2015年03月03日

感情移入とカタルシスの相似形

これから書くことは、上級者向けの内容だ。
しかし、とても本質的なことを書く。

普段から僕の論を読み込んでる人は分かるけど、
一見さんにはサッパリの内容だと思われる。

作品内のカタルシスの構造と、
作品と観客の間にある感情移入の構造には、
相似形があるという話。


これはどちらも、
「人間は、自分の世界Aで内的問題を抱えていたとき、
全く違う世界Bで、Aと似たような問題を解決すると、
その経験をもとにAでの問題を解決出来るようになっている」
という人間の特徴が関係していると思う。

相変わらずロッキーの例。
まず作品内の話。

ロッキーは、彼の現実世界(人生)で問題を抱えている。
それは、自分が何者にもなれていないことである。

全く違う世界Bは、この場合これまでの人生とは場違いな、
世界チャンピオン戦である。
「チャンピオン戦に関わるような人生」でもいい。
この世界Bで、ロッキーは「誇りある自分を見せる」ことに成功する。

するとどうだ。世界A、即ち実人生でも、誇りを持てるようになったのだ。


物語内での、
世界Aを日常、
世界Bを非日常(スペシャルワールド)という。
世界Aは、一幕で主に描かれ、
世界Bは、二幕で主に描かれる。
(三幕は、Bでのファイナルアンサーと、
Aへの帰還である)

主人公は、日常Aでは解決出来なかったのだが、
非日常Bでの冒険の中では、解決出来たのだ。
だからAでも解決出来るようになっているのだ。
これを、成長とか変化などといい、
それを上手く描くことが、内的カタルシスを作ることである。
Bの解決が、映画的(外的)クライマックスの最高の瞬間であり、
それがAの解決をも同時に意味するのが、ベストである。



一方、我々観客と作品の関係を見てみよう。
我々にとっては、Aが現実の生きてる個人の人生、
Bが映画内の架空の出来事(主人公の冒険)、
ということになる。

感情移入がとても上手く行き、
映画内でカタルシスが発生すると、
観客にも変化が起こる。
Bでの問題解決のおかけで、
Aでの問題解決が出来るようになるのだ。

我々はボクサーでも世界チャンピオン戦の経験もないが、
ロッキーを見れば、
自分の人生に誇りを取り戻せるように、
闘い(ボクシングではない、人生の闘い)をしたくなるのである。


映画から影響を受けるとか、真似するとかのレベルではない。
もっと深いところで、ロッキーの闘いと、
自分の人生を重ねるのである。
(たとえ表面上、生卵を飲んだり、
ロッキーのテーマをかけて腹筋したりすることであっても)
我々はボクサーになりたいのではなく、
ロッキーのように誇りを取り戻す人生を送りたいのである。



この相似形に言えることは、
AとBが近くてはダメで、遠すぎてもダメだと言うことだ。

サラリーマンがサラリーマン主人公の映画を見ても、
実人生で気になることを思い出して気が滅入る。
サラリーマンが辛いなら、剣と魔法の世界やボクサーの話ぐらい遠いほうがいい。

遠すぎてもダメだ。
おっさんにとっての女子小学生の内面、
日本人にとってのブラジル人の内面、
庶民にとってのロスチャイルド家の内面、
文系にとっての数学者の内面、
普通の人にとっての統合失調症の内面、
などなどは、遠すぎて感情移入のきっかけが難しいだろう。

しかし感情移入のコツにひとつ書いたことがある。
「主人公の抱えたり克服する悩みを、
まるでこれは俺だと思わせるような悩みや弱点を持ってくること」
である。
世界ABの物理的距離が遠くても、
実はその同じだと思える距離が短ければ、
感情移入は行えるのだ。



世界AとBは、
外面的なことは全く違うのだが、 構造や原理が近いものが、
理想だと思う。
ついでに言うと、映画なので、世界Bが、
ビジュアル的に派手だといい。


我々が、日常世界から非日常の映画世界に突入するように、
映画の主人公は、日常世界から非日常世界に突入する。
非日常世界で、日常世界と似た構造の問題を解決することで、
主人公は日常世界の問題も解決する。
それを映画という非日常で見た我々は、
日常世界に戻っても、日常世界に対応できるようになってる。

これがその原理で、理想だ。


この理想に沿うように、
感情移入やテーマや世界設計は、なされるべきなのだ。


感情移入とカタルシスには相似形がある。
我々観客も、映画の中の主人公も、同じ人間であることの証拠だ。

映画の中のリアリティーが足りないと、
同じ人間であることの前提が崩れるので注意されたい。
(我々は人間だが、キャラは人間ではない、などのように)



世界AとBを近づける馬鹿な奴は、この原理を何も分かってない馬鹿者だ。
posted by おおおかとしひこ at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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