2014年07月25日

村井という役者。

普段は映画脚本のことについて語っているブログです。
マホロバがかなり良かったので、
風魔ファンの皆様もこのブログを沢山見てるみたいです。

役者論でも書いてみましょうか。


村井の役者としての個性は、
理性で憑依させるタイプかなと。

憑依型は憑依型でいるけど、
村井がそれと違うのは、
その憑依を理性でやってるところ。
彼の演技には、同時に二人の人格がいる。
一人はその役が憑依した人格。
一人はその憑依を監督してる人格。

優れた役者は大抵、
役から見ての芝居と、観客から見ての芝居と、
ふたつを同時に見ながらコントロールする力を持っている。

特に宝塚の二人はその力に優れていて、
「楽器とその弾き手」に役者の身体能力と中の人を例えるなら、
いわばストラディバリウスのような至宝を感じた。

大和田獏や佐藤アツヒロは、それに個性を乗せてくるタイプだ。
その乗せた個性で売れてきた人だ。
その個性は本人のパーソナリティーか、つくりあげたものかは、
近しい人間でなければ知るよしもない。
(たとえばお笑いの人はプライベートではネクラが多いという。
人前でとある個性を演じているのだ)
一般にその「個性」を、人は才能と思う傾向にある。
サントス・アンナの芝居も同じくだ。そのキュートさたるや。

一流の役者は、
役から見た芝居と、観客から見た芝居とを同時に見ている。
そうでない限り、芝居の「よさ」を自己評価し、
高めていくことなど出来ないからだ。

村井は、言うまでもなくこの能力を持っている。
普段の彼は、驚くほど冷めている。
誰かのツイートで読んだが、カーテンコールにはもうザッパがいなくて村井がいた、
という感想があった。ザッパの魂のいなくなったあとが、普段の村井だ。
彼は、その理性で、憑依をつくりだす。
ただ憑依するアーティストではなく、
優れた楽器の優れた弾き手でもなく、
個性を乗せて売りにするのでもなく、
役の憑依を理性的に詰めていくタイプの役者ではないか。


風魔の撮影時だったか、台詞を覚えるのに録音して聞きながらやるという雑談をしていた。
並の役者なら、自分の台詞だけを覚えるものだ。
しかし村井は、シーン全体の段取りで覚えているといった。
つまり相手の台詞や、脇の動きまで把握しているのだと。
つまりこれは、脚本家や監督の立場から脚本を見ていることと同じだ。

このシーンでの全体の文脈を抑えた上で、
ひとつひとつ「どうあるのが理想か」を考えているのである。
自分の台詞のところではどう憑依させるかを考え、
相手の台詞のところでは相手がどう憑依すべきか、
までおそらく考えている。

もちろん、相手の役者や演出が考えることに微差はあるだろう。
それを、観客目線でも、役の目線でも、おそらく相手役の目線でも考えられるのだ。
役者が監督になって成功するパターンは、
彼のようなタイプのような気がする。
(芝居以外の要素が監督には必要なので、必ずしも、ではないけど)

彼の意図的な憑依には、その方法論ゆえの欠点があることはある。
台本以外のことに弱い。(これは推定)
いい台詞を与え、いい文脈を与えれば、
生き生きと憑依してみせる。
が、たとえばダメな台本のとき、
役なりのアドリブで乗り切るのも役者には時には必要だ。
(極端な例では、高田順次はそれだけで生き残った凄い人だ)
常にベストの台本が与えられる幸運は、なかなかないからだ。
勿論時間があれば、彼なりに考え、こなすことは出来るかも知れない。
だけど、残念ながら、今のテレビや撮影時間のない映画では、
ダメな台本でも、瞬発力で面白いことをしてくれる人を求めがちだ。
(ベッキーなんかは、この達人だと思う)
それは役者というよりも、タレントとしての能力なのだけど、
残念ながら日本という国は、役者とタレントを殆ど区別していない。

楽器と弾き手は、楽譜があってはじめて何かを奏でられるのであり、
アドリブで作曲する才能は、本来関係がない。

「ブレードランナー」のクライマックスで、
ルトガー・ハウアーは、レプリカント(3年しか寿命のないサイボーグ)
の悲しみを切々と述べる。映画史上に残る名シーンである。
あの台詞は元々台本になかった。
彼が事前に書いてきたものだ。
超一流はそこまでする。そこまで行けたら、凄いことだろうけど。
(いや、俺ならその必要もないいい台本書くけどね)


相手役とミックスアップする力、
憑依力、理性や客観性が、彼の役者としてのいいところだ。
願わくば、いい台本と演出家に、これからも恵まれて欲しいところだ。

あ、僕もなんかあればオファーします。もうちょっと待ってね。


負け惜しみで言うけど、
俺は最初から村井の凄さは知ってたぜ?
6話のアバン、「誰にも言われず…」の名シーン撮ったときからな!
でもそれが3時間続くのと、一日2公演てのはすげえと思ったけど。
彼はやる子です。


(追記:マホロバ関連まとめました。→まとめ
posted by おおおかとしひこ at 02:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 実写版「風魔の小次郎」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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