2015年02月18日

良いストーリーってなんだ

そんな検索ワードで来た人がいた。
なんと本質的で難しい問いであろう。

僕は、
「人々を、世界を良い方向へ変えるもの」が、
良いストーリーだと思う。


良いとか悪いとかの定義はとても難しい。
個人の中でもバラバラだ。
だから、僕は、人々を、とか世界を、
良い方向へ変えるもの、という、
全体的な群れとしての人類を対象に考える。

ある特定の人(これは作者一人でもいい)にとって、
良いストーリーは、良いストーリーではない。
ある人を強烈に良い方向へ変えるような凄いストーリーは、
良いストーリーではなく、単なる麻薬のような気がする。
(デスノートがそうだと思う。あれは15禁にすべき)

人々、世界を良い方向へ変えるものが、いいと思う。
それは、片寄ったものはやっぱり弾かれるってことだ。
淘汰されてしまうってことだ。

人々、世界は分かった、じゃ、良い方向ってどっちだ、
となるだろう。

それは、世界の悪いこと、悲惨なことを体験するといいと思う。
アフリカの飢餓でもいいよ。
自分の片想いが届かないことでもいいよ。
誰かが保身のために誰かを犠牲にしていることでもいいよ。
強盗やレイプや差別でもいいよ。
幸せになれないことでもいいし、
誰かが泣いていることでもいい。
小悪党や大悪党の所業やシステムを知るのもいい。
大好きだったばあちゃんがボケてしまった悲しさでもいい。

どんな小さなことでもいいし、どんな大きなことでもいい。
世界は残酷で悲惨なことが、たくさんあって、
それは(物語のように)幸せで終わるとは限らないことを、
身をもって知ることである。
温室にいては、世界の良くないことを知ることは出来ない。

一方で、良いストーリーに触れることも大事だ。
名作や傑作、世間で良いストーリーと呼ばれてるものに、
同じ数だけ触れることだ。
僕は映画中心だけど、漫画、小説、落語、小咄、エッセイ、うんちく、
童話、伝承、神話、実話、都市伝説などなど、
ありとあらゆる良いストーリーを知るといい。

一人のセレクションでは片寄るから、
複数のセレクションがいい。
この時の集合知は、ランダムノイズ(初心者の評価)を含むので、
誰でも書き込める形式の評価基準を参考にし過ぎるのは良くない。
あるしっかりした基準のもとに選ばれた百選
(売りたいだけの商業的ステマを見抜くこと!)なんかを、
複数のセレクションで見ると良い。

そうすると、言葉に出来ないけど、分かってくる。
良いストーリーの持つムードがだ。


たんなる偽善的な物語はだめだ。
例えばディズニーのダメな映画はそうなりがちだ。
「良い」ばかりを考えて、
世界の悪いことや悲惨さや残酷さを、無視している。
それを知ってなお、良い方向へ変えることとはどういうことか、
を、知るべきである。

僕らの世代は、小学校に道徳の時間があった。
そこで良いことと悪いことを教える、
沢山の物語を読んだ。
ゆとりでそれは消えた。自分で考えましょう、になった。
でも誰も考えなくなった。
世の中に悪いことがあることを知ったら、
それを利用する、自分だけ得をしようとする悪い(ずるい)やつが、
増えただけだと思う。

道徳は、特定の善を教える宗教教育ではないか、
というのが道徳教育への主な批判だ。
戦争へ行くお国のために、なんて偏った洗脳が可能だからだ。
その話は善の教育として正しいか、なんて議論すれば、
それは決着がつかない。
物語は、間接表現だからだ。
議論は客観的なもののことについては正しいことができるが、
物語のような間接表現については、
手応えを見失う。
僕は、道徳は、曖昧なものを残す時間として、入れるべきだと思う。
儒教的世界観だろうが、村八分的な民族的道徳だろうが、
仏教説話だろうが、キリスト教説話イスラム説話、
色々あって構わない。
何故なら、日本は神仏習合の国だからである。

道徳教育の喪失が、
正解のない「空気を読む」を正義としたのではないだろうか。


良い、悪い、は、ヒーローと悪役だけに限らない。
むしろ、残酷で悲惨な世界には、
ヒーローも黒いマントの分かりやすい悪役もいない。
良い、悪い、は、もっと分かりにくく、輪郭がなく、
それでいて強烈なものである。


以下、僕なりの、「良いストーリー」の条件。

○カタルシスがあること。

自分の中のモヤモヤが、スッキリする効果があること。
アクション映画を見てスカッとするだけではない。
悪役の敗北と正義の勝利を描くだけでは無理だ。
人の暗いどろどろした部分が、起承転結に感情移入することで、
何故だか洗い流される。
カースタントがなくても、ヒーローが出てこなくも、
本当に良いストーリーにはそのような浄化の力がある。


