演劇(のようなもの)をやってみて分かったのは、
演劇は、目でその場の空気を見る、
映像は、カメラが撮ったアングル内で空気を見る、
ということだ。
演劇にカメラのフレームはない。
人と人がそこにいて、その場の空気をつくり、
その空気が演劇的空間になる。(その空間に、観客も入りうる)
その場全体を支配し、その場全体の空気がどうなっていくかが演劇だ。
それは肉眼で見る、その場で起こるのだから当然だ。
(演説やライブの仲間である)
そして映像は、「肉眼で見ない」ことが最大の違いだ。
映像はフレームで見るのだ。
「その場」が「フレーム内」に限定される。
それはどういうことかというと、
「その場の空気は、必ずしも写らない」のだ。
今回のケースでは、
稽古の時はカメラなしでやった。
僕は想定アングルに入り、肉眼で芝居の空気をつくった。
通し稽古で、一番引いた目線に入り、
演劇的な客の目線で見る経験もした。
その時に気づいたことは、
引き(つまり客席)で見ている空気と、
さらに二人の空間に入ったアングルでは、
空気が違うということだ。
カメラは、演劇で言うところの板の上に入る必要がある。
僕は常々、演劇をカメラで撮ったものが嫌いだった。
何故なら、客席側から望遠レンズで撮ったものしかないからだ。
僕なら客席にカメラを置かず、
板の上にも置き、芝居の中に入りたいと思っているからだ。
これは、カメラによる感情移入と、肉眼による感情移入が違うことを意味している。
肉眼による感情移入では、
遠く離れたヒキでも、容易に二人の空間に(想像で)入ることができる。
その想像こそが、演劇を成立させている要素のひとつだ。
「想像力でその輪の中に入る」のである。
しかし、カメラによる感情移入では、
遠く離れたヒキは、あくまで遠く離れたままなのだ。
想像で、二人の輪の中に入ることが出来ないのだ。
「引いた目で見てしまう」のである。演劇と違って。
フレームの存在が大きい。
「こういう絵で意味を取ってください」という意思表示になるからだ。
だから、ヒキの絵では、引いた目線で見てください、
という意味になってしまう。
望遠レンズでズームし、二人をアップにしても駄目だ。
「カメラが近づいて、輪の中に入る」必要がある。
きちんと撮影技法に立ち入って説明したいが難しい話なので省略して、
結論だけ言うと、
「カメラと被写体の距離が、観客と被写体の距離になる」のである。
つまり、二人の輪の中に観客が入る為には、
遠くからズームレンズでアップにしても、
スナイパーがスコープを覗いているに等しく、覗き見に過ぎずアウトだ
(これを逆利用したのが、覗き見主体の、ヒッチコックの「裏窓」だ)。
輪の中に入るには、二人の空間にカメラが近づく以外にないのである。
演劇映像にありがちな、
観客席側から撮ったカメラ位置では、
どんなに望遠レンズでアップにしようが、
起こっていることを覗き見したような靴下騒痒の感がある。
肉眼では、フレームがないが故に、その場の空気の隅々まで
(ヨリヒキ関係なく)読み取ることが出来る。
その場の空気がヨリが大事なら、
カメラがそこに行くしかないのである。
そこで、ようやくヨリの空気をフレームで表現したことになるのである。
カメラが遠いと、所詮他人事になる。
カメラが輪の中にいるかどうかが、問題の中心なのだ。
「多分、大丈夫」では、
演劇には出来ない、板の上にカメラがいる、
という特殊な表現を使った。
演劇のルールではなく、カメラのルールを使ったのだ。
だから、劇中での、
一人先に始めている空気、
ヨシオ中心で池やんはフォローの空気、
二人の濃密な空気、
一人に再びなるが池やんはどことなく存在している空気、
電話がかかってきて、一人取り残された空気、
そして通夜の空気。
が、カメラを通じて伝わるのである。
これらは、肉眼の演劇ならばそれぞれの空気に合わせて読み取ることが可能だ。
ところがカメラによる表現では、それぞれを、
距離やフレームやアングルを変えて、表現しなければいけないのだ。
カメラによる表現では、モンタージュ
(様々な距離とフレームとアングルで撮ったものを、編集で組み合わせて繋いだもの)
こそが命なのだ。
脚本家的に言えることは、
常に「今どんな空気が支配的か」というのを、きちんと把握するということだろう。
空気というのは非常にとらえどころがないが、人と人が何かをすれば必ず生まれるものだ。
人と人の間に話がある以上、
その空気の捉え方こそが、
話の表現なのである。
今この時点でどんな空気を表現するべきか、
(その空気をこの空気で表現すると面白い、も含む)
をつくりだすことが、お話の創作ということでもある。
そして、それ自体は脚本に文字としては書いていない。
文脈で読み取るべきものである。
その文脈とは、焦点と動機と話題である。
2014年09月25日
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