2015年02月08日

夢落ちは、何故いけないか

デウス・エクス・マキナになるからだ。
(これに関しては議論したような気が)

夢落ちをつい書いてしまう、
作者のだめな心理を追ってみよう。


落ちというのは、パズルの解に似ている。

最初に出された条件だけを頼りに、
展開し、解決することに似ている。

デウス・エクス・マキナは、
その最初の前提にないものを投入してしまうことだ。

前回の料理で例えるなら、
「今日は彼女のために料理をつくる」
という前提から話をはじめて、
途中でうまくいかなくて、
「ピザの出前をとる」
という落ちにしてしまうことだ。

前提にないことをしてはいけない。
逆に、伏線を前提に忍ばせるのだ。
しかも、ばれないように、堂々と。
ばれないほど、堂々としてるほど、
それは巧みなどんでん返しと呼ばれる。

あの時のあれを使うんだろ?やっぱり!
は、どんでん返しとしては上手ではないが、
どんでん返しではない、驚き目的ではない、
通常の展開ならば、基本通りである。


デウス・エクス・マキナに頼る作者の心理とは、
「失敗した」である。
要するに、ここまで来て、うまくいかないことに気づいたのだ。
ひょっとすると、もう少し前から薄々気づいていて、
色々と足掻いたけど、やっぱりダメだ、
と観念したのかも知れない。

前提から念入りに仕込んで、
展開を経てついに解き終えたパズルの面白さを、
やっぱ出来てなかった、のである。

材料を買い、仕込んで調理するうちに、
どうやっても不味いことに、気づいたのである。

頭から書いてきて、展開も謎だらけで引っ張ってきたのに、
その解決が思いつかず、
夢でした、ああよかったね、
とやってしまうのだ。

それは作者の心理的には、失敗作を、
うまくまとめたような気になるが、
端から見たら、大失敗作なのだ。



プロになってから、一度だけ夢落ちをやったことがある。
若いとき、ショートフィルムCMを100万でつくろう、なんて流れのときだ。

僕が書いたのではなく、某人が書いたシナリオがあって、
これを監督してくださいと依頼されたパターンだ。
やばい。
要するに投げたから、監督うまく尻を拭いてくれ、のパターンである。

主人公の部屋ワンシチュエーションもの。

ある朝大地震が起こり、大停電。
なぜか部屋の天井に謎の穴が開く。
そこから現金や高級バッグが落ちてきて、
水着の美女も落ちてくる。
主人公ウハウハ。
しかしさらに穴からヤクザが落ちてきて、
うちの女になにすんじゃいと詰め寄られ大ピンチ。
こんなのおかしい、絶対へんだとラジオをつける。
と、臨時ニュースが流れ、「各地を襲う大地震は、夢です」
と言われて起きる。
「夢かあ」
コピー:真実はラジオから。ニッポン放送


いや、これ落ちないやん。
困ったから夢落ちにしたんやん。
前段や展開をいかに組み立てを変えても、
この落ちやと無理やん。
困った僕はうんうん唸り、起きたあとにワンシーン足した。

「しかし変な夢だったなあ」
と、トップシーンと同じアングルに戻る。
と、ごみ収集車がくる。
「あ、ゴミ出さなきゃ」
ブランドバッグのカタログが乗ってる雑誌、
水着美女のエロ本、
やくざと現金が舞う映画のビデオ、
などなど、今までみた夢は、
全て「欲望」をメディアから植え付けるものであった。
コピー:ほんとの毎日、ラジオから。ニッポン放送


全てのメディアは、欲望という嘘である、
真実はラジオから流れるのだ、なんて、
「ゼイリブ」のような落ちに変えたのである。

最初に脚本を書いた人のプライドを傷つけることなく、
テーマ(コピー)を変えることなく、
夢落ちのなんでや感を逆に利用する、
ウルトラC的な改変だったと思う。

むしろ、他のメディアは嘘(夢)に過ぎない、
と180度ひっくり返すことで、
「夢にする意味」があるように構造上なっているのだ。


夢落ちならそれで構わないが、
それがなんの意味があったのか、がなければならない。
「シックスセンス」「ジェイコブスラダー」は、
それが優れた傑作である。

夢落ちが何故いけないか。
夢だったら、これまでのことが意味がないからだ。
つまり、テーマがなくなるからである。
無テーマ作品になってしまうのである。

漫画「東京大学物語」「奇面組」のラストは、
有名な夢落ちである。
このがっかり感。これまで読んできたことへの徒労感。
これまで来たことが徒労に終わってむなしいということは、
逆に、
映画とは、これまで来たことに、
その解決に、なんらかの意味を見いだすことなのだ。
posted by おおおかとしひこ at 14:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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