2014年10月28日

口癖

自分の書く文は、自分色が出る。
自分色が出ない文章など、文学ではない。

さて、小説なら地の文などにその色を濃くすることが出来るが、
脚本ではそうはいかない。
脚本の殆どの表現は、台詞にあるからだ。
脚本の文字の7割8割は、台詞だ。

で、初心者によくあるのが、
どの登場人物も作者の口癖を言うことだ。


自分の口癖は自分では気づけない。
だが誰かの口癖は分かる。

友達など、その人がリアルに喋る言葉をよく聞いている人が台詞を書くとき、
その人っぽく喋るキャラばかりなのが気になることがある。
(先日若手を集めた塾で台詞劇を書かせたら、見事にそうなった)

これは、自分より他の人間に指摘されない限り自覚出来ない。
或いは、指摘されたとしても、
それ以外のしゃべり方を、自分では思いつけないことが多い。

それを避ける方法がある。
物真似である。


誰かその人の言葉を日常的に聞く環境のある人の言い方を、
モデルにするのである。
(若い人が書くおっさんおばさんの喋る言葉は、
大抵父母がモデルだ。そういう言い方しか知らないからだ。
例えば主人公の親や、指導者や、部長や、食堂のおばちゃんなどは、
大抵父母と同じ言葉遣いをする。人生経験を積めば積むほど、
これらのモデルのバリエーションは、父母以外にも増えるだろう)

主人公の友人を、自分が喋る感じにではなく、
自分の友達の真似をしながら書いてみよう。
主人公の恋人を、自分が喋る感じにではなく、
自分の恋人(や異性の友達)の真似をしながら書いてみよう。
その人の言いそうなことを言わせよう。
その人が言わなさそうなことは言わせないでおこう。

それだけで、複数の口癖が存在するようになる。

慣れてくると、更に発展的になる。
言葉とは内面が外に出たものだから、
その人の性格や生い立ちや哲学や好みで、
出てくる言葉、すなわち考え方自体が違うのだ、
ということが分かるようになるのだ。

例えば先に占いの例を出したが、
乙女座と獅子座のカップルと、双子座と天秤座のカップルの会話を、
書き分けられるだろうか。
星占いに詳しくないなら、
O型A型のカップルと、B型AB型カップルの会話の書き分けでもいい。


心理学に仮面劇のエクササイズがある。
たとえば四人一家の食卓での会話を演じさせる。
即興で台詞を言う場合もあるし、流れ的な台本を用意されている場合もある。
家族構成は、父母、兄弟または姉妹などの組み合わせだ。
自分以外の役も一通り演じる、つまり計四回演じる。
これによって、相手は何を考えているか、
誰をどのように見ているかを、他人の立場を演じることで掴むのだ。

例えば父子関係が上手くいかない人に父親を演じさせ、
父が何をどう考えているかを体感させるのである。
これによって自分サイドからは考えもしなかった思考に至り、
こじれていた父子関係が変わることもあるのだ。
(方法論は療法士によって異なる。演劇セラピーなどで調べてください)


言葉は単なる口癖ではない。
考えていること、至らないことが、外に出てきたものだ。
口癖が違うということは、考え方そのものが違うということだ。


女の子と付き合ったことのない男は、
やっぱりヒロインとの恋のリアリティーがない。
それは口癖よりも、考え方そのもののリアリティーがないからだ。
だからそれまで接してきた架空の世界の女の子を、
そのまま持ってきてしまい、嘘臭いと言われる羽目になる。


別に全ての経験をしないと駄目だと言っている訳ではない。
自分以外の他者を、きちんと書け、
なおかつ他者と他者の考え方の差や感じ方の差を書き、
他者と他者の揉め事やその解決を、
書けるかという話である。
(何故に揉め、どうやって落ち所を納得したかということを、
他人の目線で書けるかという話だ)

そういうことが出来ていない人の書く登場人物は、
全員が作者の口癖で喋る。

それは観客から見れば、
みんな同じに見えるとか、キャラが立っていないとか、
感情移入しづらいとか、なんかメリハリがない、
という作品になるだろう。


まずは口癖に気をつけてみよう。
漫画っぽいキャラはいらない。
実在の人っぽい、リアリティーあるものがいい。
それは、あなたが他者をどのように考えているかを、
ある程度反映する。
posted by おおおかとしひこ at 02:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック