何度か書いているけど、
一幕三幕を先につくり、テーマを確定して、
そのあとで二幕をつくることだ。
てんぐ探偵20話(妖怪横文字)を具体に、
ケーススタディ的に説明してみよう。
一幕では、問題を考える。
「妖怪横文字に取り憑かれて、
カタカナ英語でしか喋れなくなった人」だ。
これは勿論、昨今のヘンテコなカタカナ語の氾濫の揶揄である。
三幕で、解決を考える。
クライマックスは、「田舎の親父にも同じことを言う」
というシチュエーションが面白いと思いついた。
克服すべきプレッシャーを最大に高め、ハードルを最も高くする。
そこで親父には病気になってもらうことにした。
急遽帰省して、仕事はどうだと聞かれ、
カタカナ語たっぷりに喋る場面をまず描く。
そのあとで、
「カタカナ語で盛るのは、自信がないからだ」と、
本音を告白するのだ。
「自信がないことを隠してるのを認める」
ということがテーマになってくる。
あとは二幕を何にするか、考えていく。
その前に一幕の段取りも考える。
二幕で使えるものの準備になるからだ。
(意図的に前ふりすることもあるし、一幕を考えながら、
出てきたものをあとで利用することもある。この場合後者)
今回は、依頼の形式で話がやって来るパターン(探偵ものっぽく)
をやってみようと思った。
この時点で、本人の依頼ではなく、婚約者・紀子というキャラが生まれる。
(「約束」は、便利な小道具である。これが登場した時点で、
約束は果たされるか破棄されるかの、動きを生じるからだ)
ということは、ラストのハッピーエンドを締めるのは、
プロポーズの場面だろう。
「プロポーズ」が横文字であることに僕は気づき、
あの四文字熟語のラストシーンにたどり着いた。
さて、依頼を一幕、父の病床を三幕、
エンディングはプロポーズ、と、大体見積り、
二幕を考えることにする。
二幕は「行動」を中心に考えるとよい。
一幕では設定が多くなるため、行動でなにかを表現することは難しい。
(特に今回は依頼という静的パターンだし)
従って、行動しまくる何かがいいなあ、と思っていた。
幸い、シンイチは行動しまくるような少年にしてある。
(どちらかと言えばシンイチは主人公ではなく、狂言回しだ。
ゲストの問題をレギュラーが解決するのは、ゲストが主人公)
プロット段階では、「日本語教室に通わせる」とか、
「ことわざを体験させる(犬を棒にぶつけるとか)」、
「外人と会話させる」なんて案があった。
構想段階ではここまでで思考を終了させ、次の話の構想へ移っていた。
(何せエンドの四文字熟語でちゃんと落ちがつくことは、
保証できたようなものだから)
実際の二幕を考えたのは、
小説版執筆時だ。
動きを最大にしようとして、「跳梁の力で日本観光」を思いついたのだ。
大きな動機は「日本の素晴らしさを体験させる」と言うものだ。
宿主、江島の反応は、ずっと芳しくないことを想定している。
「中身がないことをバレないようにする人」の反応、という体だ。
ならば対比するために、シンイチが一番楽しむべきだと考えた。
何を対比させるのか。
自分に寄せて日本文化を理解しようとすることと、
よくある観光セットとしか考えないことの違いをである。
こうすれば、いかに自分が無知かを体感できると思ったのだ。
紀子は当初の予定では旅に同行するつもりはなかったが、
江島のリアクションがしょぼくなるので、
「普通のリアクションをする人」として同行してもらうことにした。
そのまま父の病床にもついていけるし。
あとはどこへ行くか、考えるだけだ。
順当に、浅草、鎌倉、富士山、京都あたりを、東京を中心に考える。
北に延ばさず、おそらく京都へ行くだろうと。
(温泉サイコーという温泉巡り、地方の旨いもの巡りもあり得たが、
前の話と被るので温泉ネタは避けた)
浅草を調べると、えらく古いんだなということを知ったので、
創建エピソードをそのまま使うことにした。
聖観音ってなんだ、六観音てなんだ、
みたいに調べをして、子供心でとっつきそうな、
「他は手とか頭が多いのに、聖観音だけ人間スタイル」
という発見をする。
鎌倉の大仏は阿弥陀如来なのか、とこれも調べもので気づく。
先に終着点京都のイベントはどうしようか、
と考えて、伝統芸能がいいなと思った。
能にしようかなと最初は思ったのだが、
ネムカケがどうしても人形浄瑠璃が見たいとゴネたほうが、
話が面白くなると思いついて、ひねりを入れていく。
(ネムカケは普段は老賢者のアーキタイプだが、
マスコットキャラとして、時にトリックスターのアーキタイプになる。
わがままじいちゃんのキャラである)
演目を探しているうちに、「鬼一法眼三略巻」にたどり着いた案配。
あとは資料を読み込んで、面白いところをピックアップしてみた。
(実は鞍馬天狗のことは天狗を題材にすると決めたときから、
どう距離を取るか決めかねていて、アイデアもあるのだが、
ここで触れざるを得なかったのは誤算だ。もう少し隠し玉にしておきたかった。
が、牽制という意味でも鞍馬天狗に触れられたのは、結果オーライといったところ)
とすれば、三つを巡るぐらいで丁度よいか、と富士山や東北
(たとえば中尊寺などで義経の足跡を辿るとか、阿弖流為の足跡)
は、やめることにした。
壮大な、日本て何だ、みたいなミステリーにしたいが、
そこは本題ではない。
浅草、鎌倉(ネムカケがゴネるひねり入り)、京都、
と、丁度よい観光のテンポになりそうだ、と気づく。
これでプロットはほぼ書ける。
第一ターニングポイントは、依頼を受け、
彼のところへ実際に行ってみようとシンイチが決意する場面、
第二ターニングポイントは、父の入院の知らせだ。
再び頭から通しで考えてゆく。
一幕が依頼だけではあまり面白くなさそうなので、
オープニングの前ふり(マクラ)を付け足すことにする。
子供たちが、カタカナ語カッケーとか言ってて、
ちょっと突っ込んだら全然知らねーみたいな場面を、
前ふりにすることを考えていた。
執筆時に「恥」という言葉が浮かんできたので、
「恥ずかしい」を前ふりになるようにリライトしていく。
二幕はお楽しみポイントでもあるから、
「横文字を連発する、しかしそれはほとんど意味がない」ことを、
面白おかしく見せる場面でもある。
そこで、「ネムカケが逐語訳をしたのちに、こなれた日本語にする」
ということを思いつき、あとは、それが出来るかどうか、
具体的なカタカナ語の収集に入った。
(プロット段階では、たぶん出来るだろうと、執筆時の俺に振ることにしていた)
で、二幕は、
実際の彼のところでネムカケが訳す→あなた妖怪に取り憑かれてますよ
→浅草、鎌倉、京都観光
という構成となる。
多くのパターンでは、あなた妖怪に取り憑かれてますよ、
が第一ターニングポイントになるが、
今回は依頼を挟んでいるため、
「出動」が第一ターニングポイントになる。
(いつも偶然出会うのもなんだしね)
あとは二幕で、
江島はあまり楽しんでなく、
他の人たちがエンジョイしてる様を描けば、
テーマに落としやすくなる、という逆算をする。
これで概ねプロットは、書き終えられる。
実際の執筆では、
ペラ一枚の、一番最初につくったプロットがあり、
執筆時につくった、さらに進んで日本観光バージョンにした、
自分用のメモだけがあり、
それを見ながら書いている。
参考までに、それをアップしてみよう。
最初につくったプロット: 「横文字」プロット最初.pdf
執筆時のメモ的なプロット: 「横文字」プロット執筆直前.pdf
ネタのメモ: 「横文字」資料メモ.pdf
手書きの汚い字は申し訳ないが、
リアルはこういうことだと知る上でも資料価値があると思い、公開してみる。
最初のプロットは、完成版に比べれば二幕が薄い。
