2014年09月10日

シーンは増やせるし、減らせる

前の項で、シンデレラのシーンの話をしたので、
ついでにシーンの増減について。


シーンは、シーン終わりに次への焦点を示して、
「続く」になる。
シーンの頭は、その焦点のためのセットアップをする。

馬車のシーンの終わりは、
「舞踏会の王子に向かう」であり、
次のシーンのはじめは、
「舞踏会に王子がいる」だ。

シーンを増やそう。
「道中の冒険」だ。
山賊に襲われたり、狼に襲われたり、検問に引っ掛かったり、
ライバルを蹴落としたり、
などを付け加えることが可能である。
シーンの頭は「舞踏会に向かう」であり、
シーンの終わりは「舞踏会についた」であるような。

電気回路やプログラミングをしている人ならピンと来るかも知れないが、
シーンは、入力と出力を持っているモジュールのようなものだ。

入力とは、前シーンから渡された焦点、
出力とは、後シーンへ渡す焦点だ。
その入出力が合っている、
すなわち辻褄が合っていれば、
シーンを増やすことが、原理的に可能だ。
(増やしたことで、テンポが悪くなることはある。
あくまで原理的に、である)

これは、話を膨らませる(時間方向)ことの、ひとつのやり方である。

アニメ「母をたずねて三千里」を思い出すとよい。
母とはぐれるという冒頭分の焦点から、
母に会うというラストの焦点までを、
ずっと膨らませている。
(引き伸ばす、ともいう。引き伸ばしの方が退屈なニュアンスだ)


逆に、焦点の入出力が同じなら、
そのシーンをカットすることが可能だ。

もしシンデレラで、
馬車の大冒険シーンがあったとしても、
それはカットすることが可能である。

前シーン終わりの焦点から、
次シーンの冒頭の焦点へ、直接繋ぐことが可能だからだ。

今実験的に増やしてみたこの馬車大冒険シーンは、
シーンの途中で焦点が特に変化していない。
こういうものは、カットすることができる。
カットする、という言い方は切ないので、
積極的に「省略という文法を使える」といい直そう。


つまり、お話は、膨らましたり、省略することが出来る。

これが、時間軸をただ追いかけることと、
練られたお話の違いである。
練られたお話は、膨らまして楽しむところがあったり、
省略して楽しむところがあったりする。
(ディズニー映画の膨らましの代表は、ミュージカルシーンだ)

時間軸をただ追いかけることがリアリティーだと、
最初は勘違いするものだ。

話に必要ない所はカットする、なのは分かるが、
全部必要に見えてしまうのが初心者だ。
話の焦点は何なのかをシーン単位で考えればよい。
頭と終わりの部分に注目し、リストアップすれば、
シーンとシーンの関係が見えてくるだろう。
ここからここまでを省略可能、という部分が見えてくるかも知れない。
注目点は、焦点が変わっていないところだ。

省略と膨らましによって、
話は強弱を持つことが出来る。
絵のデフォルメで言えば、大きく描くところと、
小さく描くところがあるということだ。
(目を大きく描いたり、ウエストを細く描いたり、
頭を大きく体を可愛く描いたり、など)

それはリアリティーよりも、物語的だ。
話にデフォルメが効いているのだ。
(ドラマ「24」は、それを逆に使って話題となった)


また、追加した馬車大冒険シーンで、
「焦点を変える」、即ちターニングポイントがあると、
それは省略の対象ではなくなる。
例えば、「舞踏会の王子は偽物である」と知る、などだ。
そうすると、全然違う話になってしまう。
次は、「憧れの王子に会える」ではなく、
「偽物を暴き本物の王子を探す」になってしまう。
ターニングポイントとは、
このように話の方向(焦点)を変える力を持つ。

逆に、ターニングポイントを含まないシーンは、
だらだら進行しているに過ぎない。
だから、省略することが可能だ。
例えどんな大冒険を描いたとしてもだ。

スプレッド(あるアイデアを元に、色んなパターンを見せるシーン)では、
ターニングポイントがなく、焦点は同じである。
だから、単なる引き伸ばしであり、
省略することが可能だ。

アクションシーンやダンスシーンも、代表的な引き伸ばしである。
勿論映画の華で、省略するには勿体ないが、
もしそこで話のターニングポイントがないなら、
馬車大冒険シーンと同様、カット可能だ。
(下手くそな映画では、無駄に長いアクションがあったりする。
「イン・ザ・ヒーロー」のラストの殺陣など。
アクション単体で見れば凄くても、話の焦点が変わらないところが退屈だ。
例えば、背中落ちで成功したあとはカットして、
試写スクリーンでそれを見ている所へ繋ぐことが、
原理的に可能だ。
そういう目を僕らは持っているから、下手な脚本だと、
カットするべき所が分かってしまい、冷めて行く)



脚本のリライトは何をするかと言うと、
何を膨らませ、何を省略すると、
より面白くなるかを考えるのだ。

その為にストーリーラインを足す(偽物の王子の話)こともあるし、
ストーリーラインを減らす(偽者ナシで、ストレートにいく)こともある。
どこに軸足を置き、どこを強調するか、
どこを省略することで、どこを強調するか、
を、練るのだ。


強調するべきところは、ふたつある。
面白く出来のいいところと、
テーマに関わるところだ。

そして、テーマのためには、
面白く出来のいいところをカットするべき時も来る。

何よりテーマなのだ。
正確に言えば、テーマに関わるモチーフの話の部分、だ。
そのモチーフの組み合わせがテーマを語るからだ。

シンデレラで出した馬車大冒険シーンは、
面白い出来にはなるだろう。
しかし、テーマ(貧乏だが心がきれいな子が、王子に会えるチャンスを得る)
とは遠いから、省略可能なのである。
posted by おおおかとしひこ at 12:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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