偶然出会った二人、偶然のアクシデント、
偶然秘密を知ってしまった、
奇跡的に命が助かった、
物語にもリアル人生にも、偶然によるドラマは沢山ある。
それはどこまで許されるか。
僕は序盤以外は、原則偶然を起こさないほうがいいと思う。
物語のきっかけは、偶然が左右することが多い。
しかし、物語というものは、
人の動機による行動の成否が焦点である。
一端その繋がりの糸がはじまったら、
全ては必然や因果応報ですすむのが物語というものだ。
それは、「人の行動が成功すること」(または失敗すること)とは、
どう楽しめるか、にかかる。
努力や工夫が実をなすことを、みんな見たい。
好きな女の子のハートを動かしたいときに、
最終的にOKの理由が偶然好きなタイプだったから、では詰まらない。
努力や工夫に、意味があったと信じたいからだ。
偶然すら必然だと人は思いたい。
努力や工夫は、叶いたいと思うのだ。
これを描いたのが「スラムドッグミリオネア」だ。
ラスト、単なる偶然か、という問いへの答えは、
何故だか涙が出る。
人は、自分の人生が偶然に振り回される、
無力な意味のないものではなく、
意思や行動によって変えられるものであることを信じたいのだ。
何故なら、映画とは動機と行動で描かれるからだ。
その動機で最終目標を叶えるために、行動の連鎖がある。
どうやって成功するか、その必然を見たいのに、
それが偶然だったら興醒めである。
下手くそな作家は、どうしていいか分からずに偶然に逃げる。
「偶然、その話を廊下で盗み聞きしてしまう」
「偶然、(理由もなく)その現場に居合わせる」
「絶体絶命なのに、みんな死ぬのに偶然助かる」
「ベストタイミングで大地震がおこる」
なんてのは、大抵「ご都合主義」(話の進行のためにリアリティーを崩している)
と思われる。
そんなわけないだろ、である。
わけ、とは理由だ。理由が必然ではなく、作者の都合、を、ご都合主義という。
ご都合主義が重なれば重なるほど、物語への信頼は薄れ、
感情移入からは遠ざかって行く。
だから、僕は原則、最初の偶然が物語のきっかけになり、
あとは全て偶然なしの必然だけで進めるべきだと思っている。
だから展開は理詰めになるべきだ。
将棋にたとえるのはそういうことだ。
一方、人生とは偶然に左右される不思議なものである、
ということをテーマにすることも出来る。
これらは、「必然や人間の限界」を描く。
どう考えても、世界には神の配剤としかいいようのない、
不思議な出来事があったり、
人間の愚かな知性を偶然が簡単に壊すことがあるものだ。
これをやるためには、まず必然の物語が書けなければいけない。
必然の必然で話がすすみ、
土壇場で偶然に裏切られるのがよい。
(「マッチポイント」を例にあげよう。冒頭のテニスシーンが土壇場で効く、
見事な伏線の例だ。とても皮肉的な結末だ)
または、必然の必然で話がすすみ、
どうしようもない敗北しか見えないとき、
土壇場で偶然が起こるとよい。
(その偶然が嘘臭すぎるとご都合主義だが、
小さな偶然で、ここまで努力してきていたからこそ、
その偶然を見逃すことなく生かせた、ぐらいならば許容範囲だろう)
とても面白い例に、「ミッションインポッシブル4:ゴーストプロトコル」
がある。
スパイ活動をメインに描くパターンの、
これはパターン破りを楽しむものだ。
何故なら、計画進行中、必ず偶然のアクシデントが起こるようにわざわざ書かれているのだ。
様々なミッションの完璧な遂行を楽しむのではなく、
偶然のアクシデントにいかにアドリブで対処するか、
を楽しむパターンになっている。
ボーンアイデンティティー以降のシリーズが、素早すぎる遂行を描き、
あとからその成功の凄さを見せつける、という必然の素早さを描くことと、
対照的である。
(伝統的な007の華麗な成功とは、違うパターンを発明しようとしている)
偶然の利用は計画的に。
ご都合主義にならないように、まず必然が書けること。
そこから、ちょいちょい運命の皮肉や、
人間の愚かな限界などが書けると、深みが増すだろう。
人生における偶然の不思議を描いたもので、
「スライディングドア」や「ビフォアサンライズ」などの小品もある。
それらも、必然と偶然を上手く使い分けている。
全編アドリブ(偶然待ち?)で進めることは、僕は嫌いだ。
(キス我慢選手権がどれほどのものかまだ見てないが)
それは、脚本家の必然の苦労を無視している。
もっとも、それがリアリティー溢れるように書けてないから、
劇団ひとりに負けるのだろう。
大分前に見たドキュメントの傑作、「マンオンザロープ」は素晴らしかった。
全てを必然的計画でやってのけた、
現実だけど実に映画的な話だった。
映画は、「人生は実行すれば叶う」ことを上手に描くものだと思う。
2014年10月24日
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