2014年08月12日

失われたものへのレクイエム

それから二度と彼には会えなかった、とか、
殆どの者が戦場から帰らなかった、とか、
もうあの場所はない、とか、
二度と戻らないあの時、とか、
国破れて山河あり、とか、
「既にない」ことをラストシーンにすることは、
よくある。
僕は映画より小説に多いような気がする。

何故なら、騒ぎを一通り描いて、
「その後、二度と彼と会う機会はなかった」と結ぶだけで、
なにやら文学になるからだ。
(騒ぎの主が死んで終わり、というのもよくある)

映画では、「少年時代」がこのタイプのラストだ。
僕は、これは映画ではない、と極論してみたい。


失われたものへのレクイエム、とこのタイプを呼ぶことにしよう。
死にオチ、ロストオチ、無常オチ、などと言い換えてもよい。

死や、失うことや、二度と帰らない無常感を書くことは、
平安の昔から文学のテーマだ。
夏草やつはものどもが夢の跡、だ。
僕はこれを否定するつもりはない。

たとえば原作風魔の小次郎の魅力のひとつは、
忍びが使い捨てされてゆく無常感にもある。
次々に死んでいき、顧みられることのない、
非情な世界の魅力だ。

そういえば原作いけちゃんとぼくのラストも、
二度といけちゃんに会わなかった、というオチだ。
(おんなのこ物語のラスト、ぼくんちのラストも、
実は同じパターンだ。他にちん坊の話や、転校生のいじめられっ子の話、
黒猫を殺す話、犬を見捨てる話など、サイバラはこの手のラストが好きらしい。
あるいは、死別を含む永遠の別れこそが、大人になること、
のように直感して書いているかもだ)


放っておけば消えてしまい、
永久にその存在があったことさえ分からなくなるようなことへの、
文学はその反抗かも知れない。

世の無常を嘆くでもなく肯定するでもなく、
ただそれを記録することで、
永遠に失われるものを、文学の中に置いておける。
それが書く動機かどうかはおいといても、
そのようなことが文学かも知れない。

それは小説のものであり、
映画でやるべきことではない、
と僕は考えている。


前項までで、
映画とは騒ぎに意味があったと思うこと、
と書いた。
死にオチは、やはり意味がない、虚しい終わりだと思う。

その騒ぎをおさめるために、
決断をすればするほど、
それが虚しい結果になるべきではない。
(戦争反対など、映画の枠を越えて何かを表現するときは、
戦争でやった全ての決断が無駄であった、
と描く皮肉はあるだろう)

主人公たちが必死でやったことは、
報われるべきだと思う。


ハッピーエンドかバッドエンドか、という話でもあるが、
僕はちゃんとしたハッピーエンド推奨派だ。
(安易なハッピーエンドは嫌いだ)
それは、主人公が必死にやればそれは報われて欲しい、
ということなのかも知れない。



たとえば、ドラマ「風魔の小次郎」では、
ハッピーエンドに書き換えた。
小次郎の、皆の戦いに意味があった(誠士館はなくなり、白凰は救われた)、
としている。
対比的に舞台版では、原作を踏襲し武蔵凍りエンドだ。
もともと小次郎たちの動機も薄く、決断にも乏しい話なのだが、
無常オチといってよいのではないだろうか。
どちらのオチがよいだろうか。
(カーテンコールなしの、終幕でハイサヨナラ、をイメージするといい。
それではちょっと物足りない話だと思う。
あのカーテンコール後の大騒ぎが、実質の本編といってもいい)

映画版「いけちゃんとぼく」でも、
原作にない「少年が大人になっていくさま」を主軸にし、
大人になったからこそいけちゃんが見えなくなる、
というテーマ性に書き換えている。
(原作では、突然さよならが訪れるだけだ。
もう書くことが尽きたから、おばちゃんそろそろ帰るわ、
という作者の本音すら聞こえてきそうな突然さだ)

僕の改変がベストかどうかは置いといても、
無常エンドは、映画にはそぐわないと思う。


小説やマンガではよくて、
映画ではダメなのは、二時間リアルタイムでがっつりつきあうこと、
と関係している気がする。

僕は、かの「レ・ミゼラブル」でさえ、死にオチに満足がいかない。
ただし、その革命に意味があった、
と死者の側から現世に訴えるラストの歌には胸を打たれた。
彼らの革命に意味があったことを証明するのは、現代の我々だ、
という強いメッセージがあったからだ。
(つまり、彼らの決断や戦いには意味があった。
が、ジャン・バルジャンの人生に意味を見いだせないのが残念だ)

全滅エンドを僕が初めて見たのは、「イデオン発動編」だ。
あの頃から、僕は無常オチには首をかしげている。
posted by おおおかとしひこ at 15:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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