○そもそも面白いこと。

道徳の時間が退屈だったのは、善だけを取り出していたからだ。
その偽善がちょっとうっとおしかったのだ。
(やらない善よりやる偽善のほうが、世界を良くすることもある、
そういうことを知ってからは、偽善も大事である)
偽善が退屈なのは、世界の悪いことや悲惨さを、
「隠蔽している」感じがするからである。
世界は善や好意に満ちているのです、
みたいな新興宗教が嘘臭いのはこのせいだ。

つまり、面白いことには、必ず悪や悲惨や残酷が必要だ。
エログロナンセンスは、良いストーリーの必須条件なのだ。
できの悪いディズニーを例えばなしに出したのは、
子供に見せられないものを全部隠蔽して、偽善世界に陥っている、
ということを言おうとしたのだ。

しかし、エログロナンセンスをどや顔で出されても、
それが面白いとは、限らない。
これが難しいところである。

(映画「いけちゃんとぼく」の失策はここだ。
冒頭のいじめシーンでは、いけちゃんが頑張って止めるのだが触れられずに悔しがる、
というシーンを想定して撮影していた。
ところがプロデューサーの指示でそれがなくなり、
単なる悲惨ないじめになってしまった。
僕は「悲惨ないじめをファンタジーが救おうとするが、
それは現実に無効で、気休めにしかならない」ことを、
冒頭のいじめシーンで描こうとした。
しかし実力及ばず、プロデューサーに負けた。
プロデューサーは、CGのお金を減らすことだけを考えていた。
「悲惨な現実を想像の世界で癒す子供が、
現実と向き合うことによって、想像と別れる」という僕の試みは、
CG予算の8000万削減によって、殆どのCGをカットせざるを得ず、
悲惨なシーンだけが丸裸で残ることとなった。これは遺憾である。
後半のものは残せたので、あの映画は冒頭から前半が、失策である。
プロデューサーは、悲惨ないじめにして分かりやすくするべきと、
どや顔で言った。そのどや顔を僕は一生忘れないだろう)


面白いとは、なんだろう。
それは一生考えることである。
ひとつ言えることは、それは「コンセプト」という形で、
目に見える面白い形になって、作品に現れることである。

コンセプトは、
宴会を例にとると「今回の趣向」だと思うと良い。
新人の芸、全員でコスプレで飲む、
湾岸クルーズ貸し切り、
普段と上下関係を逆にする飲み会(これ結構楽しいよ)、
箱根温泉旅行、
特殊な店で飲む、
今回はゲームに挑んでもらいます、
などなどである。
本来の「飲んで話す」以外に、
ガワの目玉を用意しておき、まずそれに注目を引いて人を集め、
さりげなくいつのまにか本題に滑り込むようにさせるのだ。

コンセプトも本題も、面白いことが、面白いことの条件だと思う。


○テーマが良いこと

そして本題のテーマである。
テーマとは何かについては、沢山の議論を過去にしているので参照されたい。
これが、
過去に見たような陳腐なテーマでないこと、
かつ、
誰もが考えていたことだが言葉になっていなくて、
それだ!と手を打つようなものである、
ことが大事だ。

誰もが、が大事で、それは「世界や人々を良い方向へ変える」
に関係するからだ。

そのことを、間接表現でするから、
言葉による理解ではなく、
心による理解になるのである。

そのテーマを、カタルシスで受けとるのである。



つまり、良いストーリーとは、
面白いコンセプトが誘蛾灯になり、
それを楽しんでいるうちに、
いつのまにか感情移入して、
世界の展開に引き込まれて、焦点を追い続け、
カタルシスがあることで、
テーマを心で理解することだ。

それが、世界や人々を良い方向へ変えるものが、
良いストーリーだ。


抽象的すぎて、具体が見えないって?
実写「風魔の小次郎」、小説「てんぐ探偵」が、
オススメですよ!
(DVD全巻購入でも僕には138円しか入らないから、ステマではない)

あと、僕のベストムービーとワーストムービーも過去記事にあるので、
参照されたい。


良いストーリーは、
単に面白いだけじゃない。
単に深いだけじゃない。
単に人気があるだけじゃない。
単に涙が流れて止まらないだけじゃない。
単に原典を離れて人々に伝えられるだけじゃない。
単に世界を良くするだけじゃない。
その全部だ。



僕は小説「てんぐ探偵」は、
それに該当すると思っているからこそ、
こうやって必死になっている。
少なくとも、今の僕の出力の100%を使っている。
(序盤書き直したいんだけど、今は第六集優先…)

僕はワンピースは、何かひとつ足りないような気がしていて、
いまいちのめり込めない。
妖怪ウォッチ?しらんがなあんなマーケティングジャリ番。
posted by おおおかとしひこ at 12:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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