2014年07月25日

「マホロバ」を観よう(脚本論としての批評)

脚本家を目指す者は、観といたほうがよい。
とても素直で本質的な良脚本だ。
(ラストFFとかのゲームっぽいけど)
村井の芝居を観に行ったのだが、予想外に内容が良かった。

いい脚本は役者を乗せるという、いい循環が出来上がっている。
シアタークリエで日曜まで。
女性ファンの中、居づらさを感じながら、当日券ゲットに並ぶべし。

(以下ネタバレせずに批評)


一幕の幕切れに鳥肌が立つ。
最高のターニングポイントだ。
演劇のドラマチックな幕切れとはこのようなものか、
を十二分に味わえる。
(クライマックスより、僕のピークはここだったかなあ)

多少のアドリブは入っているものの、
これらの台詞は全て台本に書いてあることを意識しながら見よう。
どんな言い方ならこの台詞に命を持たせることができるか、
役者たちは懸命に台詞の言い方に全身全霊をかけている。
稽古のある芝居ならではの、いい産物だ。
(中でも宝塚の二人は、なんの抵抗もないいい芝居をしている。
どんな台詞でも、はじめから自分の言葉であったかのように言える、
おそるべき柔軟性だ)

現場で台詞をはじめて言うのがほとんどの映画界では、
台詞の一言一句を変えずに読むことは殆どない。
それは、芝居が本当に上手い人の割合が少ないからだ。
芝居が出来る役者が集まったときの、
芝居の強さ、面白さ、凄味を、肌で感じるよい機会だ。
(ここまで三拍子揃った芝居の場も滅多にない。
これが本来の「芝居」なのだろうけど)

あなたはこの台詞を書く担当であるはずだ。武者震いするではないか。


僕が気に入ったのは、トップシーンである。
見世物小屋の前口上の、リズムのいいこと。
冒頭の一文字から、物凄く練られている素晴らしさ。
冒頭の数行の調子よさだけで、この芝居がちゃんと書かれていることがわかるクオリティ。
まだ始まってばかりの眉唾な観客を信用させるだけの、
この芝居は面白いぞ、ときちんと導入する名台詞だ。

映画だとあまりに長い長台詞も、
舞台ゆえに楽しんで見ていられる。
その台詞をこう言うのか、という楽しみすら生の芝居にはあるものだ。


今の映画は、芝居がもっている、
大人が真面目につくる、「嘘なんだけど本当」に欠けている気がする。

台本があるやん。
ふりをしてるだけやん。
音楽がかかるやん。
舞台セットはイントレと物見矢倉とカーテンだけやん。
DLPでそれにちょっとCGうつすだけやん。
生でそれをみんなで合わせてるだけやん。

けれど、
それが物語を語るということなのだ。

文明が始まって以来、人類がたどり着いた最高の娯楽のひとつだ。
「嘘なんだけど本当」を楽しむことの。

この脚本を、書いた奴がいるのだ。


8800円のチケットは、正直高い。
だが、100万円払っても、これと同じ体験を出来るものは滅多にない。
高いけど、本物は見るべきだ。



脚本技術的には、サブプロットと狂言回しと、
メインコンフリクトの絡みを意識しながら見るといいだろう。
狂言回しがコンビともう一人、計3人いる、珍しいタイプだ。
樹海の設定(これ、いる?)を含め、
この脚本家は、三つ巴が好きらしい。

勿論、映画脚本でこんなものを書いたら、
「いくらかかるんだよ」と却下されることが99%だ。
舞台演劇ならではのパターンかも知れない。
だからと言って、書いてみろといわれて、なかなか書けるタイプの脚本ではない。

「ベルセルク」は、果たしてこれより上手い結末を用意出来るかなあ。
三浦健太郎が心配になってしまう。


パーフェクトな脚本ではない。
決闘後の展開は多少無理がある。
肺病の伏線も効いていないし、ヒロインが樹海からさらわれた理由も、
うーんなんだこれ感はある。
マホロバはいわゆるマクガフィンだが、
もっと上手く落とせるはずだ、という煮え切らない感はある。
ザッパのラストも、ご都合だ。
(かといって、マホロバはみんなの心にある!みたいなことでもうーん、だろうし。
ジブリアニメ臭もちょっとあるよね。多分同世代の人なのかも)

それを、キャスト達が上手く埋めている。
キャストに助けられている、のは脚本としては失格だが、
欠点を補いたくなる、一線を越えたレベルの脚本であることは確かだ。

こういうとき、作演出が一人だと難しい。
脚本と監督が別なら、監督がもっといいエンドを書く提案もあり得るのだが。

僕なら、ラスボスを佐藤アツヒロにせず、
ラスボス前の露払いにし、
ラスボスをきちんと佐々木に回すと思う。
二人の出会いで始まった物語は、二人の決闘で円環を閉じるべきだ。




あと、雑感。

殺陣は僕好みの中国剣法で大変好物。
挫盤勢でのキメが多すぎてまたそれか感はあるけど。
日本刀以前の直剣というのもいい。
あれは槍ではなく矛なんだね。
遠目では判らなかったけど、蛇矛スタイルだったかも。
石突き側での工夫がもう少しあるといいな。
相手に得物を投げるジャッキー方式が僕にはツボでした。
欲を言えば旋子や二起も見たかった。
そうそう、ジャッキーによくある、
何かを拾う動作で結果的にかわして、相手がその背中を転がるやつも見たかった。

オープニングの殺陣で一人だけ剣捌きの違う、
舞うような剣の使い手がいて、遠目では最初女剣士に見えたので、
いい役者使ってるなあと思ったら、佐藤アツヒロだった。
流石のダンサーぶりです。
華ってこういうことだよねえ。何だろう、ターンかな。
華といえば、宝塚の二人の歌もいいです。
芸能ってこういうこと。
なんだろう。昔の人はこういう人を観音様と言ったんじゃないかなあ。

あと、サントス・アンナさん、タイプです。
つきあってください。早速wikiで結婚していることを知り、ショックです。


(追記:マホロバ関連まとめました。→まとめ
posted by おおおかとしひこ at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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