2014年08月14日

肯定形と否定形

熱闘甲子園の今年のキャッチコピーは、
「一人じゃ、たどりつけない場所。」だ。

これは否定形のコピーだ。
これを肯定形のコピーに書き直して、比較してみよう。

「全員で、たどりつく場所。」
(みんな、チームメイト、9人、などもあるが、
全員というのが強くていいと思った)

肯定形と否定形、どちらがいいだろう。


一般に、否定形のほうが肯定形よりも強い文になる。
(「ない」を含まなくても、文が否定形であればそれは否定形)

否定形のいいところは、
否定したそれ以外を、豊かに含み、想像できるところにある。
この例では、
「一人じゃたどりつけない」なら、
誰とならたどりつけるのか、を想像する楽しみだ。

が、このコピーでは、
考えるまでもなく、
チームメイト、レギュラー、レギュラー漏れした人、
マネージャー、監督、親、応援団、観客、スタッフ、
そして視聴者も含む、全ての人、というのが分かってしまう。

だからこのコピーは一流ではない。
(否定形で書いてみた。二流か三流かは、想像の範囲内にしておこう)


名コピー、
「恋は遠い日の花火ではない」(サントリーオールド)
は否定形だ。

じゃ恋ってなんだろう。
火遊びなの?すぐ消えないもの?
恋は思い出じゃなくて、いつでも現役ってことだよね?
と、「遠い日の花火」以外の意味するところが、
実に豊かなのである。
それは、人生経験を積めば積むほど、解釈の巾が増えて行く。
その想像が膨らむ人ほど、オールドというウィスキーの、
本当の味が分かる人、
という意味が込められて、商品に落ちているのだ。

同じ否定形でも、
両者には天と地のひらきがある。


否定形は、文章を書き始めたときは、
つい使ってしまいたくなるテクニックのひとつだ。
何かを否定形で言うことで、
普通に言うよりも装飾した気分になるからだ。
ちょっと強い文を書いたつもりになれるからだ。


一方、肯定形に直した、
「全員で、たどりつく場所。」
を見てみよう。
(たどりつける、にしなかったのは、更にシンプルに強くするためだ)

こちらのほうが、「全員」の想像の膨らみ方が速い。
そして、僕はこちらの方がいいコピーだと思う。


否定形は、否定形ゆえに一瞬意味を考える。
同じ意味でも、意味の理解にタイムラグがあるのだ。
これを、目が止まるゆえに、
肯定形よりも深いコピーだと勘違いするのが、
二流のコピーライターだ。

同じ意味の肯定形と否定形なら、
意味を味わうのは同じ時間がかかる。
否定形は、意味をまず理解するのに時間がさらにかかる、
に過ぎないのだ。
否定形が理解に時間がかかる、より深い表現ではないのだ。

従って、否定形にする利点、
すなわち肯定形で描けないほどの豊かな意味を表現できるときのみ、
否定形を採用すべきだ。
そうでないなら、なるべく肯定形を使うほうが意味の伝達が速い。
ということは、同じ時間だと、
味わう時間がより長くなるということだ。

シンプルな方が強い。
シンプルな方が、時間や間を沢山とれる。
シンプルな方が、覚えやすい。

なるべく肯定形で書くことをオススメする。
なんでもかんでも否定形にするのは、
ただの中二病である。
そしてこのコピーライターは、肯定形を書く能力がなかった、二流だ。


さて、中二病も極まると、二重否定や三重否定を使いたがる。
「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」(槇原敬之)は、
どっちやねん!
「またぼくは、恋をしたい」でいいではないか。
中二病的な強がりも込みで、恋だ、ということもあるけれど。

稼いだスペースは、間か、もう一行足すことに使える。
あるいは、その行は結局たいしたことを言ってない、
と判断する余裕も生まれる。

判断できれば、否定形で何か特別なことを言ってやった、
と満足した心が、
さらに上を目指す心に変えられるのだ。


その言葉、本当に否定形がベスト?
もっといい考え方があるんじゃないの?
posted by おおおかとしひこ at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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