スタンドバイミーさんの質問にこたえて。
ぼくは、マーケティングは市場を縮小する、という主張をしています。
マーケティングは、一回はありかもしれない。
100からたとえば70でピンポイントを狙う。
しかし、次回はその70の中から70を狙わなきゃならなくなる。
49になる。三回目は34になってしまう。
シリーズものなどがそうでしょう。
そうでなくとも、監督や作者という通貫で人が見るなら、
自分のつくるものは全てオレシリーズということになる。
一部を相手にするものは、必ず先細ります。
映画は、マーケティング理論以前の商売です。
ヒットの基準は国内市場で10億。
割引なしの1800円で見たとして、
55万人が見る必要があります。
小説や漫画などの出版では10万部がヒットの基準です。
テレビ番組のヒットの基準を視聴率18%とすると、
1億2千万のうち、2160万人が見る計算。
これはタダのメディアですが。
出版よりも、映画は多くの人を呼ばなければペイ出来ないビジネスです。
それは、万人向けの浅いものにせよ、
という安易なことを意味しません。
万人を海より深い底へ連れていく、いいものをつくれ、
ということを意味します。
○○向け、というのは、そのいいものを作れない、
言い訳に過ぎません。
たとえ男向けのアクション映画だろうが、
女の人が(共感できなくても)感情移入できるものをつくるべきです。
血や暴力やグロを描いて女の人が目を背けるものでも、
主人公の行動には、誰もが感情移入出来るものがベストです。
たとえ少女漫画の実写化だろうが、
俺でも感情移入出来る映画が理想です。
面白そうならお金を僕は払ってでもみにいきます。
デートで行くこともあるでしょう。
シネコンとかで、家族が出掛けて、
お父さんとお母さんは別の映画を見て、
終わったら待ち合わせる、なんて習慣は大嫌いです。
一緒に行くなら一緒のものを見るのが楽しいもの。
家族をそんな不幸に陥れる映画は、もはや悪です。
みんなで見ていいものをつくるべきです。
親がテレビでは目をひそめる内容であっても、映画では構いません。
映画は、刺激だけでない文学だからです。
そして、そのようにあるべきです。
○○向け、は、市場が狭いです。
一度そこにはまったら、二度と万人向けを考えなくなります。
万人向けを考えることは辛いけど、
たとえば萌え属性姉オンリー微乳もの、というジャンルを考えることは楽だからです。
同好の士が楽しみを共有することは、
同人なら構わないですが、その市場以上に拡大はしないでしょう。
(万人向けを考える努力を放棄したプロたちが、
同人に負けている情けない現状もあるでしょう)
万人向けの浅いものは、僕は大嫌いです。
「男はつらいよ」にずっとその臭いをかぎとって、
この年まで一本も見てないので、そろそろ見てみてもいいかと思っています。
CMは、マーケティングとか言い出してから詰まらなくなりました。
「誰がいつどこで、不意に目撃したとしても、
注意と魂を奪うべきもの」と僕は信じています。
「ペプシマン」の作り方はそうでした。
はじまって1.5秒以内に、たとえ見逃していても、
あ、ペプシマンがはじまった、と振り向ける間があるように、
毎回計算されていました。
(具体的には、ペプシマンの歌の前奏と、足音。
音圧を調整し、全周波数でのレベルを上げて、
どういう体勢で聞いても聞こえる音に調整されている。
トップカットの間は話を進めないなど)
たとえ生理用品のCMでも、僕が好感をもち、
彼女に勧めたり、その生理用品を使っている人を好きになるような、
そんなものを与えるべきです。
「売れる」なんて二の次です。
世間にこの商品はどのようなキャラとして記憶されるか、
をつくることが広くオンエアすることです。
それが浸透し、愛されることが全てです。
あとは商品力や販売力があれば、勝手に売れるものです。
バーゲン告知CM業界では、必ず走って急ぐ人を描かなくてはならない、
という先入観があります。僕は不要だと思います。
関西で80年代テレビを見ていた人なら、
