2015年03月22日

クリエイターの未熟4

そもそもリニューアル(変わる)ことを扱うことが、
問題なのだ。
何故ならムービーは、時間軸を持つからである。

ポスターならば、リニューアルとデカデカと書いたり、
お洒落に書くといい。「変わる」という点を表現する。

しかし、ムービーは時間軸を持つ線である。
「何から」「何へ」変わるのかが必要なのだ。


つまりこの話の根本の問題は、
線で描く、ストーリーというジャンルに、
点の落ちを持ってきた、
無知にあるのである。


物語は線である。
変化を描く場合、変化前と変化後が必要だ。
そしてそれは、
物が落ちるとか、氷が溶けるとかの、
自然に起こった変化では意味がなく、
「意図的に何かをしたこと」に意味がある。
その結果、変化が現れるのだ。

我々は、変化後を見て、
その意図を読み取る。
これが物語の根本である。


ところが、この無知で未熟なクリエイターは、
変わること、という点を持ってきてしまった。
それが間違いの大元なのだ。

僕は以前服屋さんのCMを作ったことがある。
そこで初めて知ってびっくりしたのが、
服屋さんは、クリエイター集団ではなく、流通屋さんであるということだ。
自社ブランドを作らない場合、
彼らは、他のブランドの服を買い入れて、並べて、売り子に売らせるのが主な仕事だ。
どのブランドのどの服をどれだけ仕入れるかは、
バイヤーという一部のエリートが決める。
それ以外の人は、納品管理をする、
流通屋さんが主な仕事なのだ。
スーパーや八百屋や魚屋と、たいして仕事は変わらないのだ。
(魚屋は、一人でバイヤーから売り子までやるだろうけど)

流通屋さんが、店舗リニューアルをすることは、
実は流通屋さんにとって、はじめてものづくりをすることだ。
僕は服屋さんはクリエイターだと勘違いしていたが、
流通屋さんがものづくりをすることは滅多にない。
店舗リニューアルぐらいしか、ものづくりはしない。
だから、僕は服屋さんはクリエイターとして素人なのだ、
ということに、はじめて気づいた。

さて、ルミネも恐らくそうだろう。
自社ブランド開発をしてるだろうけど、
メインは流通屋さんだろう。

だから、「変わる」ことを、点でしかとらえられないのだ。
もっと言えば、店舗リニューアルなんて、
在庫一掃して、付き合いのあるブランドを入れ換える、
流通屋さんの異動でしかないだろう。
それぞれの微調整であり、
「何から」「何へ」変わるのかを、
一言でコンセプチュアルに表すことなど出来ないだろう。
だから、「変わる」としか、
一言で言えない筈である。

だから、点でしか言えず、
線で描く物語とは、真逆の性質をもつことになる。


対策はふたつ。
ひとつは、線で描くことの出来るように、
「何から」「何へ」の変化であるかを、
ちゃんと描く。
ルミネがどう変わるかを、隅々まで調べあげて反映するか、
あるいはそれらを包括する新しい価値を、でっち上げることで。
(これはブランドメッセージを決めることである。
学級会を思い出せば分かるが、日本人は多数の場合、
明確な意思を決めることの出来ない、玉虫色の民族である。
一方、ブランドメッセージとは、一点を言わなくてはならない。
だから、日本の企業はブランドメッセージを言うのが苦手だ。
表現とは、あることを言うことで、あることを捨てることだ。
日本人は各方面にいい顔をしたいので、捨てることを躊躇う)

もうひとつは、線を諦めて、
点でしか言わないことである。
今の流行りのやり方なら、モーフィングの面白映像集でもつくることだな。


それを、中途半端にやったから、
中途半端な物語になった。
変化前はあった。
「変わる」という動詞はあり、
きっかけの動機もあった。
しかし変化後は明示されていない。
「変わる」という点が結論だからだ。

我々は物語を見させられているから、
自動的に変化後を想像する。
変化前と動機を示されれば、
自動的に、変化後は「需要のある自分になったこと」だ。
それがセクハラ(型にはまりすぎ)だと言われているのだ。


線で描くべきジャンルに、点を持ち込んだことが、
失敗の原因だ。
知らなかったのなら未熟だ。
知っていてミスしたのなら未熟だ。
これだけ丁寧に言っても分からないなら、さらに未熟だ。

昨今のCMは、
ストーリーテラーじゃない人が、
ストーリーに点を持ち込んで、
ストーリーを語った気になっているものが散見される。
俺が鼻で笑っている、ペプシ桃太郎もである。

素人が増えた。
悪貨は良貨を駆逐する。
無知がはびこり、文化は滅ぶ。
posted by おおおかとしひこ at 01:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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