前の記事でいうところの、誇張と省略がよく効いた、
物語的なドラマチックさがあった。
映画化決定というネットの書き込みも一杯見た。
これを分析してみよう。
「何が」現実を物語的に変えるのか。
今回とても分かりやすかったのは、
対立点である。
「古いやり方か」「新しいやり方か」に、
絞ったことが物語的だった。
それは、「創業者」対「一度外で学んで経営に帰ってきた者」
という設定や、
「アドバイザーをつけ、トータルコーディネートを勧めて一括で稼ぐ」
対「それをやめて自由に見たい要求に答える」
というやり方の違いが後押しする。
父対娘の構図も絵になった。
裸一貫で戦後から作り上げた職人vs現代的経営の立場も分かりやすいし、
肉体や人柄が持つ古い説得力vs肉体的説得力はないが美人で知性が勝る
キャラ立ても良かった。
「経営は人」という昭和的価値観(僕は個人的にこちらが好きだ)
vsCEOとかプロキシファイトとか持ち株会社とか外資とかの、
門外漢からはさっぱり分からない経営的価値観の対立もあった。
これらの全ての具体的対立点が、
旧vs新の軸上にあることが、
この対決が物語的だったことだと僕は思う。
例えば自民党vs民主党の選挙戦のとき、
こんなに分かりやすく対立点が見えてこない。
何が主張の違いで、何を目指しているのかも複雑だ。
それは、
Pに関してはA1vsB1
Qに関してはA2vsB2、
Rに関してはA3vsB3、
などのように、対立点と対立する主張が表のようにリストアップ出来ず、
しかも、Aの組と、Bの組が、
それぞれひとつの主張に貫かれておらず、
しかもその主張同士が対立になっていないからだ。
物語的にするには、
そのように揃えればいい、とこれで分かる。
AとBが全て同じ主張で統一され、
ことごとくの対立点がそれで対立していることだ。
大塚家具の対立劇は、そのような構造を持っていたのだ。
旧vs新である。
物語においては、強調と省略がなされる。
今回の例で言えば、
旧vs新の対立を強調するように、各ディテールがあったこと、
旧vs新の対立に関係ないものは省略されたこと、
が、より物語的にした。
母の存在とか、ききょう企画というよく分からない組織や、
長男次男がどちらにつくかとか、
旧vs新の対立構造につくとややこしくなるものは、
殆ど排除された。
(最初はあったけど、物語が進むことで排除されていった)
省略は、代表的な強調の方法である。
(逆に、物語を分かりにくくしたいのなら、
分かりやすい構造にならないように、省略をせず、
複雑な現実を出してくるとよい。
僕は選挙戦は、わざと難しくしていると勘ぐっている)
物語の代表的な小道具は、ティッキングクロックである。
ダイナマイトについている、カチカチ鳴る時計のこと。
つまり、締め切りが存在し、そのときに大爆発がある、
と、分かった上で行動することだ。
これは、物語をドラマチックにする代表的な方法だ。
好きな子の夏休み最後の転校の日まで、
ひと夏最高の友達関係を続ける名作「この窓は君のもの」がある。
○○までに○を用意せよ、さもなくば、という爆破予告、
一週間後までに家賃を払わないと追い出される、
(逆にインド映画で3億円を期日までに使い終わらないとダメという話があった。
食っても飲んでもなかなか減らなくて、最後映画を作りはじめて大爆笑)
などなど、
ティッキングクロックは、話を盛り上げるための基本的道具だ。
日本の脚本術では、締め切りとか時間的枷と言われる。
カチカチと進む、はらはらしたイメージが大事なので、
僕はティッキングクロックとまんま呼んでいる。
今回にもティッキングクロックがあった。
株主総会の開催だ。
この日に決着がつくというのを目標に、
舌戦がなされた。色々な行動があった。
すべては分かりやすい動機がある。
社長になり(外的動機)、自説の正しさを示すこと(内的動機)だ。
ティッキングクロックは、物語の後半、
とくにクライマックス直前に用いられることが多い。
そんな場面あったっけ、と言われてはじめて驚くが、
名作「ゴースト/ニューヨークの幻」にもそれがある。
親友である犯人が「12時までに金を振り込め、さもなくば恋人を殺す!」
というクライマックス直前の台詞である。
これが第二ターニングポイントになることは、前書いたような気がする。
株主総会で、全ての決着を賭ける、というティッキングクロックによって、
この物語的対立は、物語的時間軸を持ったのである。
物語的な要素はまだある。
「危険」だ。
このままでは会社が潰れる危険と、
対決に破れた方は社会的生命を失う。
このままでは全員死ぬ!
その為にどっちかをリーダーにしろ!
ただし、リーダーになれなかった方は死ぬ!
リーダーになったからといって、全員が救われるとは限らない!
そこに、ティッキングクロックが加わる。
3/27(金)までに決断せよ!
だ。
これが物語の基本構造を持っているため、
劇場は盛り上がったのだ。
我々物語作家が学ぶことが、
沢山あったと思う。
ちなみに、時間軸が起承転結を持っている。
父の創業した会社が傾いた。
娘が継ぎ、一時回復させたが再び業績落ち込む。
父が返り咲くが、落ち込み止まらない。
娘が返り咲くが、まだ結果は出ていない。
父が決着を申し出る。
ティッキングクロックの提示。
様々な舌戦があり、
ついに決着。
この話の三幕構造はどこだろう。
第一ターニングポイントは、
娘の業績が落ち込むところ、
第二ターニングポイントは、
決戦前夜にあるかな。
(話の長さによっては、ティッキングクロックが
第二ターニングポイントになることも)
何故盛り上がったのか。
物語の要素を、沢山備えていたからだ。
強調と省略がほどよく行われ、
対立点が物語的になり、
ティッキングクロックがあり、しかも危険があったからだ。
それまでの経緯がバックストーリーになっていたことも作用した。
ちなみに盛り上がったのは、
ティッキングクロックの提示以降である。
(後半の盛り上がりと同じ)
我々が学ぶことは、沢山ある。
まさか、誰かが分かりやすく書いたシナリオ?
(ネットの書き込みで、
実は親父が娘に継がせる為に、最高の舞台を用意し、
自分が悪役を演じた、というネタがあって爆笑した。
上手いなあ。物語的だ、という皆の直感を上手くネタにしている)
(ちなみに、僕は大塚寧々と田辺誠一夫妻のCMを監督しましたが、
そこで知り得た情報に関しては漏らしてません。
テレビの前の立場で、今回の報道を劇場で見た上での、
脚本家としての分析を書いています。
勿論大塚家具の正式名称がIDC大塚家具であることは知ってますが、
一般人として発言しています。物語中の登場人物にするため、
文中は敬称略です)
2015年03月28日
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