2014年08月29日

カセット編集の経験

今日雑談していて、発見したこと。

「カセットテープを編集した経験の有無が、
編集力に決定的な差をつける」という仮説。


知らない世代のために。

音楽を、レコードまたはカセットテープまたはCDから、
カセットテープにダビング録音していた時代があった。

色んなソースから、
好きなラブソング集とか、
ドライブに最適な音楽集とか、
あの子に貸す為のあの子が好きそうな音楽集とかを、
オリジナルでつくっていた。

46分テープとか60分テープだから、何曲入るかは、
曲と選ぶカセットの組み合わせで決まる。

尺に丁度きっちりに入れ、なるべく無音がないように、
(つまり終わったら早送りしてテープ頭を出す必要がないように)
曲とカセットを選ぶ能力が必要であった。

各レコードには曲のタイムが書いてあるが、
それとにらめっこしながら、計算して、
しかも聞く曲順も熟考するのである。

どんなテーマが全体を貫いているのか。
(海しばり、花しばり、手紙しばりなどのモチーフや、
僕らの思い出が順番に入っていて、最後は告白になっているとか)
どんな曲順が、展開に気持ちいいか。
これの次にこれがきたとき、気持ちはどう変わっていくか。
静かな曲のあとにはげしい曲を入れて気分を盛り上げていったり、
はげしい曲をつなげて、一転スローバラードで聞かせたり、
あるいはこれのあとにこれが来ればこういう意味になるだろう、
などを予測したり、
ここでこの曲か、ニクイ選曲だね、とニヤリとさせることを狙ったり。


それを必死で、
「最初から最後までつながった、リアルタイムで聞くひとつのもの」
にまとめていた。
一番の大敵は、「途中の退屈」である。


今みたいにデジタルコピーをするのではなく、
一方を録音状態で操作しながら、一方を再生し、
シームレスにするか数秒あけるかしながら、全ての曲をリアルタイム時間ダビングする。
一発OKだとしても、45分テープや60分テープなら、
実時間(+デッキ入れ替え時間と頭出し時間)がかかる。

そして、頭から聞いた時にものすごくミスが見つかる。
一曲目の頭が切れてるとか逆に遅いとか、
間の無音が長いとか短いとかの技術的ミスであることもあるし、
この曲の次にこの曲はないだろ、と聞いてみてはじめて分かる不満だったりする。

それを、繰り返し繰り返しミスがなくなるまでやるので、
一日がそれで潰れたものだ。



しかし、その試行錯誤の膨大な時間が、
結果的に編集能力を鍛えたのである。

今みたいに、再生側がチャプターで飛ばすのは常識ではない。
だから、あるものの次にあるものが来たら退屈になるとか、
テンションを最初にあげすぎると後半持たないとか、
「最初から最後までつながったもの」をつくる経験を、
繰り返し強制的に、うまくいくものが出来るまで積んだのである。

失敗の代償が大きかったのもポイントだ。
重ね録りはアナログだから音質が下がる。なるべくニューテープに一発録りにしたい。
失敗すればまた一からである。
その恐怖が、
「事前に熟考する」「事前に詳細にイメージする」「事前にテーマを詰める」
ことを強制させたのだ。

出来上がってから、失敗したと言いたくない。
だから、失敗しないように、
「事前に詳細をイメージする」「事前に全体を俯瞰する」
「流れをつくる」「流れを把握する」という、
編集に絶対的に必要なイメージ力を鍛える必要があったのだ。


この訓練の強制が、「好きな子のためにカセットテープをつくる」
という行為にはあったのだ。
(しかも、観客を満足させるという、他者の客を想定している)




今のクリエイターは、一般的に編集が下手だ。
それは、カセットテープ編集の経験がないからではないか。
最初から最後までつながった流れとテーマをもつものを、
パーツパーツをつなげてつくる経験と、
それを何日も考え続けて予測する訓練を積んでいないのだ。

これらの訓練が出来ている者は、
あるものを見た時に、自動的に編集能力が発動するものだ。
ここをこういう繋ぎと流れにしたほうがいいのではないか、ということが。


脚本を書いていて、このような構成でいけるのかを判断したり、
リライトでブロックを入れ替えたり切り貼ったりする能力は、
この編集能力である。
編集に必要なことは、無限回の試行錯誤の体力ではなく、
繋ぐ行為の前に、完成形を既に作ることだ。
流れを頭の中で作り終える事だ。

それをひとことで構成力といったりする。

「ベストアルバムの編集」なんかもその能力を鍛えたものだ。
暇なら、そんな編集をやってみて、構成力を鍛えてみてはどうか。
posted by おおおかとしひこ at 19:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック