(9/22追記:ツイッターでピンポイントで来た方へ。
この話は9/7以降の「イン・ザ・ヒーロー」の記事のつづきです。
「太秦ライムライト」は脚本的にはものすごくよくないですが、
「イン・ザ・ヒーロー」と決定的に違ういいところがあります。
その話です。どちらも見た上で、一連の議論にくわわってください)
毒を食らわば、のつもりで見てきた太秦ライムライト。
六本木シネマートで追加上映中なので見逃すな。
結論から言うと、今年の僕のベストワンだ。
福本氏の技が素晴らしい。
本物の剣術の動きだ。
面ひとつ取っても手の内を利かせ、梃子の原理で振り抜く、
引き斬りの日本刀の正しい使い方が出来ている。
(大先輩にこういう言い方も失礼だが)
熟練したナタの使い方のような、後半力を抜き更に加速する、
古武術的な振り方だ。
足の使い方に全く無理がないのが、余程の鍛練を伺わせる。
それだけで名人芸を見るような眼福だ。
(それに比べるのも酷だが、ヒロインの殺陣は足に力が入りすぎている。
だから丹田が浮いている。それでもよくやったほうだけど)
殺陣も素晴らしい。
るろうにの創作アクションとは違う、伝統的日本剣術の戦い方の再現。
(多少外連味は入っているが)
足の上がっていない唐沢と比べるのも恥ずかしいが、
100万倍素晴らしい肉体パフォーマンスだ。
「陰陽師」のベストシーンは、エンドロール中の野村萬斎の舞いである。
映画そのものより、野村萬斎の芸能の力が勝ってしまった例だ。
しかるにこの映画では、殺陣という芸能が、内容と噛み合う。
(以下ネタバレ)
ストーリーは極単純で、脚本賞を上げるほどではない。
しかしインザヒーローのような、
陳腐なストーリーラインはひとつもない。
ヒロインがそこまで福本氏を慕うか?とか、
若手がそんなに時代劇やりたいか?
あたりがちょっとしんどいだけで、
じいさんたち、
つまり殺陣師と演技事務を中心とした物語は素晴らしくよかった。
滅び行くものの美学が日本映画の伝統だとしたら、
太秦映画も、滅び行くものなのかも知れない。
しかし東映には頑張って欲しいものだ。
テレビ時代劇が駄目なら映画でもいい。
伝統の時代劇がなくなるのは寂しい。
一度だけ助監督時代に、CMの仕事(wowowの動かぬ男編)で、
太秦スタッフにお世話になったことがある。
じいさんたち職人ばかりの印象があった。
いつかあの人たちの懐に飛び込みたいとも思った。
時代劇は、ジャニーズを取り入れたりして若者を取り入れようとして、
益々失敗していると思う。
求められているのは、三船敏郎みたいな、
骨太の役者だとおもうよ。
あるいは、時代劇的な習慣はもう失われつつあるから、
その不文律的なものを洗い直して、
今の時代からの、時代劇入門みたいなものをつくるといいとおもうよ。
月代を剃ることがハゲだ、と若者は殆ど思っていることは、
自覚しているようだし。
寧ろ落武者ヘアーがカッコいいということを、きちんと描いたほうが、
時代劇の裾野を広げると思う。
ラス立ち(クライマックスの立ち回り)は、
本当に痺れた。
「映画の中の死」で終わるところも良かった。
泣いた。
俺たちは嘘の中に本当をつくる仕事なんだ、
という、映画人の主張をきちんと見れた。
そこで暗転したのも素晴らしかった。
後日談なんていらない。
スクリーンの中の出来事が本当で、
現実の生活はその為だけにあるのだ。
それが映画をつくる者の人生だ。
今年ベストとワーストを、一週間で見たことになる。
ワーストは嘘つきだった。
ベストは、本当を真摯につくった。
たったそれだけの違いと言えばそれまでだ。
でも我々は、そこが一番大事なのではないか。
「映画の中だけは本当のこと」というのは、
我々フィクションをつくる者の、
最初の約束ではないだろうか。
脚本家が立ち回りのことのディテールを知らないみたいだったが、
立ち回りも芝居なんや、と一言で上手くまとめていたのに好感を持った。
僕ならもっと入り込む。
どうやって二人が呼吸を合わせるのか、
違ったときどうするのか。
稽古は本番のつもりで、本番は稽古のつもりで。
何故ここで上段でなく中段なのか。
相手は打ち込まれる場所をわかった上で立ち回りをしていること。
しかしそれを「分かっていないまま切られる芝居」をしていること。
切られて死ぬときの、その人の人生の終わる意味。
多分そんなことを書くと思う。
そこまで踏み込まず、この映画全体を覆っているのは、
関西がヤバイかも知れない、
太秦撮影所がつぶれるかも知れない、
時代劇がなくなるかも知れない、
東映がつぶれるかも知れない、
という危機感だった。
僕は東映のヒーローものを見て育った人間だから、
いつか恩返ししたいと思わせるに相応しい映画だった。
まあ、東映も太秦も安泰だとしたら、
僕は映画マジックにすっかり騙されたのだろうし、
そう思いたい。
だが、この映画をヒットさせられなくて、
インザヒーローみたいな映画をつくってしまう、
東映のヘッドチームには疑問が生じる。
何度でも言おう。
太秦ライムライトは、今年の日本映画のベストワンだ。
本物の心意気を見せる映画だった。
インザヒーローは、生涯のワースト5に入るだろう。
嘘つきの映画だった。
2014年09月15日
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