問題も、日本人と外人に挟まれている、という解決の難しいものになっている。
執筆中のメモは、左に段取り的なシーンを書いておいて、
具体的イメージをメモしている。これを書きながら、
二幕が観光旅行に発展していった。
資料メモは、色々と資料を読みながら、使えそうなネタをメモったものだ。
アットランダムにメモしているから読みにくいが、
この全部を使うつもりは勿論ない。色々と考えているうちに、
ネムカケがごねだすというひねりを思いついたのが右下に書かれている。
あらためて、最終版のプロットを俯瞰してみよう。
一幕: 問題の提示
子供たちが英語カッケー、しかし恥ずかしいと
依頼が来る。婚約者紀子の話。横文字に取り憑かれた男。
実際に彼のところへ行ってみよう(第一ターニングポイント)
二幕: 解決のための行動
横文字男をネムカケが訳す(盛ってるだけだ)
あなた妖怪に取り憑かれてますよ
日本文化を見に行こう、浅草観光(しかし江島は頑な)
鎌倉観光、ネムカケが人形浄瑠璃が見たいとゴネる
京都観光、しかし江島は頑な
父の入院の知らせ(第二ターニングポイント)
三幕: 解決
父にも横文字を、しかしそれは自分の無知を隠すことだ、
と白状、それは恥だと
妖怪をぶったぎる
プロポーズ
比較的ハリウッド的な、1:2:1のバランスになっていると思う。
プロットとは、このように、
テーマからの逆算、落ちからの逆算でつくっていくものだ。
現実的には、執筆しながら頭の中に浮かんでいたもので、
この状態でつくったものは実在しない。
プロットを練る最中、何度も僕が「思いつく」を挟んでいる。
これはただの思いつきではなく、
「ここでこのような機能、役割を果たす、面白いエピソードや設定が欲しい」と、
自分に要請したうえで、面白いエピソードを思いついている。
「目的のある思いつき」と言うべきか。
ネムカケが人形浄瑠璃が見たいとゴネる思いつきも、
「ストレートに進んだら飽きるので、ひねりを入れたい」
要請に対する思いつきだし、
二幕を主に日本観光旅行にする思いつきも、
「一幕は依頼という静的場面なので、行動を描きやすい大きな動きがよい」
という要請への思いつきである。
このように、ただバラバラのものを思いつくのではなく、
ストーリー上の要請があって、面白いことを必死で考えるのだ。
要請するのは、観客としての自分であることは言うまでもない。
これに対し、ラストシーンの四文字熟語は、
完全にただの思いつきだ。
しかもほぼ最初に思いついている。
こういったインスピレーションが、作品の核になるのである。
つまり、テーマである。
僕は、このようなインスピレーションは、
一作品にひとつであるべきだと思っている。
それが作品の看板に、最終的になるだろうからだ。
看板は二つ以上でなく、強いひとつが理想である。
ちなみに、てんぐ探偵は、
「心の闇を退治する」という大枠を思いついた時点で、
300ぐらいの「心の闇」を創作している。
(名前や症状を決める)
いわば「問題集」だ。
面白い解決法や、いいラストになりそうなものを「思いついた」時点で、
それをプロット化する、というループを繰り返している。
(既に全55話あるが、増えるかも)
このときも、一幕→三幕→テーマの確定→二幕、
という順番は変わらない。
勿論、一幕→二幕→三幕と順でつくるときに、
面白いものが出来ることもある。
順で考えたことがトントン拍子に行くこともある。
が、長い二幕の途中で大抵道に迷う。
ゴールを決めたほうが、ぐんとやりやすいというのが経験則だ。
(例えば日本観光のシークエンスでも、
浅草を考えたら、鎌倉を飛ばして先に京都を考えたように、
部分的にもこの考え方は使える)
2015年01月07日
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