越前屋俵太が自転車に乗って真冬の埠頭を走り、そのまま海に飛び込むだけの、
心斎橋ビブレのバーゲン告知を知っていると思います。
そのCMが理想です。僕はいまだにビブレが好きです。
受ける、受けないというのは、
肌感覚です。
一部に受けるのか、全部に受けるのか、
自分で分からなければプロではありません。
これは一部にしか受けないというものは、
そういうマーケティング商売に、押し込められてしまいます。
プログラムピクチャーというジャンルです。
かける予算も、リターンも少ないです。
どんな人が見ても受けるものこそ、
本当は全員が求めているものです。
それが少ないから、○○向けということに結果的にお茶を濁して、
小金を稼いでいるに過ぎません。
車田正美風に言うなら、マーケティングなんて、
ちいせえ人間のやることだぜ。
物語ってのは、もっと大きな可能性があるもんだ。
主に○○向けなのは、作品の性質上あることですが、
○○以外を拒否してはいかんと思うのです。
○○以外も、引きずり込む魅力をつくるべきです。
僕は国内市場程度で考えていますが、
風魔ファンには外国の人もいたりします。
市場規模のイメージを広げる世紀でもあると、今は思います。
さて、ベスト漫画とドラマ。
選ぶのは難しすぎる。
僕は中学高校を80年代黄金期のジャンプで育った人間なので、
あのラインナップならなんでもいいかもだけど、
アットランダムでよければ、
「ドラえもん」「北斗の拳」「ブラックジャック」かな。
ドラマは完走したものは殆どないです。
なので「風魔の小次郎」いちおしで。
予算の安さ以外は、志の高い、最高傑作のひとつと思います。
あ、オンエア時の「アンフェア」は好きでした。
DVDバージョンはsurviverが流れず、あの不安を掻き立てられないらしく、
見てません。
2014年06月28日
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脚本の技術的な答えが返ってくると思っていましたら、
市場の話だったのですね。納得しました。
大岡監督の漫画・ドラマのベスト
ちょっと肩透かしでした。
(ブラックジャックやアドルフに告ぐは入っていると思っていましたし、
少女漫画は嫌いと言いつつ、ガラスの仮面は良く出来ていると
称賛するのを期待していました。)
このブログの読者なら作品名の羅列でなく、
この作品のここをよく読んどけ、観ておけが、ほしいでしょう。
別にベストでなくとも、(プロから見た)この作品はここが良くできているが、ほしいのです。
お忙しいのかも知れませんが、
お時間がある時にぜひぜひ、お願いしたいです。
僕はかつて漫画家を目指していたとはいえ、
僕がプロの目になれるのは映画とCMぐらいで、漫画までカバーしきれないのですいません。
プロの目から見たときに恐ろしいのは、
「ブラックジャック」を週刊連載で落とさずに描いたことです。
あのプロットを毎週思いつく、その構築力。
手術のネタが毎週被らないこと。
おそらく手術ネタが最初にありきで考え始めるのだろうけど。
ためしに一年分、53本を毎週考える(ネーム構想3日以内程度しかスケジュール的に無理だろう)のは、大変よいトレーニングになるでしょう。
ストック使いきってからが、プロの本領かと思われます。
多分俺はマーケが嫌いなんです。
あいつら何も作らないから。
イノベーション?
俺たちの人生はそれだらけなので、
あえて意識もしたことないです。
イノベーションなんて言葉を使う人は、
日々新しくものを作ってない人だと思います。
わたくし理系人間なので、経済学は疎いのです。
一般の人々の経済用語なんて、
一般の人々の理系用語ぐらいいい加減に使われてるんじゃないかと思ってます。
イノベーションを無視した結果マーケが縮小する、とドヤ顔でいくら言っても、
新しいものが作れる訳ではないのです。
重要なのは、新しいものを認識できる嗅覚と、
それを実現するために、リーダーシップを取って他の人を巻き込むことじゃないかなあ。
僕はリーダータイプじゃないからその辺が苦手ですが。