2014年07月29日

台詞は憑依で書く

昔のヒーローごっこ、ままごと、お医者さんごっこと、
原理的には同じだ。
その人を憑依させて、台詞を言うのである。

それは理性的観察と再現という、物真似レベルからはじまって、
その人なら言いそうなこと、という応用編になり、
ついにはその人としてストーリーを動かすことへ至る。

その為に必要なことはなんだろう。


執筆を何度か経験した人ならわかるが、
「キャラが勝手に動く」ことがある。
自分の意思や感情を離れ、
勝手に喋りだし、筆者は記録者になるような状態だ。
(分裂病の初期症状と同じかも知れないことは、すでに書いた。
物語に終わりがないと、分裂病から帰ってこれない可能性がある)

とくにキャラクターに慣れた、後半に起こりやすい。

逆に、前半はいかにスムーズに憑依を起こすか、
ということを考えているとよいかも知れない。

シリーズものなどは、最初からこの憑依が起こる。
勿論レギュラーキャラだけで、ゲストに憑依が起こるのは後半にかぎる。


恐らくだが、その憑依の度合いは、
感情移入の度合いに比例している。
観客の感情移入の深さと、作者の憑依の深さが比例する、
という仮説を上げてみる。

僕は、演劇の冒頭1/3ぐらいによく戸惑う。
役者は十分な稽古をしていて、役を憑依させているのに比べ、
観客である僕は、まだそこまで感情移入出来ていないからだ。

勿論、その登場人物の事情などが分かってきて、
感情移入が進んでいくと、
そのおいてけぼりは徐々になくなってゆく。
(映画ではここまでギャップは感じない。
生かどうかが大きい気がする)

だから、物語の冒頭1/3は、
状況のセットアップや、日常が崩れる異物との出会いや、
センタークエスチョンの提示などの構成的なこともあるが、
登場人物へいかに感情移入させるか、という段取りでもあるのだ。



僕はクラス替えをいつも想像する。

近くの席の人の、名前をまず把握する。
名前を教えあう前にインパクトあるエピソードをやらかす人もいる。
なんとなく第一印象を覚えて、
話をし、その人の軽い過去(ここまでどうやって来たか)を知ったり、
その人の趣味や考えの、ごく表面的なことを理解する。
表面上のつきあいならこんなものだが、
性格が出てくるのは、「何かを一緒にしたとき」だ。
ここではじめて、ただ話しているだけじゃない、
その人の本心、本当のその人の片鱗が見えてくる。
何かしてるときは忙しくて深く話す暇はないけど、
ちょっと落ち着いて、ご飯でも食べれば、
その人の深い考えや、意外な過去を知ることが出来る。
直接聞くだけでなく、過去のその人を知っている人からの証言も有効だ。
なるほどそうなのかと思ったり、
そんな筈ないそれは誤解だと、本人に問いただしたりする。
そうこうしているうちに、
何か決定的なことが起こる。
この人の一番奥底が垣間見える、なにかだ。
そのときに、多分その人を好きになる、
つまり感情移入があり、作者にとって憑依が出来上がる。

その決定的ななにかは、現実であれば大したことないイベントだったりするが、
それをドラマチックにやるのが、フィクションというものである。


性格や過去の年表をつくることは、
これらの過程をスムーズに発想するための、下準備に過ぎない。
彼らを知っていくまでのドラマのほうが重要だ。
どんな人であるかより、どんなことをしたかが重要だ。
(beよりdo、wasよりdid、will beよりwill do)
前者は点、後者は線だ。

作者自身の感情移入が、恐らく憑依の原因だ。
キャラを掴んだ、という確信は、多分感情移入が上手くいったのだ。
(自分の個人的感情移入かどうか、観客全員の感情移入かどうかは、
冷静に見ておく必要はある)


それが出来れば、あとは勝手に書ける。
台詞はその人物が勝手に喋るから、
その記録を取るだけでいい。
むしろ各キャラが勝手なことをばんばんいうから、
作者(その時点ではもはや記録者)は、
交通整理をしながら、ストーリーに不要な発言は切ったりするぐらいだ。

もしあなたに、そんな憑依の経験がないなら、
脚本執筆の幸せをひとつも知らないことになる。
それは、書くという行為を、
論文のようなジャンルに変えたほうがいいかも知れない。


自分のお気に入りの映画や物語において、
どこで感情移入が起こったかを特定してみよう。
あるいはクラス替えを思い出して、
アイツと仲良くなったきっかけを思いだそう。
そのプロセスを研究しよう。
物語で、作者がどのような仕込みを仕掛けているかを研究しよう。

それらは、憑依の為の準備行為なのだ。
posted by おおおかとしひこ at 14:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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