2014年07月21日

偶像崇拝2

キャラは不変なのが原則だが、
一度だけキャラを変えてよい。
登場時だ。


登場したとき、たいてい何かもめごとを起こし、
仲間になったりするエピソードがある。
(スラムダンクの三井が分かりやすい)
もめごとのあとは、定常状態になるのだ。
キャラは、登場時とその後の定常状態のふたつ描ける。
たいてい定常状態のものを定番キャラとし、
初期状態を初期○○などのバリエーションとして扱う。
(3Pシューターとしての三井か、ロン毛で前歯のない三井か、
という話。井上雄彦の上手さは、髪型を変えたことだ。
心境の変化とキャラの変化を漫画的に表現している)

新キャラは、登場エピソードが全てだ。
登場の瞬間だけでなく、登場→活躍(もめごと)→定常状態までの一連が、
登場エピソードと考えるとよい。

ちなみに、この登場エピソードがそのキャラにとってのピークである。
その後の定常状態では、そのキャラにドラマは用意されない、
いわば「飼い殺し」が続く。
何故か。キャラを変えられないからだ。
そのキャラを保つ為だ。
逆に、そのキャラにドラマが用意されるということは、
キャラが変わるということだ。

ドラゴンポールにおけるピッコロを考えよう。
大魔王としてのピッコロが仲間になったときに、
キャラの変わるドラマとなった。
僕にとってのピッコロは、仲間としてのピッコロではなく敵としてのピッコロだが、
仲間としてのピッコロのほうが期間的には長いだろう。
ピッコロの定常状態、つまりキャラのイメージは仲間としてのピッコロだ。
敵としての初期ピッコロと、区別される。
仲間になるというドラマを通じて、キャラ変が起こっている。

つまり、ドラマはキャラを変える。
映画では普通のことであるが、
漫画では、登場エピソードがドラマであり、
その後にドラマがないのが普通だ。
主人公が目立たないという長期連載での問題は、
主人公に関するドラマが尽きて、
新キャラの登場エピソードだけで話を続けている不自然さにあるのだ。



ドラマ版風魔では、この構造を意識した上で、
登場即死、キャラの使い捨てと言われる原作版に改良を加え、
死ぬキャラに対して「登場エピソード」を設定することを意識した。
「感情移入した瞬間、そのキャラの死に立ち合う」という構造に、
結果的になった。それが魅力となっていったのだ。

また、特に前半戦では、風魔の生き残り4忍が、
小次郎にとってどういう影響を与えるかを、ドラマとして描いた。
これが生き残り組の「登場エピソード」になるようにしてあるのだ。
(同時に、小次郎の影が薄くなる原作版の欠点をカバーしている)

一方、主人公小次郎と裏の主役壬生だけが、
作品全体を通して成長、変化している。
だから小次郎のキャライメージは、
初期のコント系か、風林火山習得後の最終形か、
人によって異なる。
壬生のイメージも、
登場時の自信溢れる状態→ヘタレ→暴走→黄金剣マスター後
と、どれが壬生かは人によって異なるだろう。

他のキャラクターは、キャラクタービジネスに使えるかも知れないが、
小次郎と壬生は、変化しないキャラクターではなく、
変化した人間である。
だからキャラクタービジネスとは相性が悪い。
(舞台版がキャラクターショウになってしまったのは、
原作にないドラマ版の、この小次郎と壬生の変化のドラマを
脚本に入れていないからだ。原作準拠といえばそれまでだが、
原作は所詮キャラクターショウなのだ)



キャラが好きになるのは、
ビジュアル(髪型とか服とか)や
性格(優しいとかツンデレとかヤンデレとか)などの、
定常状態ではない。
登場エピソードのドラマ的な変化によるものだ。

キャラクター優先で物語をつくると、
変化しないことを優先しがちになる。
それは、キャラクター前提の漫画やアニメの見すぎだ。

物語を書くのなら、登場人物の変化を前提に考えるべきだ。


物語を見せるのではなく、芸能人を見せるのが主になってしまった昨今のドラマでは、
登場人物のキャラが変わらないことが普通になってしまった。
芸能人とは、キャラという偶像崇拝のことだ。
キャラを変えられないのは当然のことだ。
芸能人偏重は、ドラマを殺す。
キャラ偏重は、物語を殺す。


仏陀やキリストが偶像崇拝を禁じたのは、
生成流転のこの世の法則の外にあることを、
知っていたからかも知れない。
posted by おおおかとしひこ at 12:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック