2015年03月05日

ヒールとベビーフェイス

ヒールは、悪役のこと。
ベビーフェイスは、悪役に襲われる主人公のこと。
最近使うのか分からないが、
昔は「わるもの」「いいもの」と言った。
(更に昔は「悪玉」「善玉」と言った。
もっと昔はワキとシテと言ったかも知れないが、能まではよく分からないので断言は避ける)

多くの物語では、この両極端の間で、
ものごとがおこる。
つまり、宇宙の一番端と一番端のことである。



アメリカ的な物語はその殆どが、
ヒールとベビーフェイスのコンフリクトである。
(アダムとイブをけしかけた蛇は、踵に噛みつくのだそうです。
そこから悪=踵のイメージ、という説あり)
善悪を含まない物語なら、
アンタゴニストとプロタゴニストと言ったりする。


ベビーフェイスは、その名の通り、
赤ん坊だ。実は意思を持たず、感情だけがある。
ヒールはけしかける。
悪いやつがやって来た、という文脈で、
ベビーフェイスのリアクションを起こさせるのだ。
それが許せないことであるほど、
それが切迫したものであるほど、
それが派手であるほど、
ベビーフェイスのリアクションは、強くなる。

アクションとリアクションの関係だ。
アクションが大きければ大きいほど、
リアクションは大きくなるのだ。

ベビーフェイスにもともと動機はないのだが、
ヒールに先に何かをされたことで、
リアクションの大きさで、
自分の中にある何かを表現するのだ。

友達を殺され、復讐に燃えることは、
友情の深さを表現することになる。
理不尽で狡猾なやられ方をすればするほど、
その反撃は正々堂々とする。それは正々堂々の素晴らしさを表現するのだ。

つまり、ヒールは、ベビーフェイスのリアクションを引き出す係である。
そのベビーフェイスのリアクションを、
最も素晴らしく見せるために、
大袈裟に死ぬのが更に重用な仕事である。

つまり、
ヒールには、けしかける、死ぬという仕事。
ベビーフェイスには、リアクションするという仕事。

単純化すれば、こういうことなのである。


けしかけるのが上手じゃないと、
ベビーフェイスは上手くリアクション出来ない。
逆に、
ベビーフェイスはヒールのけしかけに対してしか、
自分の芝居を決められない。
ヒールのほうが実力がいる、というのは、
そのことをさす。

ヒールのけしかけが、物語をつくる基準になるからである。
先手ヒール、後手ベビーフェイスなのである。



ヒールといっても、
悪とは限らない。

会社の都合による人事異動などは、
悪ではないが、会社員にとってはヒールそのものだ。

ベビーフェイスの順調な人生を邪魔するもの、
であれば、なんでもヒールになり得る。
その場合、アンタゴニストという言い方になるかも知れない。


けしかける→リアクション→死ぬ(退場)は、
1ターンの物語だ。
けしかける→リアクション→逆襲→逆襲の逆襲…
とターンを増やせば、長いバトルになることは想像がつく。
ここに、もう一人ヒールを途中で増やしたり、
もう一人強力な助っ人を出したりして、
話は複雑にしてゆくものである。
そして軍団抗争や、三つ巴などに発展したり、
団体移籍、悪落ち、ベビーフェイス転向などのイベントで楽しませる。
また、先手ヒール後手ベビーフェイスの原則をも覆し、
先手ベビーフェイスという変化球もあり得る。



さて、プロレスも、演劇も、フェイクドキュメントも、映画も、
これらは全て計算された台本でやっている。
リアリティーがなく、本気でやってないじゃん、
と思われるのはダメな台本だ。
台本は、台本がないかのように書くことが一番だ。

そしてあなたは、その台本を書こうとしているのである。


さて、全てはヒールのけしかけがもたらした。
あなたのベビーフェイスは、それにどんなリアクションをするのか?
その両極端こそが、物語だ。
もう少し言うと、コンフリクトだ。

ヒールが悪なのか、はたまた別の何かかは、
あなたのテーマで決まるだろう。
コンフリクトのテーマは、ヒールとベビーフェイス、
アンタゴニストとプロタゴニストの間にあるからだ。



(紫のヅラの人の話から、偉いまともな話になったね)
posted by おおおかとしひこ at 12:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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