人と人が話す。そこに場の空気が生まれる。
それは、ひとつの事を延々話す訳でなく、
飽きたら(飽きる前に)次々に話題が流れて行く。
それが場の空気であり、
大きな話の焦点という大局的構造との、
二重構造を持っている。
「多分、大丈夫」を例に。
(以下ネタバレ)
この話の特徴は、居酒屋の男二人の会話劇だ。
いかにリアルな会話、いかにもヤロー二人のいつもの空気を出せるかが、
第一のポイントだ。
上がりだけ見ると仲のいい俳優二人のリアルな会話に見えるが、
当然のことながら、殆ど脚本に書いてあることに注意したい。
(多少の段取りや語尾が異なるだけで、
ターンや内容は全く変わっていない)
つまり、このリアリティーは、狙い通りに空気をつくっている。
大局的に見ると、
(その時点では死んだ)池やんが、
俺は死んでしまったが一人でもう大丈夫だよな、
ヨシオに秘密を暴露し、あれは嘘ボールだったと告白する、
の二点を確認してから去りたい、
という話をしようとしている。
(それぞれ、
居酒屋の時点では一応大丈夫、
嘘ボールなんかじゃねえ、友情の証だ、という結論が出て、
ラストにこのボールがあれば大丈夫、
というひとつの落としへ収束する構造)
それを池やんがうんこにいく退場のタイミングまで、
気づかれないようにしながらも、
何か変だなあと思わせるラインの、会話劇なのだ。
場の空気をつくりながら、
大局的に焦点を操作していくこの二重構造を、詳しく見ていこう。
池やんが来て乾杯し、ボール返してくれよという:
最初の「ビールもう一杯」の台詞は現場で足した。
これは小道具のない、マイム(ふり)だけでやる演劇だ、
という理解を早めにするためと、ここは居酒屋的なところ、
を最初になんとなく分からせたかったからだ。
(このフレームの外には店員という出演しない人がいる)
池やんの登場時、「出会い頭にぶつかって」という伏線を引いてある。
「伏線は初出」の基本通りに。話がはじまったばかりだから、
なんのことか分からないまま話は池やんのフォローの話へうつるから、
さらっと流れる。(もう少し粘って伏線を張ってもよかったかも)
ここで「今日の大事件のフォロー」を話題にすることで、
二人の過去や現在の関係性や距離感を、セットアップしている。
(ここが居酒屋的なところという空間も含めて)
本題のボールが出たところが、カタリストである。
そのボールがどういうものであったかを話す。
本題のセットアップだ。
「返すよ」と立ち、小便にいくところでセットアップ終了、
話は第二幕へ突入する。
カメラアングルをここで変えて、
ヨシオ中心から、二人の空間に変えていることに注意。
秘密を言おうとしたらブスとテレクラの話に:
このパートはもう少し短くてもいいかと思っているのだが、
確実に役者が生き生きするので、今回も切れずに残った。
「大人になった時」へ話題をうつすことの枕の役割だ。
暴露大会、というワードが話題転換のきっかけだ。
いじめられてた告白:
大人になるということの意味。ギャグからシリアスへの急転直下。
その二人の対比。テレクラブスで童貞捨てた話から想像もつかない方向へ。
(逆にこの話にするために、この前はギャグに徹する必要がある)
野球部に誘ってくれたのはお前だ:
人間はチームだ、という言葉が伏線になるように。
ボールの秘密:
いよいよ本題だ。
一番池やんが言いたいことを言う。
暴露大会の言葉がまだ効いている。
秘密を言いやすい場の空気になっているからだ。
勿論計算通りだ。
嘘ボールだ、嘘ボールじゃねえ、という掛け合いは、
コンビはホントにコンビかよ、という笑いでうやむやになる。
男二人で本音を言うことは、
なかなか難しい。
本当の事を言いたくても、照れたりするもの。
その空気感のなかで、時々刺さる言葉を言う間合い。
うんこいくわ、と退場するのが第二ターニングポイント。
このアングルは絶妙に池やんにライトが当たっていない。
かつ、小便に行った方向とは逆(池やんが店に来た方向)へ退場するようにしている。
そこで違和感が生まれる。
本当にトイレに行ったのだろうかと。
電話がかかってきてしばらくは、池やんが不在のアングルだ。
ヨシオが一人になってしまったことが、
アングルで分かるように工夫している。
当たり前なのだが、「幽霊だったのか!」なんて説明台詞は使っていない。
使わなくても分かるように、前後の台詞を工夫している。
第三幕:
空気を通夜に変えること。
ライトも寒色系にしている。奥さんの芝居がリアリティーを補強する。
目が覚めたように、冷水を浴びたようにしている。
あとは結末へ一直線だ。
これまでの集大成に収束していく。
焦点の構造を保つため、
いくつかの外せないキーワードがあることに気づくだろう。
出会い頭にぶつかって、
一人で大丈夫か、
そういえばさ、あのボール返してくれよ、
コンビの証、打ってもらって取ってもらうコンビ、
返すよ、
しょんべん、
大人になった時、
暴露大会、
お前が俺を助けてくれたんだよ、
チームなんだよ、
嘘ボールだ、嘘じゃねえよ、
打ってもらって取ってもらうコンビの証、
うんこ、
一人で大丈夫か、
出会い頭にぶつかって、池やんが死んだ
一人で大丈夫だよ、やっぱ俺がもっとくわ
これらのワードが、ターニングポイントになるし、
話の骨格にもなっているのだ。
これらを大局的焦点にしながら、
同時にリアルな会話をしながら、
話は進んでいくのである。
話の空気には実はふたつある。
その場の短期的な空気と、
全体の流れの長期的な空気だ。
どちらもそうと悟られないように、空気に混ぜるとよいだろう。
(どうしても、冒頭部は設定の為の説明台詞になってしまう。
それを悟られないように自然に入れるか、
却ってこの脚本のように、分かりやすく設定するかである)
今回の芝居は、全員がしっかり台詞を頭に入れた上で、
稽古で微調整し、一気に演じた。
ショートフィルム版(設楽統、有田哲平がそれぞれヨシオと池やん)では、
話のキーワードだけを覚えて、半ばアドリブでブロックごとに撮影を進めた。
どちらも、リアルな会話をつくり、なおかつ構造を見失わないためだ。
2014年09月26日
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