2015年02月11日

何故動機が大事なのか

アイデンティティーの議論を踏まえて。

映画では動機が大事だ、と呪文のように言われる。
芝居には目的が必要だ、と呪文のように言われる。
何故だろう。

前回までの議論で、これに答えが出る。


三人称形では、
登場人物の言葉か行動しか、表現方法がない。
(ナレーションの例外はこの際置いておく)

どうしてそんな言葉をいきなり言うのか、
どうしてそんな行動をいきなり言うのか、
いきなりされたら訳が分からない。

こういう目的があるからこそ、こう言う。
こういう意図があるからこそ、こう行動する。

感情移入がうまくいっているとき、
目的と言動は常に一体化している。
それが感情移入の楽しさである。

あるいは逆に、
その人の言葉から、その人の意図を探る。
その人の行動から、その人の目的を推理する。

三人称形とは、それが楽しみのひとつだ。



他人の台詞から目的を推理する例。

好きな子をデートに誘ってみる。
「ごめんその日は親が来るので無理」
彼女の意図は。

1. 親思いのいい子なので、また今度ね。
2. あなたとデートする気はないわ。傷つかない理由で断ってあげたのよ。

正解は2だ。
1の可能性は0ではないが、デートする気があるなら、
OKな日を提案してくるはずだ。


このような、意図/目的推理ゲームの面白さが、
「他人」を対象とする、三人称形の面白さなのである。
(ミステリーなんて、殆どの尺を動機の解明に当てている)



つまり。
三人称形での、表現方法、
言葉と行動には、次のふたつしかない。

1. 意図や目的が最初から分かってる場合。(感情移入)
2. 意図や目的が分からないが、察せられる場合。

もし、意図や目的が不明な言動があるのなら、
(わざと謎にする意図を除いては)
ん?ってなるのである。

ん?はひとつくらいならいい。
その違和感が伏線ってこともよくあるからだ。
ん?がふたつ、みっつと続くとしよう。
ん?
ん?何で?
ん?そもそも何だったっけ?あれ?

こうして、言動から意図や目的が読み取れないと、
心が物語から離れる。
感情で物語に没入するのではなく、
観客の理性が働き始めるのである。

それがすぐに理解できて、理性が安心し感情に戻れば、
より理性の信頼感は増すのだが、
いつまでたっても解読出来ないものがあると、
イライラするのである。

これは何のためにやってるの?と。



動機や目的が重要なのは、
あなたが首尾一貫したストーリーを書くのに、
是非とも必要なものである。
そうじゃないと、登場人物は次に何をしていいか分からなくなり、
ストーリーは迷路に入ってしまうからだ。

しかしそれ以上に、
三人称形にとっては、読み取る側に必要なのである。

目的や意図のない言動は、三人称形では、
意味のない時間なのである。

(例外がひとつだけある。その人物に惚れているときだ。
どんなうんこばなしでも、うっとりして聞き惚れ、
いつまでも続いて欲しいと願うのである。
アイドルドラマはこの恋の仕組みを利用して、
たとえ下らないストーリーでも非難を避けて垂れ流す)


だから、目的や動機は重要なのだ。
目的や動機が読み取れない三人称形物語は、
詰まらないのだ。



さて、読み取る力は、
観客や文化に依存する。

「親が来る」と言い訳されたら、
モテナイ男は本当にそうだと思ってしまい、
それが断りの一種であることを読み取ることは出来ない。
読み取れるのは、そのようによく断る女と、
そのようによく断られている男だけである。
つまり、この例だけでは、全員が読み取ることは出来ない。
しかし映画には文脈がある。
ファーストシーンがこれでは、いかに達人とて読み取り切れない。
女が男を断りたい、
という文脈ならば、「親が来る」は、
殆どの観客が断りの嘘の言い訳であることは読み取れる。
ついでに男が親思いのいい子だなあ、と感心し、
女が別の男の所にに出かけるだめ押しがあれば尚更だ。


読み取る力の弱い人、子供には、子供なりの読ませ方があるし、
大人向けには、大人向けなりの読ませ方がある。
これは完全に文化依存であるから、
あなたが他の例に慣れる以外に学習は出来ない。
また、これを応用して、
言動から意図や目的を読み取らせる、
新しいパターンを発明することも出来るだろう。

これが下手な場合、意図を読み損ねる、
曖昧な表現になってしまう。
例えば「インセプション」のラスト。
コマは倒れる、の意味で監督は入れたのだが、
それを読み取るだけの文脈に乏しかったため、
いまだに初見の人を、どっちだったの?と迷わせる表現になっている。
僕はこういう失敗表現が大嫌いだ。

明らかに読み取れるように、文脈を整えるべきである。


動機は何故大事か。
ないと、言動が意味不明になるからだ。

「意味不明」は、だから、最もポピュラーな「詰まらない」である。
posted by おおおかとしひこ at 02:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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