2014年07月24日

冒頭の一文字

小説でも歌でも、
冒頭の一文字が難しい、とはよく言われることだ。
これはプロしか実感出来ないかも知れない。

アマチュアのうちは、「思いついた!」が書くときだから、
冒頭なんて一瞬で書けてしまう。
(だから途中で挫折してしまいがちなのだが)
今の気分を吹き飛ばす魅力的なアイデアを、書きなぐる。
だからアイデアを思いつくのって難しいよね、
やっぱ神が降りる感じかな、などと思って理解した気になる。

プロは違う。
冒頭の一文字にたどり着く前に、
全ての下準備を済ませているのだ。


アマチュアが「思いついた!これで書ける!」
と思うクラスのアイデアが閃いたとき、
プロならば、まずそれを詳細に記録したうえで、
書きはじめない。

どうするか。

その続きを考える。
クライマックスを先に考えることもある。
ラストを考える。
途中あったら面白いシーンなども考える。
ログラインを書いてみる。
テーマは何かを書いてみる。
メインコンフリクトは何かを明確化する。
登場人物についてのディテールを詰める。
外見のイメージ、目的、立場、職業、個人的意見。
メインコンフリクトについては特に深く考える。
もし脇役でキャラの立ちそうな奴がいたら、それも考える。
興味深いサブプロットのアイデアも出す。

全体像を眺める。
一体これは、なんの、どのような話なのか。
三幕構成を書いてみたり、幕切れの第一第二ターニングポイントについても考える。
目的とコンフリクトの表をつくる。

はて、この話は何が面白いのかについて考える。
客観的になる。
どこが人々の琴線に触れるのか、
自分は何を書きたいのか、
客観的に眺めてみる。自分の情熱や書く意義についても考える。
自分の生命の一部をそこに埋めるに相応しい作品か、
吟味する。
なさそうなら、或いは新しいアイデアを待ったり、
ストックしておいたものの中から、
相応しいものを出してきて合体させたりする。

そうしているうちに、「面白い話」という生命を、
話自体が持ち始める。
伏線やその解消についても考える。

ブレイク・シュナイダーの「ボード」を埋める。
空白がないようにする。
何度も何度も話を頭の中で再生したり、
ぶつぶつ言ってみたり、他人に聞いてもらったりする。

何が足りないのか、あるいは何かが余計なのかを考える。
大抵何かを削ぎ落とすと、残ったものが大事なものだ。
構造はシンプルに、内容は深く。

これは二時間に値する題材なのかを考える。
それに相応しい事件か。
それに相応しいテーマか。
ひょっとしたら30分が適切かも知れないし、
3時間が適切かも知れない。

作品世界を深める為、調べものをする。
その世界のリアリティーについて取材する。
(取材だけで半年かかるのは、ざらだ)
リアルとつくりごとの差についても、意識的にしておく。

初期衝動を振り返る。
これは何について書こうとしていたのか、
見極める。
テーマの本質をズバリ無意識的に突いていることもあるし、
そうでないこともある。(僕は大抵前者だ)
その初期衝動から広がった正当な展開かも考える。

サブプロットとメインプロットの絡みを考える。
特に中盤の面白い展開を考える。

クライマックスは、ドキドキワクワクするか。
この話の山場に相応しいオリジナリティーを用意する。

それと真逆の第一幕を、逆算で考える。
どんな設定から入ればそうなるか。
その初期状況は、どんな感じか。
そこで生きる主人公を、ごく短くセットアップするに相応しいエピソードを創作する。
そこに事件が起き、最初の主人公の反応はどうかを考える。
どう巻き込まれていくのか、逃げるのか立ち向かうのか、
そして第一ターニングポイントでセンタークエスチョンが明らかになったとき、
何故彼は冒険の旅に本心から出ようと思うのか、
それに相応しいセットアップになっているかを考える。

そして冒頭に戻ってくる。
初期衝動で書いたメモは、今ある全体に相応しいものか。
殆どの確率で、それは書き直した方が合理的だ。
すでに初期衝動よりも、明確な形で面白いストーリーが出来上がっているからだ。

全体に相応しい、新しい冒頭を考える。
映画のはじまる前の、観客席とスクリーンを想像する。
そこにゆっくりと浮かぶ、最初の導入を、想像する。


それから、はじめて冒頭の一文字を書く。




ざっとシミュレーションしてみた。
つまり、プロが冒頭の一文字を書き始めるのは、
「全部できたとき」だ。
アマチュアが冒頭の一文字を書き始めるのは、
最初だけ思いついたときだ。
見た目は同じ冒頭の一文字でも、
中身はまるで違うのだ。

今、数クール想定のドラマの企画を水面下でやっている。
(※風魔ではないです。ファンの人すいません)
第一話を、三通りぐらい脚本で書いた。
それは全体の話が決まっていないからで、
全体の話は、第一話を書かないと構想が難しかった。
第一話を書く→その後を構想する
→それに相応しい全然違う第一話を書く→その後を構想する
のループを繰り返しながら、最長不倒距離を伸ばして来たようなものだ。


冒頭の一文字から、最後を見据えた伏線を張らなければいけないのは当然だ。
だから、冒頭の一文字は難しい。

これは、何度も何度も最後まで書き終えた経験が、
プロにはあるからである。
posted by おおおかとしひこ at 13:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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