2014年09月26日

空気の行方

人と人が話す。そこに場の空気が生まれる。
それは、ひとつの事を延々話す訳でなく、
飽きたら(飽きる前に)次々に話題が流れて行く。
それが場の空気であり、
大きな話の焦点という大局的構造との、
二重構造を持っている。

「多分、大丈夫」を例に。
(以下ネタバレ)


この話の特徴は、居酒屋の男二人の会話劇だ。
いかにリアルな会話、いかにもヤロー二人のいつもの空気を出せるかが、
第一のポイントだ。
上がりだけ見ると仲のいい俳優二人のリアルな会話に見えるが、
当然のことながら、殆ど脚本に書いてあることに注意したい。
(多少の段取りや語尾が異なるだけで、
ターンや内容は全く変わっていない)
つまり、このリアリティーは、狙い通りに空気をつくっている。

大局的に見ると、
(その時点では死んだ)池やんが、
俺は死んでしまったが一人でもう大丈夫だよな、
ヨシオに秘密を暴露し、あれは嘘ボールだったと告白する、
の二点を確認してから去りたい、
という話をしようとしている。
(それぞれ、
居酒屋の時点では一応大丈夫、
嘘ボールなんかじゃねえ、友情の証だ、という結論が出て、
ラストにこのボールがあれば大丈夫、
というひとつの落としへ収束する構造)

それを池やんがうんこにいく退場のタイミングまで、
気づかれないようにしながらも、
何か変だなあと思わせるラインの、会話劇なのだ。


場の空気をつくりながら、
大局的に焦点を操作していくこの二重構造を、詳しく見ていこう。

池やんが来て乾杯し、ボール返してくれよという:
最初の「ビールもう一杯」の台詞は現場で足した。
これは小道具のない、マイム(ふり)だけでやる演劇だ、
という理解を早めにするためと、ここは居酒屋的なところ、
を最初になんとなく分からせたかったからだ。
(このフレームの外には店員という出演しない人がいる)

池やんの登場時、「出会い頭にぶつかって」という伏線を引いてある。
「伏線は初出」の基本通りに。話がはじまったばかりだから、
なんのことか分からないまま話は池やんのフォローの話へうつるから、
さらっと流れる。(もう少し粘って伏線を張ってもよかったかも)
ここで「今日の大事件のフォロー」を話題にすることで、
二人の過去や現在の関係性や距離感を、セットアップしている。
(ここが居酒屋的なところという空間も含めて)

本題のボールが出たところが、カタリストである。
そのボールがどういうものであったかを話す。
本題のセットアップだ。
「返すよ」と立ち、小便にいくところでセットアップ終了、
話は第二幕へ突入する。

カメラアングルをここで変えて、
ヨシオ中心から、二人の空間に変えていることに注意。


秘密を言おうとしたらブスとテレクラの話に:

このパートはもう少し短くてもいいかと思っているのだが、
確実に役者が生き生きするので、今回も切れずに残った。
「大人になった時」へ話題をうつすことの枕の役割だ。
暴露大会、というワードが話題転換のきっかけだ。

いじめられてた告白:

大人になるということの意味。ギャグからシリアスへの急転直下。
その二人の対比。テレクラブスで童貞捨てた話から想像もつかない方向へ。
(逆にこの話にするために、この前はギャグに徹する必要がある)

野球部に誘ってくれたのはお前だ:
人間はチームだ、という言葉が伏線になるように。

ボールの秘密:

いよいよ本題だ。
一番池やんが言いたいことを言う。
暴露大会の言葉がまだ効いている。
秘密を言いやすい場の空気になっているからだ。
勿論計算通りだ。
嘘ボールだ、嘘ボールじゃねえ、という掛け合いは、
コンビはホントにコンビかよ、という笑いでうやむやになる。
男二人で本音を言うことは、
なかなか難しい。
本当の事を言いたくても、照れたりするもの。
その空気感のなかで、時々刺さる言葉を言う間合い。

うんこいくわ、と退場するのが第二ターニングポイント。
このアングルは絶妙に池やんにライトが当たっていない。
かつ、小便に行った方向とは逆(池やんが店に来た方向)へ退場するようにしている。
そこで違和感が生まれる。
本当にトイレに行ったのだろうかと。
電話がかかってきてしばらくは、池やんが不在のアングルだ。
ヨシオが一人になってしまったことが、
アングルで分かるように工夫している。

当たり前なのだが、「幽霊だったのか!」なんて説明台詞は使っていない。
使わなくても分かるように、前後の台詞を工夫している。

第三幕:

空気を通夜に変えること。
ライトも寒色系にしている。奥さんの芝居がリアリティーを補強する。
目が覚めたように、冷水を浴びたようにしている。

あとは結末へ一直線だ。
これまでの集大成に収束していく。



焦点の構造を保つため、
いくつかの外せないキーワードがあることに気づくだろう。

出会い頭にぶつかって、
一人で大丈夫か、
そういえばさ、あのボール返してくれよ、
コンビの証、打ってもらって取ってもらうコンビ、
返すよ、
しょんべん、
大人になった時、
暴露大会、
お前が俺を助けてくれたんだよ、
チームなんだよ、
嘘ボールだ、嘘じゃねえよ、
打ってもらって取ってもらうコンビの証、
うんこ、
一人で大丈夫か、
出会い頭にぶつかって、池やんが死んだ

一人で大丈夫だよ、やっぱ俺がもっとくわ


これらのワードが、ターニングポイントになるし、
話の骨格にもなっているのだ。

これらを大局的焦点にしながら、
同時にリアルな会話をしながら、
話は進んでいくのである。


話の空気には実はふたつある。
その場の短期的な空気と、
全体の流れの長期的な空気だ。
どちらもそうと悟られないように、空気に混ぜるとよいだろう。
(どうしても、冒頭部は設定の為の説明台詞になってしまう。
それを悟られないように自然に入れるか、
却ってこの脚本のように、分かりやすく設定するかである)


今回の芝居は、全員がしっかり台詞を頭に入れた上で、
稽古で微調整し、一気に演じた。
ショートフィルム版(設楽統、有田哲平がそれぞれヨシオと池やん)では、
話のキーワードだけを覚えて、半ばアドリブでブロックごとに撮影を進めた。
どちらも、リアルな会話をつくり、なおかつ構造を見失わないためだ。
posted by おおおかとしひこ at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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