普段は映画脚本のことについて語っているブログです。
マホロバがかなり良かったので、
風魔ファンの皆様もこのブログを沢山見てるみたいです。
役者論でも書いてみましょうか。
村井の役者としての個性は、
理性で憑依させるタイプかなと。
憑依型は憑依型でいるけど、
村井がそれと違うのは、
その憑依を理性でやってるところ。
彼の演技には、同時に二人の人格がいる。
一人はその役が憑依した人格。
一人はその憑依を監督してる人格。
優れた役者は大抵、
役から見ての芝居と、観客から見ての芝居と、
ふたつを同時に見ながらコントロールする力を持っている。
特に宝塚の二人はその力に優れていて、
「楽器とその弾き手」に役者の身体能力と中の人を例えるなら、
いわばストラディバリウスのような至宝を感じた。
大和田獏や佐藤アツヒロは、それに個性を乗せてくるタイプだ。
その乗せた個性で売れてきた人だ。
その個性は本人のパーソナリティーか、つくりあげたものかは、
近しい人間でなければ知るよしもない。
(たとえばお笑いの人はプライベートではネクラが多いという。
人前でとある個性を演じているのだ)
一般にその「個性」を、人は才能と思う傾向にある。
サントス・アンナの芝居も同じくだ。そのキュートさたるや。
一流の役者は、
役から見た芝居と、観客から見た芝居とを同時に見ている。
そうでない限り、芝居の「よさ」を自己評価し、
高めていくことなど出来ないからだ。
村井は、言うまでもなくこの能力を持っている。
普段の彼は、驚くほど冷めている。
誰かのツイートで読んだが、カーテンコールにはもうザッパがいなくて村井がいた、
という感想があった。ザッパの魂のいなくなったあとが、普段の村井だ。
彼は、その理性で、憑依をつくりだす。
ただ憑依するアーティストではなく、
優れた楽器の優れた弾き手でもなく、
個性を乗せて売りにするのでもなく、
役の憑依を理性的に詰めていくタイプの役者ではないか。
風魔の撮影時だったか、台詞を覚えるのに録音して聞きながらやるという雑談をしていた。
並の役者なら、自分の台詞だけを覚えるものだ。
しかし村井は、シーン全体の段取りで覚えているといった。
つまり相手の台詞や、脇の動きまで把握しているのだと。
つまりこれは、脚本家や監督の立場から脚本を見ていることと同じだ。
このシーンでの全体の文脈を抑えた上で、
ひとつひとつ「どうあるのが理想か」を考えているのである。
自分の台詞のところではどう憑依させるかを考え、
相手の台詞のところでは相手がどう憑依すべきか、
までおそらく考えている。
もちろん、相手の役者や演出が考えることに微差はあるだろう。
それを、観客目線でも、役の目線でも、おそらく相手役の目線でも考えられるのだ。
役者が監督になって成功するパターンは、
彼のようなタイプのような気がする。
(芝居以外の要素が監督には必要なので、必ずしも、ではないけど)
彼の意図的な憑依には、その方法論ゆえの欠点があることはある。
台本以外のことに弱い。(これは推定)
いい台詞を与え、いい文脈を与えれば、
生き生きと憑依してみせる。
が、たとえばダメな台本のとき、
役なりのアドリブで乗り切るのも役者には時には必要だ。
(極端な例では、高田順次はそれだけで生き残った凄い人だ)
常にベストの台本が与えられる幸運は、なかなかないからだ。
勿論時間があれば、彼なりに考え、こなすことは出来るかも知れない。
だけど、残念ながら、今のテレビや撮影時間のない映画では、
ダメな台本でも、瞬発力で面白いことをしてくれる人を求めがちだ。
(ベッキーなんかは、この達人だと思う)
それは役者というよりも、タレントとしての能力なのだけど、
残念ながら日本という国は、役者とタレントを殆ど区別していない。
楽器と弾き手は、楽譜があってはじめて何かを奏でられるのであり、
アドリブで作曲する才能は、本来関係がない。
「ブレードランナー」のクライマックスで、
ルトガー・ハウアーは、レプリカント(3年しか寿命のないサイボーグ)
の悲しみを切々と述べる。映画史上に残る名シーンである。
あの台詞は元々台本になかった。
彼が事前に書いてきたものだ。
超一流はそこまでする。そこまで行けたら、凄いことだろうけど。
(いや、俺ならその必要もないいい台本書くけどね)
相手役とミックスアップする力、
憑依力、理性や客観性が、彼の役者としてのいいところだ。
願わくば、いい台本と演出家に、これからも恵まれて欲しいところだ。
あ、僕もなんかあればオファーします。もうちょっと待ってね。
負け惜しみで言うけど、
俺は最初から村井の凄さは知ってたぜ?
6話のアバン、「誰にも言われず…」の名シーン撮ったときからな!
でもそれが3時間続くのと、一日2公演てのはすげえと思ったけど。
彼はやる子です。
(追記:マホロバ関連まとめました。→まとめ)
2014年07月25日
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