2014年10月19日

小さく面白い、大きく面白い

面白い、といっても実に色々ある。

小ネタ、大ネタというくくりがある。


小ネタは、ちょっとした思いつきや冗談のレベルのもので、
大ネタは、大仕掛けや練り込んだアイデアが必要なもの、
ぐらいの感覚でよい。
小ネタはクスッとなったり、ホロリとしたり、
じーんとしたり、おおっとなったりする。
大ネタは爆笑したり、もらい泣きしたり、
感動したり、驚愕したりする。

たとえばカツラが外れるのは小ネタだ。
「ポセイドンアドベンチャー」のように、
上下が逆さまになるのは大ネタに属するだろう。

現実的には、
僕らの心がどれくらい動くか、というより、
予算がどれだけかかるか、というくくりになることがある。

例えば、言葉で話せる台詞は、小ネタだ。
冗談やギャグや皮肉や、言葉遊びなどだ。
カツラが外れるのも小ネタだ。
カツラの小道具(数万から数十万)があればいい。
しかし上下が逆さまになる、は大ネタだ。
美術セット(1000万単位)が必要だ。
カーチェイスのクラッシュ(数百万×いくつか)も大ネタだ。
爆発(数百万)も大ネタだ。

プロデューサーは大ネタをなるべく減らし、
小ネタでなんとか埋めてくれというものだ。
(だからクドカンのサブカルトーク中心の小ネタは重宝された)

本当は、予算よりも、我々観客にとって、
心が大きく動くかどうかが、
面白いの大小であるべきなのに。


ちなみに、小ネタは単発である。

ちょっとした思いつきだから、
おおそれは面白い、となっても持続しない。
展開や連関はそののちと関係ない。
だから、小ネタの連発は、
最初は面白いが飽きてくる。
日本の多くのコメディは、小ネタをどれだけ連発できるか、
という間違った方法をとりがちだ。
(同期が関わっているので悪口は言いたくないのだが、
「さらば愛しの大統領」はそのような失敗した例だ。
単発小ネタ自体はなかなか面白い。ネタのばらつきはある。
そして、小ネタ連発に次第に飽きてくる)

小ネタは持続しない。
持続とは展開や連関である。
例えばカツラネタで小ネタをやったとしたら、
上下が逆さまになる面白さのときに、
もう一回カツラネタをやるべきだ。
最初のカツラネタが伏線になるようにするのだ。
面白さとは、このように、繋がっていかなくてはならない。

この場合の面白さとは、
ギャグだけを意味しない。
「おもしろさってなんだ」の記事で示したように、
沢山の種類があり得ると思う。

しかし、ほとんどの面白さは、
単発では小ネタである。
それが我々の心を大きく動かす大ネタになるにはどうすればいいか。

予算的にかかる大ネタにすることがひとつ。
(殆どの映画のクライマックスは、こうする)

もうひとつは、展開や連関を使うことである。


今までの面白さが、小ネタの使い捨てではなく、
ちゃんと繋がっていれば、我々の心は動くのだ。
何かが何かの伏線になっているとか、
何かを踏まえた何かとか、
これまでの全てをひっくり返す何かとか、
それ自体の面白さ(単発では小ネタ)よりも、
連関の面白さになっていることが、
我々の心を動かす面白さになるのである。

それが予算をかけない小ネタだとしても、
それに連関が含まれていれば、
その見かけより意味が大きくなるのだ。


「多分、大丈夫」における、ラストのボールを考えよう。
「ボールを投げ上げて落として取ったふりをする」
こと自体は小ネタだ。
少し間抜けな笑いのある、失敗の誤魔化し程度のものに過ぎない。
(例えばこの芝居を冒頭にやったって、
取るのが下手で失敗した人、程度の意味にしかならない)
ところが、それまでの14分を踏まえると、
その小ネタが、それまでの文脈全てを含んで大ネタになる。
たった一個の汚いボールだ。
それが、池やんの嘘の後悔や、絆は嘘じゃねえということや、
一人で大丈夫かという、色々なものの象徴になるのだ。
だから、それ自体小ネタ芝居でも、大きなネタに意味的になるのである。

予算があり、予算的に大ネタが使えるならば、
それに越したことはない。
ビッグシーンは映画の醍醐味であり、
映像的身体性の楽しみのひとつである。

しかし毎回そうとは限らない。
予算的に小ネタしか使えない場合だって、
この例のように意味的に大ネタにすることは出来るのだ。


逆に映画とは、
意味的な大ネタを、予算的な大ネタで表現することかも知れない。
それが意味的大ネタでなく、予算的大ネタでしかないときに、
空洞化が起こる。(るろうにとかね)


まずは小ネタを沢山思いつこう。
それはある種の才能だ(努力して磨ける技能でもある)。
それらを、一連のストーリーという連関で増幅させてゆけば、
大ネタになるものである。
最初から大ネタなんてない。
面白さは、徐々に大きくなってゆくものだ。
posted by おおおかとしひこ at 01:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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