小説でも歌でも、
冒頭の一文字が難しい、とはよく言われることだ。
これはプロしか実感出来ないかも知れない。
アマチュアのうちは、「思いついた!」が書くときだから、
冒頭なんて一瞬で書けてしまう。
(だから途中で挫折してしまいがちなのだが)
今の気分を吹き飛ばす魅力的なアイデアを、書きなぐる。
だからアイデアを思いつくのって難しいよね、
やっぱ神が降りる感じかな、などと思って理解した気になる。
プロは違う。
冒頭の一文字にたどり着く前に、
全ての下準備を済ませているのだ。
アマチュアが「思いついた!これで書ける!」
と思うクラスのアイデアが閃いたとき、
プロならば、まずそれを詳細に記録したうえで、
書きはじめない。
どうするか。
その続きを考える。
クライマックスを先に考えることもある。
ラストを考える。
途中あったら面白いシーンなども考える。
ログラインを書いてみる。
テーマは何かを書いてみる。
メインコンフリクトは何かを明確化する。
登場人物についてのディテールを詰める。
外見のイメージ、目的、立場、職業、個人的意見。
メインコンフリクトについては特に深く考える。
もし脇役でキャラの立ちそうな奴がいたら、それも考える。
興味深いサブプロットのアイデアも出す。
全体像を眺める。
一体これは、なんの、どのような話なのか。
三幕構成を書いてみたり、幕切れの第一第二ターニングポイントについても考える。
目的とコンフリクトの表をつくる。
はて、この話は何が面白いのかについて考える。
客観的になる。
どこが人々の琴線に触れるのか、
自分は何を書きたいのか、
客観的に眺めてみる。自分の情熱や書く意義についても考える。
自分の生命の一部をそこに埋めるに相応しい作品か、
吟味する。
なさそうなら、或いは新しいアイデアを待ったり、
ストックしておいたものの中から、
相応しいものを出してきて合体させたりする。
そうしているうちに、「面白い話」という生命を、
話自体が持ち始める。
伏線やその解消についても考える。
ブレイク・シュナイダーの「ボード」を埋める。
空白がないようにする。
何度も何度も話を頭の中で再生したり、
ぶつぶつ言ってみたり、他人に聞いてもらったりする。
何が足りないのか、あるいは何かが余計なのかを考える。
大抵何かを削ぎ落とすと、残ったものが大事なものだ。
構造はシンプルに、内容は深く。
これは二時間に値する題材なのかを考える。
それに相応しい事件か。
それに相応しいテーマか。
ひょっとしたら30分が適切かも知れないし、
3時間が適切かも知れない。
作品世界を深める為、調べものをする。
その世界のリアリティーについて取材する。
(取材だけで半年かかるのは、ざらだ)
リアルとつくりごとの差についても、意識的にしておく。
初期衝動を振り返る。
これは何について書こうとしていたのか、
見極める。
テーマの本質をズバリ無意識的に突いていることもあるし、
そうでないこともある。(僕は大抵前者だ)
その初期衝動から広がった正当な展開かも考える。
サブプロットとメインプロットの絡みを考える。
特に中盤の面白い展開を考える。
クライマックスは、ドキドキワクワクするか。
この話の山場に相応しいオリジナリティーを用意する。
それと真逆の第一幕を、逆算で考える。
どんな設定から入ればそうなるか。
その初期状況は、どんな感じか。
そこで生きる主人公を、ごく短くセットアップするに相応しいエピソードを創作する。
そこに事件が起き、最初の主人公の反応はどうかを考える。
どう巻き込まれていくのか、逃げるのか立ち向かうのか、
そして第一ターニングポイントでセンタークエスチョンが明らかになったとき、
何故彼は冒険の旅に本心から出ようと思うのか、
それに相応しいセットアップになっているかを考える。
そして冒頭に戻ってくる。
初期衝動で書いたメモは、今ある全体に相応しいものか。
殆どの確率で、それは書き直した方が合理的だ。
すでに初期衝動よりも、明確な形で面白いストーリーが出来上がっているからだ。
全体に相応しい、新しい冒頭を考える。
映画のはじまる前の、観客席とスクリーンを想像する。
そこにゆっくりと浮かぶ、最初の導入を、想像する。
それから、はじめて冒頭の一文字を書く。
ざっとシミュレーションしてみた。
つまり、プロが冒頭の一文字を書き始めるのは、
「全部できたとき」だ。
アマチュアが冒頭の一文字を書き始めるのは、
最初だけ思いついたときだ。
見た目は同じ冒頭の一文字でも、
中身はまるで違うのだ。
今、数クール想定のドラマの企画を水面下でやっている。
(※風魔ではないです。ファンの人すいません)
第一話を、三通りぐらい脚本で書いた。
それは全体の話が決まっていないからで、
全体の話は、第一話を書かないと構想が難しかった。
第一話を書く→その後を構想する
→それに相応しい全然違う第一話を書く→その後を構想する
のループを繰り返しながら、最長不倒距離を伸ばして来たようなものだ。
冒頭の一文字から、最後を見据えた伏線を張らなければいけないのは当然だ。
だから、冒頭の一文字は難しい。
これは、何度も何度も最後まで書き終えた経験が、
プロにはあるからである。
2014年07月24日
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