2015年03月18日

「心を奪われる」には二種類ある

我々が心を奪われるのは、瞬間的な場面であり、
ストーリー全体ではない。

瞬間的に奪われるから、「奪われる」という言い方をするのかも知れない。
それには、二種類あると思う。


「畏怖」と、「自分と同じものをみつけた瞬間」だ。



自分よりすごいものを見たとき。
人が畏怖を感じるとき。
それは心を奪われる瞬間だ。

巨人をあおぎ見るとき。
多数の圧倒的軍勢の敵を見て、それを蹴散らすヒーローを見たとき。
とてつもない美女を見たとき。(女子は美しいイケメンを見たとき)
ハイパワーの兵器の威力を見たとき。
凄いスピードの乗り物やドラゴンを見たとき。

卑小な自分には到底及びもつかない世界。

圧倒的な美しい自然。圧倒的に美しい踊り。
貴族の世界。セレブの世界。

そのようなものに、人は畏怖する。
恐怖だけでなく、尊敬や好感を伴うと、
畏怖した瞬間に、心は奪われる。

ただ凄いだけじゃなく、恐怖も畏怖には必要だ。
恐怖と尊敬(や好感)の同時のものが、畏怖という感情だ。

「すごい怖い巨大ロボットが飛んできて、
敵を殲滅し、そのロボットが手を差し伸べる」
なんてのはその典型だ。
(先ほどの大天狗のイラストも、ほとんど同じ文法であるが)

「ものすごい上流階級の美女が、何故か俺に微笑んだ」という恋の始まりも同じくだ。
「物凄い戦闘マシンに乗った騎士が、人造人間ファティマと協力し、
物凄い戦闘マシン『黒騎士』を65時間の死闘の上屠った」でもいいし、
「北斗神拳と対になる南斗聖拳のひとつ、スパスパ斬る
南斗水鳥拳の使い手が現れた」でもいい。


畏怖の瞬間、人は心奪われる。
それはストーリーと関係なく、だ。

これは、ハッタリをとてもかましやすい。
つまり一般に思われている「ツカミ」は、
心を、畏怖によるハッタリで奪うのが、一番楽である。
(ストーリーとの齟齬に、その後悩むだろうけど)
たいてい、それはスローモーション撮影になるだろう。

現代のスローモーションの最高の使い手の一人、
ジョン・ウーなんか、そんな瞬間だらけだ。
(一言付け加えると、彼はゲイだと思う。
俺らが女の美しい髪がなびくのを永遠に眺めたいと思うのと同じぐらいの執念で、
彼はアクションをスローモーションで撮っているのだ。
つまり、彼の原動力は「憧れ」である)



もうひとつは、
「自分と同じものをみつけた瞬間」である。

畏怖によって恋した美女が、庶民的な特徴があったりした瞬間などを思い出すと良い。
「他人が自分たちと同じになる瞬間」でも構わない。

畏怖による絵的ハッタリではなく、
芝居で起こすことが多い。

絵的ハッタリは脚本家よりも監督の仕事だが、
こちらは脚本家の仕事である。

「美女が庶民的な特徴があって、そこが好きになる」瞬間の、具体を考えるようなことである。



ドラマ「風魔の小次郎」では、
風魔一族に飯を食わせてみた。
掃除洗濯炊事をさせてみた。
ついでに、渋谷のスクランブルも歩かせた。
テレビを見たりコンビニにもいかせた(台詞の上だけだが)。
漫画の中でのスーパーヒーロー的学ラン忍者を、
「庶民」にした瞬間だ。
貶められた? いやいや、好きになったでしょう?その瞬間。


勘のいい人は、これが感情移入と関係あることに気付くだろう。

畏怖→自分と同じものを見つける瞬間、とやると、
「陥った状況の脱出に興味を持つ」というストーリー上の感情移入と、
違うレベルでの感情移入が起こる。

コツは、このふたつを重ね合わせることだ。


小説版「てんぐ探偵」の序盤をリライトしたい、というのは、
構成の変更やイコンもさることながら、
このような感情移入の仕組みを組み込みたい、ということもある。
ネタバレしてもなお、このやり方は強力な気がする。
その具体が強ければ。



僕がペプシ桃太郎をずっと鼻で笑ってるのは、
出落ち祭りが、全部「畏怖」に寄っているところだ。
鬼の襲って来る所、鬼のビジュアル、
キジのハッタリ、
ロケーションや衣装のオシャレさや音楽のセンスも含めて、
それらは全て「畏怖」の感情を起こすようにつくられている。
一言で言うと「すげえ!」と言わせるようにだ。

それは心奪われる場面にはなるが、
ストーリーの面白さではない。
それを利用して、お話を滑り込ませて行くのが、物語ではある。

ペプシの二弾以降は、
物語に滑り込ませようと思いながらも、畏怖を続けることでしか、
続きを作れていない。まあ、出落ち祭りが飽きられる展開である。


心を奪うことは、とても良いことだ。
それがストーリーにすり替わって行く限り、それはとても有効な道具である。
posted by おおおかとしひこ at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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