これまでに何度か書いていることを、一端整理してみる。
凄くいい物語があるとする。
ラストシーンは、凄くいい表情、
例えば笑顔の主人公で終わるとする。
そうすると、その笑顔が、物語全体の結論であり、象徴となる。
その笑顔をその物語のイコンとして記憶するのだ。
(仮説だが、記憶容量を圧縮するために)
逆に、その笑顔を見るとその物語を思い出す。
その笑顔を、物語の代わりとして使うようになる。
さあここからだ。
物語を忘れることもあるが、笑顔だけは覚えている。
だから、笑顔がよかった、という結論になり、
物語がよかったからだ、という結論を出すことが出来ない。
これが、俳優が人気が出て、脚本家に人気が出ない理由だ。
物語を記憶することは、一枚絵を記憶することより、
圧倒的に難しい。
一度見た写真や絵を、まだ見てないものからより分けるのは、
かなり簡単だが、
プロットを並べられて、見たものだけをより分けることは困難だ。
写真や絵の類似は、構図や配色などの要素に分けて、
似てる度合いの順に並べることができるが、
プロットの類似を、度合いの順に並べることは難しい。
どちらがより似ているか、という基準がない。
写真や絵の模写は出来るが、
物語の模写は難しい。
見た絵を見ずに再現することはある程度できても、
聞いた話をあとで再現することは困難だ。
つまり、我々の脳の機能自体が、
物語を扱うには少々足りないのだ。
(特別に出来る人を才能とよぶ。天賦の場合も、後天的なものもある)
だから、物語の記憶はいずれ消失し、
なんとなくよかった、悪かったというひとつの感情に収束(圧縮)し、
それが、この場合笑顔という一枚絵の印象として記憶される。
これを、殆どの人は、
その俳優の笑顔が素敵だからだ、と勘違いをしてしまうのだ。
クレショフのモンタージュ実験が示すように、
ラストの笑顔は、たとえ無表情であっても、
その文脈さえ出来ていれば、とてもいい演技に見える。
勿論、俳優や監督は、ストーリーの意味を込めた最高の笑顔を引き出すが、
映画がモンタージュでものを語る以上、
それまでの文脈がしっかりしていれば、
どんな顔でも最高の笑顔に見えるのだ。
(逆にそうでなければ、カットを繋いで物語を語ることは出来ない)
だから、笑顔の価値を決めるのは、
俳優の素敵な笑顔の造形ではなく、物語なのである。
さて、このようなことを知らない殆どの人は、
俳優の演技力と勘違いするのだ。
その素敵な笑顔さえあれば、駄目なストーリーに魔法がかかると思うのだ。
人気俳優ばかり出た詰まらない話は、
だからどんなに素敵な笑顔の俳優を使っても、
必ず失敗する。
問題は、笑顔ではなく話なのだ。
このようなことを知らない殆どの人は、
笑顔だけで話を理解しているから、
笑顔に曇りがあったから、この話はよくなかった、
つまり俳優の賞味期限が過ぎた、と評価する。
阿呆ここに極まれり。
また、
同性の笑顔の場合はそのキャラクターを好きになり、
異性の笑顔の場合はその俳優自身に恋をする傾向にある。
つまり、同性のほうが見方が厳しく、
異性のほうが基準が少し甘くなる。
ドラマ「風魔の小次郎」では、
殆どのファンは女の人だ。
小次郎や麗羅や霧風よりも、村井良大や鈴木拡樹や古川雄大に恋をして、
蘭子さんや姫子さんが好きになってくれたようだ。
男のファンに聞くと、
川原真琴にみんな恋をしていて、亜弓の他の仕事に興味を持ち、
小次郎や武蔵や壬生などの好きなキャラの話をして、
男友達のような連帯感を持っている。
僕個人の例でいうと、
原田知世、富田靖子に僕はまだ恋をしているし(「時をかける少女」「さびしんぼう」)、
高岡早紀の笑顔にまだ恋をしている(「バタ足金魚」)。
奥菜恵もあれだけの事件がありながら、
最初に好きになった思いから変わっていない(「打上げ花火」)。
島本須美(多分今70歳ぐらい)は目をつぶれば抱ける(クラリス、ナウシカ、音無響子)。
まあ、役が好きなのか中の人が好きなのか、
区別がつかなくなっていく、という話だ。
吉永小百合や原節子の人もいるだろうし、
ウィノナ・ライダーの人もいるだろう。
恋は人を盲目にする。
多少お話が駄目でも評価を甘くしてしまう。
(認知的不協和理論。評価を下げることは、恋を否定する不安のためやらない傾向にある。
心理的評価が理性的評価に影響を与える例)
人気俳優を駄目なストーリーに使うのは、
評価を甘くしてね、というプロデューサーからのメッセージだ。
我々は断固として、ノーを言うべきだ。
こんな下らない話に、私の好きな人の時間を使わせないでください、と。
とてもいい物語は、
とてもいい一枚絵を残し、
とてもいい恋や、キャラクターへの好感を残す。
キャラクターや俳優が先ではなく、
一枚絵が先ではない。
全ては物語があるからである。
2014年08月15日
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