回想から現実に戻ってきたとき、
「(回想終わり)○○の部屋」や「(もとに戻り)○○の部屋」
などと親切に書くと、スタッフが回想シーンの区切りを見つけやすいだろう。



このように、柱とは、
どんな場所を用意するか、それをどう撮るか、
何を撮影前に準備するか、などのスタッフワークが前提のものだ。

キミが書くのは、物語の進行を止めない程度の、
簡潔な柱だ。

シナリオでは毎度毎度たった一行だけど、
それには色んな意味が入っている。
是非具体的なシナリオを入手し、
柱の書き方を勉強してほしい。

さて、次回はト書きについて。
三人称視点がキーワード。つづく。
posted by おおおかとしひこ at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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