2014年11月09日

n人の物語

あなたは、何人の人間が登場する話を書いているのか、
自覚しているだろうか。

登場人物の数を考えてみよう。


一人の物語:
これは物語ではない。日記やオナニーである。
山登りなどの自然冒険もの、独り暮らしの呟き、
群れの中の孤独などを描くことは、
物語ではなく描写である。
エッセイか一人称小説でも書いてなさい。

二人の物語:
最小の人数にして、最大の葛藤の物語だ。
揉める、ケンカする、ぶつかる、など、
コンフリクトが起こる。
コンフリクトは物語そのものである。
二人の目的や立場の違いから、
二人の間に齟齬が生じ、
その差異が我慢ならないときにコンフリクトは起こる。
夫婦やカップルのケンカは、最も身近なコンフリクトだ。

コンフリクトは、相手を殺す(比喩的に)ことが目的になる。
相手を自分色に染めるか、自分が敗北するか、(勝利または敗北)
あるいは、両者が納得する第三の解決を見いだすか、(止揚)
両方とも痛み分けとするか、(ビターエンド)
双方死ぬか、(バッドエンド)
のどれかを結末とする。

基本的に、物語とは、
コンフリクトの発生、コンフリクトの展開、コンフリクトの結末、
の3ブロックに分かれる。
これを三幕構成という。

二人の物語とは、最小限のコンフリクト物語だ。
そして、最小限の人数ゆえ、最も濃い物語だ。
たとえば複数の登場人物の物語だったとしても、
クライマックスが一対一の決闘になるのは、
コンフリクトの濃い物語である。
スポーツもの、善悪ものなどは、これらの濃さが顕著に出る。

二人のうち、我々が感情移入する側を主人公という。
感情移入または肩入れする側は一人に絞ったほうがよい。
双方に等しく感情移入することは人は出来ない。
必ずどちらかが主になり一方が副になる。
陰陽の関係にすることが、最も二人の違いを際立たせるだろう。


三人の物語:

コンフリクトする二人に対して、もう一人が加わると、
話が途端に複雑に、面白くなる。
三人目が間を取り持ったり、割って入ったり、どちらかの味方についたり、
味方だと思わせて裏切ったりする、という、
両陣営があること前提の、第三の陣営になるからだ。
コンフリクトが三つ巴になることもあるが、
レアケースだ。(最も古い三つ巴のコンフリクトは、三国志だろう)

大抵メインのコンフリクトがあり、
第三者とその他のコンフリクトは小さい場合が多い。
が、それがメインのコンフリクトに影響を与え、
二人の物語の単純さに比べ、複雑な展開と結末をつくることが可能になる。

最初のコンフリクトが解消し、
第三者とのコンフリクトが後半メインになる、
コンフリクトが変わるパターンもある。
映画や短編ではあまりないが、
長期的なもの、大河や漫画ではあることだ。
第三勢力の台頭によって第一第二が休戦し共闘する、などの物語も可能になる。
三角関係においては、本命に行かずまず違う方と付き合って話を持たせる、
なんて展開は定番だろう。

第三者は、メインコンフリクトの二人に対して、
遊撃部隊の役割を果たす。
これをトリックスターと言うこともある。


四人の物語:

より複雑になるかというとそうでもない。
2-2、1-3、2-1-1などに分ければ、
それぞれ二人の物語や三人の物語と同じ構造になるからだ。
二人や三人の物語の中に、入れ子のように二人の物語や三人の物語が入っている、
と考えるだけである。

五人の物語:

以下、何人の物語でも同じ考え方だ。
属する陣営によって色分けされるだけである。

ただし、四人以上の物語を複雑にする方法がある。

陣営を重ね合わせるのである。

たとえば、複数の大学生でつくるサークル(インカレって言うんだっけ)
などが舞台のときだ。
サークル内での立場の人間関係と、
大学内での人間関係とは別である。
同じ登場人物でも、サークルのメンバーとして話すのと、
大学内での人間関係として話すのと、変わってくる。
複数の人間関係が重なりあうのだ。

会社の中の個人、
軍隊の中における宗教、
社会的立場と一族の都合、
刑事としての人間関係と麻雀仲間としての人間関係、
などなど、
人間は複数の立場を使い分けるから、
人間関係が重なりあって存在するのだ。
複数の関係に関わる人、一方の関係のみの人、
などを設定しているだけで、コンフリクトがそこかしこに発生する。

これを、四人以上の人間の物語に重ね合わせると、
途端に話が複雑になってゆく。
自分はどちらの自分を優先させるべきか、
本当の自分はどちら側なのか、
という悩みや揺れが起こりやすく、
決断を迫られたり、誤った決断をして、
ドラマを生みやすい。
コンフリクトも複数発生させやすいので、
火種をあちこちで仕込みやすく、
連鎖反応もつくりやすい。

二人の物語、三人の物語が、
あちこちで、重なりあって存在するようになる。
それらが同時進行する。(サブプロット)

メインコンフリクトは何か、決着はなにか、
その軸足さえしっかりしていれば、
スタンダードな物語とは、大抵この形を取るだろう。
(下手な人はわやくちゃになってしまう)

僕の経験則では、
映画の登場人物は、5、6人がベストだ。
二人の物語と三人の物語が作りやすく、
適度に複数の人間関係を重ね合わせやすい人数だからだと思う。

短編では2、3人が普通で、それ以上は複雑な話になるだろう。


あなたの話は、何人の物語を書こうとしているのか、
はっきりと自覚しよう。

単純すぎるなら、登場人物を増やしてみよう。
二人の物語に、三人目を入れてみよう。
二人のどちらとも違う目的を持つ三人目だ。
話はややこしくなり、決着をどうしていいか悩ましくなるはずだ。

複雑なら、登場人物を減らしてみよう。
三人の物語を、極端に二人の物語にしてみるのだ。
重なりあう人間関係を、ひとつ削ってフラットな人間関係にしてみるのだ。
その単純化だけで、面白い構造になるように作り直すのだ。

同じシーンに仮に十人がいたとしても原理は同じだ。
二人の物語と三人の物語の組み合わせで考えればよいからだ。
posted by おおおかとしひこ at 03:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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