アイデンティティーの議論を踏まえて。
映画では動機が大事だ、と呪文のように言われる。
芝居には目的が必要だ、と呪文のように言われる。
何故だろう。
前回までの議論で、これに答えが出る。
三人称形では、
登場人物の言葉か行動しか、表現方法がない。
(ナレーションの例外はこの際置いておく)
どうしてそんな言葉をいきなり言うのか、
どうしてそんな行動をいきなり言うのか、
いきなりされたら訳が分からない。
こういう目的があるからこそ、こう言う。
こういう意図があるからこそ、こう行動する。
感情移入がうまくいっているとき、
目的と言動は常に一体化している。
それが感情移入の楽しさである。
あるいは逆に、
その人の言葉から、その人の意図を探る。
その人の行動から、その人の目的を推理する。
三人称形とは、それが楽しみのひとつだ。
他人の台詞から目的を推理する例。
好きな子をデートに誘ってみる。
「ごめんその日は親が来るので無理」
彼女の意図は。
1. 親思いのいい子なので、また今度ね。
2. あなたとデートする気はないわ。傷つかない理由で断ってあげたのよ。
正解は2だ。
1の可能性は0ではないが、デートする気があるなら、
OKな日を提案してくるはずだ。
このような、意図/目的推理ゲームの面白さが、
「他人」を対象とする、三人称形の面白さなのである。
(ミステリーなんて、殆どの尺を動機の解明に当てている)
つまり。
三人称形での、表現方法、
言葉と行動には、次のふたつしかない。
1. 意図や目的が最初から分かってる場合。(感情移入)
2. 意図や目的が分からないが、察せられる場合。
もし、意図や目的が不明な言動があるのなら、
(わざと謎にする意図を除いては)
ん?ってなるのである。
ん?はひとつくらいならいい。
その違和感が伏線ってこともよくあるからだ。
ん?がふたつ、みっつと続くとしよう。
ん?
ん?何で?
ん?そもそも何だったっけ?あれ?
こうして、言動から意図や目的が読み取れないと、
心が物語から離れる。
感情で物語に没入するのではなく、
観客の理性が働き始めるのである。
それがすぐに理解できて、理性が安心し感情に戻れば、
より理性の信頼感は増すのだが、
いつまでたっても解読出来ないものがあると、
イライラするのである。
これは何のためにやってるの?と。
動機や目的が重要なのは、
あなたが首尾一貫したストーリーを書くのに、
是非とも必要なものである。
そうじゃないと、登場人物は次に何をしていいか分からなくなり、
ストーリーは迷路に入ってしまうからだ。
しかしそれ以上に、
三人称形にとっては、読み取る側に必要なのである。
目的や意図のない言動は、三人称形では、
意味のない時間なのである。
(例外がひとつだけある。その人物に惚れているときだ。
どんなうんこばなしでも、うっとりして聞き惚れ、
いつまでも続いて欲しいと願うのである。
アイドルドラマはこの恋の仕組みを利用して、
たとえ下らないストーリーでも非難を避けて垂れ流す)
だから、目的や動機は重要なのだ。
目的や動機が読み取れない三人称形物語は、
詰まらないのだ。
さて、読み取る力は、
観客や文化に依存する。
「親が来る」と言い訳されたら、
モテナイ男は本当にそうだと思ってしまい、
それが断りの一種であることを読み取ることは出来ない。
読み取れるのは、そのようによく断る女と、
そのようによく断られている男だけである。
つまり、この例だけでは、全員が読み取ることは出来ない。
しかし映画には文脈がある。
ファーストシーンがこれでは、いかに達人とて読み取り切れない。
女が男を断りたい、
という文脈ならば、「親が来る」は、
殆どの観客が断りの嘘の言い訳であることは読み取れる。
ついでに男が親思いのいい子だなあ、と感心し、
女が別の男の所にに出かけるだめ押しがあれば尚更だ。
読み取る力の弱い人、子供には、子供なりの読ませ方があるし、
大人向けには、大人向けなりの読ませ方がある。
これは完全に文化依存であるから、
あなたが他の例に慣れる以外に学習は出来ない。
また、これを応用して、
言動から意図や目的を読み取らせる、
新しいパターンを発明することも出来るだろう。
これが下手な場合、意図を読み損ねる、
曖昧な表現になってしまう。
例えば「インセプション」のラスト。
コマは倒れる、の意味で監督は入れたのだが、
それを読み取るだけの文脈に乏しかったため、
いまだに初見の人を、どっちだったの?と迷わせる表現になっている。
僕はこういう失敗表現が大嫌いだ。
明らかに読み取れるように、文脈を整えるべきである。
動機は何故大事か。
ないと、言動が意味不明になるからだ。
「意味不明」は、だから、最もポピュラーな「詰まらない」である。
2015年02月11日
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